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アオダイショウ

2013/08/01


 アオダイショウは、筆者にとっては初めて飼育を手がけてヘビです。友人宅に出現した幼蛇をいただいて、それを飼い始めたのですが、きちんと飼おうとして専門書を購読したり爬虫類ショップを見つけていろいろ教わったり、あれこれ奮闘しました。アオダイショウの幼蛇1匹のために、ずいぶんいろんな情報を集め、ヘビをはじめ様々な爬虫類についても知識が増えました。
 もともと生物の進化について研究していたので、虫に始まって魚類、両生類まで飼育してまいりましたが、爬虫類の飼育に踏み切るのがなかなかでした。カメ以外の爬虫類となると、やはり家族の同意を得るのが並大抵じゃありません。ヘビなんて普通は一般家庭では飼わない、らしいんですね、常識的には。
 ヘビの飼育環境作りや強制給餌についても、この小さなヘビで経験し、それは今も役立っています。野生採集個体でしかも幼蛇が、人の手から採餌するまでに馴れる様子は、まさに驚異的でした。爬虫類飼育のベテランの方々にとっては当たり前なのでしょうが、爬虫類が人に馴れる、人を見ると寄ってくるようにさえなるという事象は、当時の僕の理解を超えることで、爬虫類に対する認識がずいぶん変わりました。
 筆者が若い頃に、人聞きや書物から教わった知識では、爬虫類は冷血動物で哺乳類のような大脳皮質を持たず、彼らの行動のほとんどを支配しているのは本能であり、後天的な学習能力は極めて小さいというものでした。昆虫類や様々な節足動物、軟体動物などを見ていますと、先天的に備わった本能でほぼ行動の全てをまかない、環境に順応し、高度な社会生活さえ可能にしているので、爬虫類もそれに近いのだろうと思っていました。魚類の飼育でも彼らが人を見ると集まってくるようになるという事象を経験しましたが、それは条件反射でおおむね説明できるものでした。
 しかし実際の爬虫類は、高い学習能力を有し、体温の維持を外気に委ねているものの、かなり恒温動物に近い生活パターンを有していることが解りました。このことは、中生代に絶滅したより進化的で巨大な爬虫類たちの暮らしを類推するのに大いに役立ちました。彼らを滅ぼしたのは巨大隕石の衝突であるという説が今は有力なのだそうですが、大陸移動により長きに渡って続いた中生代の高温多湿な気候が失われ、氷河が進退を繰り返す時代になったことが原因であると理解できるようになりました。
 中生代の恐竜や大型爬虫類たちは、当時の高温多湿を利用して外温動物でありながら、内温動物と同じような高い代謝と知的な学習生活を営んでいたのです。恐竜の生きていた姿を想像するには、現生の爬虫類よりも大型哺乳類を参考にする方が適切です。中生代の気候は彼らに充分な体温を与え、そのおかげで彼らは哺乳動物ほど大量に食べなくても高い代謝を維持でき、あれほどの巨大動物が大群を成しても食料難に陥ることはなかったわけです。
 かつてスティーブン・スピルバーグ監督が、映画「ジュラシックパーク」シリーズで描いて見せた恐竜の姿、その群れの様子は、ひじょうにリアルでした。
 動物を実際に飼育するというのは、何にも優る教科書です。それは動物に対して理解を深めるのみならず、私たちの生活環境に対する認識をも新たにしてくれます。

縁の下の長友

2013/08/10


 筆者がクソガキだった頃の昭和中期は、大阪のかなり都会化が進んだところでもヘビはけっこう身近な生き物で、筆者にとっては興味の的でした。あの長細い手足もない不思議な動物が、なんであんなに自由自在に俊敏に動けるのか、カエルやカメのようにやすやすと捕まえられないのか、まったく謎でした。
 筆者にとって身近なヘビといえばやはりアオダイショウで、同じように身近なヘビのはずのシマヘビは、山や林に行かないとなかなか姿を見ることができませんでした。シマヘビより大型になるアオダイショウの方が、カエルやトカゲよりもネズミを当てにして人家付近に集まる傾向があったのでしょうか。当時は人家はまさにネズミの棲息地でしたから。
 あと、よく見かけたのはマムシやヒバカリですか。両者はいずれも山間に行かないと姿を見ることができませんでした。ちょっと変わったところでは、シロマダラという小型のヘビを、これは筆者の友人宅の庭に出現したのをいただいたことがあります。その友人宅も山がちなところに建っていました。現在では人家からネズミはことごとく撤退してしまったので、アオダイショウもまた山に帰って行ってしまいました。
 人家のアオダイショウは主に縁の下に棲んでいたように思います。一方、ネズミの方は天井裏で運動会をしていて、夜など眠っているとコトコトいう彼らの足音が日常的に聞こえていました。筆者の父母は、ネコに追いかけられるネズミの足音だと言ってました。つまり当時、白黒テレビで見ていたテレビ漫画「トムとジェリー」が天井裏で繰り広げられていたわけです、父母の言を信じるならば。だとしたら筆者らが留守にしている時は、我が家のトムとジェリーは、家の中を思い思いに駆け巡っていたのでしょうか。確かに近所は野良ネコだらけで、子供たちはそれを捕まえて連れ回したりしていました。当時の野良たちは、人間の子供には気を許していて、やすやすと捕まえられたものです。
 当時は、ベビーブームと言われる時代で、近所にはたくさんの子供たちがいましたが、それでも小中学生が学校へ行っている時間などは、下町にも喧騒が遠のくいとまがありました。そんな時、人家のヘビたちは、縁の下から這い出してきて日光浴をすることがあったようです。子供たちにたまにお菓子をくれる近所のばぁちゃんが、ヘビの日光浴の目撃談を語ってくれました。実際に筆者も遊び場からものを取りに帰宅した折り、大胆にも玄関先でとぐろを巻いているアオダイショウに遭遇したことがあります。捕獲する格好のチャンスと手を伸ばすと、猛然と飛びかかって来て、筆者がひるんだすきに、縁の下に逃げ込んでしまいました。
 ヘビは日光浴しますよ。食事をしたあとなどは、体を温めた方が消化吸収力も高まるでしょうし。でも、ヘビの飼育には日光浴用の設備(バスキングライト等)は不用だとされています。筆者もヘビの飼育に照明器具は使用しません。でも、弱い紫外線を発する爬虫類用の照明くらいあれば、ケージ内の見栄えもよくなりますし、良いかも知れませんね。ただし、小さなケージだと温度が上昇しすぎてヘビが蒸し焼きになってしまうので、充分な大きさのあるケージと温度チェックはかかせません。
 でもまぁ、基本的には夜行性の動物なので、彼らにとっては縁の下の暗がりの方が、安住できる場所なのでしょうけどね。あるとき筆者は、ヘビの楽園を求めて自分の家の縁の下に潜り込みました。残念ながらヘビの楽園は見当たりませんでしたが、1頭のアオダイショウとバッタリ出くわし、人の来ない場所とタカをくくっていた彼は、すっかり油断していたらしく、筆者の手にむんずとつかまれることになったのです。「うっしゃあ!」と叫んで匍匐交代で縁の下から這い出てくるクソガキの姿を想像してください。
 今から思うとたまたまヘビの首根っこをつかんだおかげで、噛まれることもなく、代わりに腕にしっかり巻きつかれて子供の力ではそれを引き剥がすこともできませんでした。捕まえたまでは良かったけれど、その後の計画がなかったので、ヘビを収容するケージもなければ、応援もいません。ほこりまみれになりながら、腕にしっかり巻きついたヘビを見つめて途方にくれるだけでした。これほどの力で腕を締め上げる動物なんて初めてでした。捕獲は諦めてとりあえず腕の安全を確保した方が良さそうです。そう思ってヘビを握る手をゆるめたのですが、こぶしごとがんじがらめにされていて手を開くことさえままなりません。
「おぅっ、えらいことになってるな」近所で家を建てていた大工さんが近づいて来ました。
「とれへんねん」筆者は助けを求めました。
「そりゃ、あれだ。ぼんの手を餌だと思って絞め殺そうとしてるやで」
 ピンチです。テレビで見たヘビがカエルを飲むの図を、筆者の可愛らしい手で実践しようとしているのです。ヘビに手を飲まれたとあれば、またぞろ母ちゃん激怒です。なぜだかヘビに飲まれるよりも母ちゃんの大目玉の方が怖かったですね。
「とってぇ」と情けない声を出すと、大工さんは、よっしゃ、と言って、手をパンパンたたき、アオダイショウと格闘し始めました。大人の力はすごいです。あれほどガッチリと筆者の腕をホールドしていたヘビが、荷造りを解くようにほどけて行きます。
「なんでお前、ヘビにまかれとんねん」荷ほどきしながら大工に尋ねられ、捕まえて飼おうと思ったとうっかり答えると、「こんなもん飼えんわ。夜店で売ってるちっこいのにしとけ」と忠言されました。
 筆者の手を離れたアオダイショウは、筆者の身長を上回る長さでした。大工さんは、その尻尾をつかむと、棒切れで前の方を支え持ち、そのまま近くの小川に捨ててしまいました。大工さんのヘビの扱いがじつに様になっていて、かなり憧れましたね。ヘビは、ドロドロの汚い水の上をスイスイと泳いで行きました。小川といっても流れの悪い水路で、家庭の下水が流れ込み、ネズミの死骸が浮かぶひどい水域で、のちにコンクリートのフタで埋められてしまうのですけどね。その水路の閉鎖と共に、ヘビもネズミもご近所から姿を消してしまいました。

 アオダイショウに締められた腕の感触は、かなり長い間残っていてました。
 また、大工さんに教わった「夜店で売ってるちっこいの」には、けっきょく出会えないままでした。筆者の古いいい加減な記憶では、父かあるいは親戚のおじさんに、ペットとして連れ歩く小さなヘビの話しを聞いたことがあるように思うのですが、今の今まで確認できていません。むかしそういうヘビが売られていてたという情報をお持ちの方は、ぜひ教えてください。

十姉妹無残

2013/08/16


 筆者が幼少だった頃のお話し。当時は現在のように様々な生き物がショップに並ぶような社会情勢ではありませんでしたが、小鳥の飼育は今よりも盛んで、多くの家庭が小鳥を飼い、ペットショップには必ず小鳥がいて、小鳥の専門店もありました。今はなんで小鳥の飼育者が減ってしまったのでしょうか。世界中の多くの動物がどんどんペット化されるなか、小鳥の需要が減ってしまったのはなんとも不思議です。一頃、鳥インフルエンザが世間を騒がせたことがありましたが、それ以前から小鳥の姿は一般家庭から徐々に減っていたような気がします。
 で、小鳥の飼育が盛んだった昭和時代の話しに戻りますが、筆者も親戚のおじさんに分けてもらった十姉妹(ジュウシマツ)という小鳥を飼っていました。
 ある時、筆者が繁殖に成功したジュウシマツを、隣家におすそ分けしたところ、数匹いた小鳥が一夜にしてヘビに平らげられるという事件が発生しました。隣家では鳥カゴをベランダに吊っており、大きなアオダイショウがやすやすとその中に侵入して、豊かな晩餐にありついたというわけです。それがなぜアオダイショウの仕業と知れたかというと、推理や憶測ではなく、ご本人が朝まで鳥カゴの中に居すわっていたわけです。満腹になった彼は、鳥カゴを脱出できるほどスリムではなくなっていたのです。
 ジュウシマツたちには可哀そうなことをしましたが、カゴの中のアオダイショウはなかなか可愛い顔をしていました。おとなたちはプリプリ怒っていましたが、筆者にはその神の使いが神々しくみえました。祖母が筆者にヘビは神の使いであると教えてくれました。
 ヘビは水だけで何ヶ月も食せずとも生き長らえると、テレビで言ってました。それにカエルや鶏卵くらいなら調達可能です。時折カエルを捕まえてきて、時折冷蔵庫の鶏卵を失敬すればへアオダイショウの飼育は可能なのでは、と考えた筆者は、これ飼ってもいい? とカゴの中の彼を指さし、母親に物欲しげな視線を送りました。彼女はどえらい剣幕で激怒しました。「アホか、ヘビなんか飼うバカがどこにいる。気持ち悪い」アホとバカを合わせて浴びせられるなんて、えらい言われようです。……神の使いなのに。のちのそのことを祖母に話すと、神の使いは閉じ込めてはいけないと諭されました。
 そして現在は、祖母の言いつけを守らずに、様々なヘビをケージに閉じ込めて喜んでいるわけですが、今から思っても、ヘビを飼いたいと思ったあの頃の筆者に感心します。一般家庭でヘビを飼うなんて、当時は聞いたこともありませんでしたからね。

ヘビ塚の話し

2013/08/19


 世界中の様々な動物がペットショップに並ぶようになった現在、ヘビが一般家庭で飼われることもそれほど珍しいことではなくなりつつありますが、逆に日常生活の場からヘビの存在が遠ざかってしまいました。筆者が幼かった昭和中期は、ヘビはかなり身近な生き物で、家の近くでもその姿を見かけたり、脱け殻を見つけたりしました。おとなたちの口からも、アオダイショウやマムシやシマヘビの名前がしばしば発せられました。
 筆者の父親も、ヘビ塚の話しやカラスヘビという漆黒のヘビの話し、三角頭は毒ヘビという話しをよく聞かせてくれました。ヘビ塚話しというのは、筆者の父が福井県に住んでいた彼の子供時代の逸話で、墓地の入口のところにある石塚から毎年冬眠から覚めた子ヘビがたくさん這い出してくることから、土地の人たちの間でそう呼ばれるようになったというものです。冬眠を終えた子ヘビがウジャウジャと石垣の隙間から這い出てくる様子を想像して、幼少の筆者は胸をときめかせたものですが、それが事実だとすると、ヘビの子供は孵化後の最初の冬を集団で越冬することになります。これは興味深い生態です。父親は、塚の下に自然にできた洞穴があって、そこがヘビたちの産卵場所にもなっているとも言っていました。しかしながらヘビには卵の状態で越冬する習性はないので、孵化後の幼蛇が冬が近づくとそこに集まることになります。産卵場所と越冬場所が多くのヘビで共通しているということは、偶然というより、幼蛇たちが自分の生まれた場所を覚えていて最初の冬を過ごす場所にそこを選ぶということなのでしょうか。あるいは母親も自分の生まれたところを忘れず、そこに産卵しに来るということでしょうか。外温動物であるヘビに体温はありませんが、身を寄せ合うことである程度の防寒効果を期待できるかも知れません。北米大陸に棲息するガータースネークも集団で越冬することが知られていますから、孤高の生き物であると信じられてきたヘビにも、そうした集団生活の習性があるのかも知れませんね。
 ただ、棲息個体数の少ない都会のヘビなどでは、こうした習性も失われつつあるかもです。あまり聞きませんよね、ヘビの大量発生なんて話し。もしもご存じの方がいらっしゃればお聞かせ願いたいです。幼蛇にとって孵化後最初の冬は大きな試練です。多くの幼蛇が冬の厳しさに耐えきれず死去することでしょう。しかし集団越冬の習性があれば、それを脅かす存在がいなければ、幼蛇の生存確率は向上します。
 ちょっと調べてみようと思ってパソコンをたたいてみますと、ヘビの集団越冬に関する記事が、ネット上で何件かヒットしました。残念ながら幼蛇の集団越冬というのは見つけられませんでしたが、ヒバカリという小型のヘビの集団越冬に関する記載を見つけました。小型のヘビは幼蛇と同じで外気の温度差の影響を受けやすいので、集団越冬は生存率を高めるのに有利でしょう。
 あとは、筆者の父が言っていたような、ヘビの産卵場所というものが存在し、言わばヘビの営巣地みたいなものがあるのかどうか、幼蛇たちは営巣地を匂いで見つけ越冬場所にそこを選ぶといったことをするのか、いろいろと興味がわいてくるところです。
 幼蛇に限らずヘビは集団越冬するのだという知識をお持ちの方もいるかも知れませんが、筆者の父によると、春になってヘビ塚からわき出るのは子ヘビたちだったということです。集団越冬は防寒には適していますが、生きた獲物を捕食するヘビたちにとってテリトリーや分散棲息は重要です。なので、幼蛇だけに集団越冬の習性があるというのも理に適った話しだとは思うのですが。

抱卵

2013/08/20


 ヘビの抱卵については、多くのヘビがその習性を持つようです。筆者もヘビの飼育を手がける前までは、図鑑の写真等でヘビは抱卵するものだと思っていました。ところが、飼育下ではヘビの抱卵はあまり見かけたことがなく、産卵を終えてシェルターから出てきたネルソンミルクスネークのメスなどは、再びシェルターに帰ると、自分が産んだ卵をことごとく平らげてしまったしまつです。まぁ、これには筆者が観察が加わったせいもあって、そのメスを一概には責められないんですけどね。でも、産んだ卵が期せずしてそのメスの腹の中に帰ってしまうなんて笑い話にもなりません。ともあれヘビの飼育をし始めてから以降は、ヘビの抱卵にはあまり意識が向かなくなりました。筆者宅でしばしば産卵しているコーンスネークも抱卵の様子を見たことがありませんし、ヘビも基本的には産みっぱなしなのだという認識の方が強くなりました。
 で、飼育下でアオダイショウのメスが産卵した卵をそのまま抱卵しているのを見つけ、ちょっと感動しました。なんか、愛情みたいなものを感じるじゃないですか。
 アオダイショウに抱卵の習性があるのだとしたら、その理由は、卵を外敵から保護することでしょう。外温動物であるヘビに卵を温める能力はないでしょう。あるていどの保温と保湿の効果は期待できるでしょうが。そして孵化には50日ほどかかりますが、その間、抱卵し続けることは、基本的に無駄な動きをしないヘビにとっては造作もないことでしょう。ただ、充分に水分補給していなかった場合は水を飲みに行かないと、50日間の乾きとの戦いはきつすぎます。
 飼育下では、人が観察したりすることもあってか、母親が孵化まで抱卵し続けることはあまりないと思われます。また、産み落とされた卵を飼育者が取り上げてしまっても、母ヘビはたいして抵抗もしませんし、すぐに産卵のことなど忘れて平素の暮らしに戻ります。ほとんどの飼育者は、アオダイショウの繁殖には、卵を母ヘビから隔離して管理しているでしょう。


 ロイヤルパイソンの繁殖では、卵を取り上げたあと、母ヘビを平素の暮らしに戻すのに、ちょっと工夫が必要であると言われています。ロイヤルパイソンの場合は、抱卵意識がかなり強く、卵を取り上げられた母ヘビは、卵を探し回り、産卵で消耗した体力を回復させるべく給餌しても食べようとしないことが多いと言います。飼育者は、母ヘビを充分に水浴させ、ケージも丸洗いして、繁殖の際の匂いを消して、メスにそれを忘れさせるそうです。
 かなり強い抱卵の習性を持つヘビでも、水を飲みに卵を離れたり、そのまま抱卵することを忘れてしまったりと、ヘビの抱卵は痕跡程度の習性であると思われます。ヘビが進化の過程のいつ頃、抱卵の習性を身につけたのか判りませんが、ヘビを分化した大むかしのトカゲにその習性があったのでしょうか。現生のトカゲを見る限り、あまりそのようには思えないのですが、恐竜をはじめ大むかしの爬虫類の方が、形態的にも生態的にも進化的なものが多かったのも事実ですから、ヘビの抱卵の習性が祖先ゆずりのものである可能性はあるでしょうね。それが今ではほとんど形骸化してしまったのかも。
 ムカシヘビ上科の大型のニシキヘビの仲間には、自ら体温を発して卵を温める習性のあるものがいます。その種について知識と経験の乏しい筆者には、そのヘビが日常的に恒温性を有しているのか、抱卵時にだけ発熱するのかは解りませんが、外温動物(変温動物)として知られるヘビが体温を発するのは驚きですね。中生代の恐竜の中にも恒温性を持つ仲間がいたかも知れませんね。
 基本的に一般家庭で飼えるサイズのヘビの繁殖を試みる場合、抱卵という習性に委ねることはあまりありません。飼育下という特別な環境で、それがどれだけ上手く行くか解りませんし、筆者が経験したような母ヘビによる食卵、あるいは孵化した幼蛇が母ヘビに餌として認識されちまうような事故も充分起こりうると思います。

卵の管理

2013/08/21


 あるサイトによると、ヘビの飼育下での繁殖には、人工孵化と自然孵化があるそうです。筆者としてはどちらも飼育下での出来事だから同じと思っていましたが、サイトの説明を読んでなるほどと納得させられました。
 人工孵化とは卵を取り上げて親から隔離して管理するやり方で、自然孵化とは卵を親と同居させたまま放置し、孵化まで管理を親に任せるというやり方だそうです。抱卵の習性のあるヘビの場合は、母親は孵化に至るまで卵を抱いて管理しますから、飼育下でもその方が良いように思えますが、多くのヘビの抱卵の習性はけっこう曖昧で生態としては痕跡程度の場合が多く、途中で抱卵を放棄してしまうケースも少なくありません。なので、飼育下での繁殖率を高めるには、卵を親から隔離して管理するやり方の方が適切です。実際にほとんどの飼育者あるいはブリーダーが人工孵化に依って繁殖を手がけていると思われます。
 アオダイショウの場合も、自然孵化にはあまり期待できないと思います。場合によっては一旦卵を離れた母親が、再び卵を見つけるとそれを食べてしまうこともあるでしょう。筆者もネルソンミルクスネークで、母親による食卵を経験しています。あの時は、自然孵化に挑戦したわけではなく、母体に卵が残っている気がしたので、卵をそのままに産卵床のあるケージにメスを戻したのですが、それがあだとなってしまいました。
 筆者のところで自然孵化で繁殖に成功した例としては、トランスペコスラットスネークがあります。しかしメスはずっと抱卵していたわけではないし、卵がシェルターにある間もふつうに採餌していました。メスによる卵の管理なんてほとんとなかったと思われます。今後は自然孵化を試みる予定はありません。ただ、トランスペコスの自然孵化で判ったことは、卵が思っていたより乾燥に耐えるということです。シェルター兼産卵床には一部に出入り口を設けたタッパーを使用し、それなりに保湿性はありましたが、卵は敷いてあるミズゴケの上に無造作に産み落とされた状態で、そのミズゴケもそれほど充分に加湿してはありませんでした。

 ヘビの卵の管理は、日本や北米のナミヘビの場合はいずれも同じ方法で良いと思います。卵を見つけたらすぐに親から引き離して別の容器に移しますが、孵化床となる別容器には、充分に加水したミズゴケをたっぷり敷き、その上に卵を取り上げた状態のまま置きます。卵は上下を逆にせずにそのままの状態を保つことが重要であると言われています。爬虫類の卵の管理はすべてこれを守ります。ただ、筆者のニホントカゲの人工孵化の経験では、卵の向きを無茶苦茶にしてもすべて孵化したので、この考え方の是非は解りません。
 高温多湿を維持するために、容器は通気孔を小さくし、中が蒸れ蒸れ状態になるようにします。筆者の場合は、15cmくらいのプラケースをよく利用します。昆虫の飼育等に用いるお馴染みのやつですね。フタが網状になっていて通気性抜群なので、ラップをかませ、4隅のうちの1部だけラップを折り返して小さな通気孔を作っておきます。多湿にしておけば温度変化がゆるやかになって卵の中の胚の生育が良好に保てます。気温が25℃ていどからそれ以上ある季節では、そのまま常温で管理します。やむなく気温変化の大きな場所で管理する場合は、容器をさらに大きな容器に収容し、温度変化がゆるやかになるようにします。容器の半分くらいが浸るように水を張ってくのも良いでしょう。高温が良いからと容器を日光浴させてはいけません。直射日光は大敵です。
 多くの場合卵は数個がくっついていますが、そのままのミズゴケの上に乗せ、卵の固まりの上にもうっすらとミズゴケを被せておくとよいでしょう。
 卵は時々観察する必要があります。無精卵や死卵を見つけたらすみやかに取り除きます。それらにはカビやダニ、小さなハチやハエ類の幼虫が湧き、その害が健康な卵にも及ぶことがあります。健康な卵だけの場合は、カビも害虫も湧きません。不思議ですね。うまくなっているものです。
 産卵からしばらくの間は頻繁に観察して死卵があれば取り除きますが、その後はあまり観察する必要はありません。見たければ見ればいいですが、観察のせいで温度変化を大きくしてしまわないように。そして産卵後40日を過ぎた辺りから、またちょくちょく観察して見ましょう。卵は丸く大きく膨らみ、いよいよ孵化が近づきます。
 卵はけっこう頑健なので、温度や湿度の管理にそれほどナーバスにならなくても大丈夫です。できれば写真を撮っておいて、卵の変化を比べると良いですね。鳥類の卵とちがって爬虫類の卵は外形の変化が大きいのでおもしろいです。ナミヘビの卵の期間はおおむね50日ていどですが、管理温度のちがいによってかなりの誤差が生じます。高温の方が胚の成長も早くなります。早く孵化を観たいからとヒーター等で管理温度を上げるのは考えものです。ヒーターを用いるなら、いっそのこと高価な孵化器を導入した方が良いです。筆者もそのうち購入しようと思っています。なんか、専門家っぽくてカッコいくね? 一定温度の維持はもちろん、給水により湿度も保ってくれ、大きな観察窓で卵の生育もよく見れます。鳥類と兼用のものでは転卵機能があったりしますが、その機能は使用しちゃだめです。
 こうして、大切に管理し大きく膨らんだ卵はいよいよ孵化を待つだけです。その至福の瞬間にはぜひとも立ち会いたいものですね。

孵化

2013/08/22


 アオダイショウの幼蛇は、産卵からだいたい50〜70日ていどで孵化します。ヘビの孵化は一斉に行なわれますよ。同時に産卵された卵から全員一緒に孵化してきます。これはたいていのヘビで同じですね。そう言えば、トカゲやウミガメもそうかな。卵の中での成長プロセスには個性はないようですね。その後、幼蛇たちはそれぞれ個別の暮らしに突入するわけですが、それからの成長速度や性格にはかなり違いが生じます。性格に差異があるということは、後天的な経験での学習が影響するわけで、彼らが節足動物や軟体動物と異なり、行動のすべてを本能に委ねているわけではないということですね。
 なので、生後すぐから飼育すると、ヘビたちはずいぶん人間に馴れてくれます。小鳥の手のりと同じで、生後すぐの教育は大切ですね。もっとも最近は小鳥を飼育する人が少なくなりましたから、手のりと言ってもピンと来ない人も多いです。インプリンティング(刷り込み)について実際に学ぶのに小鳥の繁殖は最も優れた経験なのですが……。
 飼育者にとって孵化の瞬間を観察するというのは、言わば醍醐味ってやつですね。そしてアオダイショウやコーンスネークの場合、孵化の瞬間にうまく立ち会うのはそれほど難しくない気がします。約50日という卵の期間を覚えておいて孵化予定日を頭に入れておき、それが近づくと卵の観察頻度を上げます。爬虫類の卵は鶏卵のような硬質の殻に覆われておらず、胎児の生育に伴って膨らんで行き、孵化間近になると少々いびつな感じになって、初心者でもその異変に気づきます。いよいよ孵化直近ともなると、卵に多数のひび割れが生じ、やがて裂け目から幼蛇の鼻先が見えます。
 自然に孵るのを待ってられないという方は、ここで裂け目にハサミを入れて切り開いちまえば、幼蛇が生まれ出る瞬間に立ち会えるというわけです。ハサミを使うときは中の幼蛇を傷つけないように注意が必要です、言うまでもなく。ま、それほど困難な作業でもないのでチャレンジしてください。
 狙い目は朝です。早朝から頑張らなくても日が高く登ってからでも大丈夫です、たぶん。少なくとも筆者の経験では、目が覚めて朝飯食って、おもむろに観に行けばたいてい彼らは待っててくれていました。
 親とそっくりのプロポーションなのにひじょうに小さい、ミニチュアのヘビが生まれてくる様子はほんとうに可愛くて感動的です。色あいは親とかなりちがってますけどね。白身に漬かっていたので体表は濡れていますが、放っておけばそのうち乾きます。
 さてそれから育てるのが一苦労ですが、哺乳動物の飼育に比べたら全然楽なので、頑張って育ててください。


孵化



上の画像をクリックすると拙著アオダイショウの孵化のページが閲覧できます。

馴化

2015/06/18


 飼育中のアオダイショウも早いものでもうすぐ2年です。うちへ来るそうそう産卵して子供が生まれて、子供たちは里子に出しましたが、この母親だけはずっとうちにいます。成蛇になるまで野生育ちで、カエルやらトカゲやらを食して大きくなったわけですが、うちで飼育を始めて間もなくマウスにも慣れ、冬場の加温も問題なく過ごしてきました。
 野生採集個体なので年齢は判りませんが、それほど老成しているようではありません。産卵数も多くなかったことから、初産か2度目くらいの産卵だったと思います。生まれてから少なくとも2〜3回以上は越冬を経験しているはずです。
 うちへ来てからは順調にマウスを食べ、2度の冬は温室で加温状態で過ごし、冬の間も採餌しておりました。
 野生採集個体の場合、寄生虫がひじょうに心配なのですが、2年近く問題もなく痩せてしまうようなこともなかったので、今後も大丈夫かと思われます。
 日本のシマヘビやヒバカリ、シロマダラといったヘビもとくに駆虫処理をしなくても野生個体を問題なく飼えました、筆者の経験では。沖縄地方のヒャンはダメでしたけど。
 外国産の野生個体の場合は、飼育中に寄生虫によるダメージで体調を崩し、悪くると死んでしまうケースが何件かありました。



 飼育環境にはすっかり馴化したアオダイショウですが、人にはなかなか慣れてくれないですね。大きな原因は筆者がヘビと接する機会と時間が少ないことだと思います。それでも、最近はメンテナンスの時でも緊張したり逃げ惑ったりということはなくなりました。



 与えたマウスに食いつこうとしているところです。今では与えるとすぐに反応します。給餌のペースは10日毎ていどです。



 絞めているところ。死骸であっても一応絞めます。多くのヘビがみんなこんな感じですね。絞めないのはセイブシシバナヘビと、トランスペコスラットスネークくらいでしょうか。
 普段はたいていケージの奥の方にいますが、たまに人の気配がすると手前までやって来ることがあります。そのタイミングで餌を与えていれば、人の手から採餌することを覚えていたかもしれません。
 小鳥類はヒナから育てないと、おとなから飼い始めて手乗りにするのは不可能と言われていますが、爬虫類の場合は、成体から飼い始めてもハンドリングができるほど慣れてくれるものが少なくありません。アオダイショウは知能の高いヘビだと言われています。これから飼育者に慣れるようになる可能性は少なくないと思います。



 水浴中。ケージのフタを開けて写真を撮っても逃げませんでした。(後日追加写真)

馴化2

2015/07/21


 最近では人の手から餌をとるのが普通になりました。爬虫類の多くは鳥類とちがっておとなから飼いはじめてもあるていど人に慣れさせることができます。筆者はヘビの飼育にはシェルターを用いず、間口が狭くて奥行きのあるアクリルケージを特注して用いています。人に慣れていない個体はケージの奥の方に陣取り、そこを根城にしていますが、慣れるにつれてケージの前の方に出てくるようになります。根城は変わりませんが、人の気配がすると前面に出てくるようになります。
 この子は成蛇から飼いはじめたのですが、最初のうちはケージの奥から動こうとせず、夜のうちに水入れを奥へ移動させてその陰に隠れていました。それが半年ほど前から水入れを移動することがなくなり、まれにですがケージの前面に出てくることがありました。



 夏場気温が上がると、水入れは水浴場と化します。水に浸かり頭だけを出している姿は、本種に限らず多くのヘビによく見られる光景です。水入れはケージの前面に置かれたままで、ケージのフタを開けても水浴したままで逃げ出そうとしません。



 水浴中に餌を与えると、水浴したまま食べ始めました。これでは水入れの水を交換できないので追い立ててやらねばなりませんでした。
 本種の特徴なのかどうかは判りませんが、同じサイズのヘビに比べると、この子はたいへんな早食いです。
 いまだにハンドリングはできませんが、これは筆者がまめにそれを試みようとしないからだと思われます。アオダイショウは知能が高いヘビだとよく言われます。飼育下でのハンドリングは野生採集の成蛇であっても不可能ではないと思います。

馴化3

2016/11/11


 この子を飼い始めて早いもので3年以上になります。アオダイショウはかなり知能が高く、飼育者を覚えるようになるとも聞きます。幼蛇から育てればハンドリングも不可能ではないようです。ただ、この子はうちに来たときにはすでに成蛇で、しかも野生育ちです。最初の頃はケージの奥の方で身をこごめ、しかも夜のうちに水入れを奥まで押していってその裏に身をひそめるという警戒ぶりでした。



 それでも比較的早い時期に与えるマウスを餌と認識するようになってくれたので、飼育自体は難しくありませんでした。定期的に餌を投入し、水入れの水を換えてやる、それだけの付き合いでした。



 最初の冬を乗り切り(冬場は加温し冬眠させませんでした)次の夏になると、時折水入れの中で水浴する姿を見かけるようになりました。飼育環境にもかなり慣れてきたように思えました。



 そしてそれ以降は、水入れをケージの奥に移動させることがほとんどなくなりました。居場所は相変わらずケージの奥ですが、水入れを移動してその裏に隠れることはなくなりました。



 脱皮についてはずっと順調でした。脱皮不全は1度もなく、環境が合わないせいで頻繁に脱皮するといったこともありませんでした。



 2度目の冬を終え、今年の夏あたりから、給餌の際には近づいてくることが多くなりました。そしてようやく人の手から餌をもらうことを覚えました。採餌中に手を近づけても平気です。ヘビは獲物と格闘している時はそれに夢中になり警戒心がなくなります。



 先日の給餌の際には、ケージの入り口付近でマウスに飛びついたので、そのままケージから引きずり出してやりました。上の写真は温室内のシンクの中でマウスを食べているところです。
 給餌中にそっと持ち上げ、ケージに返してやりました。給餌の時以外のハンドリングについてはまだまだ自信がありませんが、それにしてもずいぶん慣れたものです。
 成蛇になるまで野生で暮らし、野生のオスと交配して身ごもったメスですから、おとなになって繁殖に参加するまでずっと野生暮らしだったわけです。それでもこうして飼育環境に馴化するのは素晴らしいですね。さいわい寄生虫の問題もなく健康を維持しています。いずれは餌を期待して飼育者に寄ってくるくらいには慣れると思います。

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