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人類の愚行

2014/11/28


 筆者が幼少の頃から、人類の愚行を嘆く悲観的な思想は世に蔓延していました。もちろん悲観論者が人類のすべてではありませんし、建設的な発想を持って前へ進もうとする人もたくさんいたわけですが、周りの大人たちはしばしば、人間は愚かなものだと言い続けていました。テレビという新しい技術が誕生しても、戦争や飢餓がなくならないこと、地球を数十回焼き尽くすに足る核兵器がいつ発動するか解らないこと、エネルギー危機や食料危機がやがて訪れること、危機を回避しようとどれだけ人が頑張っても、愚かな人間が必ず現れて自分の欲望のために何もかも目茶苦茶にしてしまおうとすること、そんなことばかり放送していたような気がします。
 ある時、人間はなぜ悲観的なことばかり言うのだろうといことを知人に話すと、そうでもない、そのよいに感じているだけじゃないのか、という答えが返ってきました。確かにその通りで、宇宙開発は、華々しい未来社会の話題も皆無ではありませんでした。また、みんな大好きなテレビ漫画のヒーロー&ヒロインは必ず危機を乗り越え、人々に希望を与えてくれました。
 ある評論家が、不況だの好景気だのというものは、人間の気持ち次第であると言っていました。もうずいぶん古い記憶で、誰がいつどのようなシーンでおっしゃっていたのかも覚えていませんが、なるほどなぁと感心した覚えがあります。希望があれば努力が報われると信じることができれば、人は明るい気持ちで建設的に生きて行くことができますし、現在貧しくても頑張ろうと思えます。そしてそのことが積み重なって本当に世の中を変えて行きます。
 不況というものは、政治経済が資本家本意に偏り過ぎ、お金はたっぷりあるのに停滞して動かない状況です。多くの人々が悲観的な考え方に傾倒し、希望を見いだすための努力から遠ざかって怠惰に
陥っている状態が不況なのではないでしょうか。
 筆者が勤めている会社も、経営者は一流の大企業であると豪語していますが、筆者が入社して以来どんどん人を減らし、今ではむかしの3分の1しか社員がおらず、残された社員の半分以上が年金生活者にも満たない給料で、祭日も盆も正月も週休2日もなく週に72時間懇々と働いています。会社は労働協約も守らず、すさまじい格差を構築し、若い人たちから搾取を続けています。その若い人たちのうちひじょうに多くの割合が、いまだに契約社員です。労働組合は会社の支配的介入によって腐敗し、会社の違法行為や不当労働行為をすべて肯定し、組合役員だけがどんどん出生してゆきます。
 しかしながら、このような悪しき状況を招いたのは、労働者の悲観主義と怠惰に大きな原因があります。ほとんどの社員が影で会社の悪口を言うものの、どうにもならないとあきらめ、自分のことしか考えず、子供たちの将来さえもどうでもよいと考えているのです。一部の前向きな考え方をする者がどんなに頑張っても、それを邪魔者扱いし、労働運動を守り立てるどころか、運動の足を引っ張ろうとしかしません。希望は宝くじしかないそうです。
 企業の不正や違法は、大勢の労働者の力で覆すことができます。賃金や労働条件は運動によって勝ち取るものです。そんな基本的なこと誰でも知っているのに、ほとんどの労働者が闘っても無駄だと決め込み、会社あっての俺たちという奇妙な考え方に陥り、その日の保身だけを頼りに生きています。会社は汚い、政治家は悪人だとののしりながら、自らは何もしようとせず、権力に盲従し、あまつさえ前向きに行動しようとする者の足を引っ張ります。
 人類は愚かである。人の欲望は果てしなく、争いはけっして絶えることがなく、いつかは滅びるしかない。誰に吹き込まれたのか知りませんが、人々は口々にそう言ってあきらめ、権力者を憎み、ついでに隣人をねたんだり怪しんだりしています。
 人類が愚かであるという証拠として、戦争が絶えないこと、技術の暴走により異常気象を招いたこと、飢餓が蔓延していることなどが挙げられます。
 では、むかしに比べて民主化が進み、高度なネットワークが人と人とをつなぎ、文化の普及は国境をどんどん曖昧なものにして行く状況はどうなのでしょう? 未来に希望をつなぐこうした技術や文化の存在は幻だというのでしょうか。
 戦争や公害、自然破壊は、最初から人類を滅ぼし、地球を汚染することを目的で発生したのでしょうか。戦争はすべて高邁な理想が招いたものですし、公害や自然破壊も観察や調査に先んじて産業の発展を目指した結果です。人類の愚行とされる数々の弊害は、理想の暴走です。みんなで考えようという発想ではなく、ヒーローの到来を待ち望み、それに期待して着いて行った結果、計算ちがいが生じてしまったということなのです。
 理想が災いに転じるなら、けっきょくそれは愚行だと結論づけるのなら、それこそ身もフタもありません。では、理想がどれだけ災いに転じてしまったのかを考えてみてください。理想がことごとく災いに転じるものなのだとしたら、人間社会には利便性や安全性の向上、豊かさ快適さの向上といった進歩はもたらされないでしょうし、それを維持する社会システムを支える人々の協調性も育たないでしょう。
 悲観論者は、利便性や快適ささえも、それと引き換えに失うもののことばかりに目を配り、批判しかしないのでしょうが。悲観的な批判で、なにか良いことがもたらされるのでしょうか。なにをやっても無駄、人間の存在そのものが地球にとっては癌のようなものなのだ、そういうことを安易に口にする人もいます。そうやって人々の努力を否定し、先祖代々培ってきた文化を無駄とおっしゃるのは勝手ですが、じつはそれを勝手にやってろと放置できない重大な事情があります。
 無責任な多くの悲観論者は気づかないのでしょうが、数々の弊害や腐敗をもたらすのは、権力者の不正や暴走を促すのは、悲観による怠惰と無関心です。それが権力者を悪人に仕立て上げてしまうのです。権力者が、せっせと努力しても国民は関心を示さない、冷たい目で批判するだけで自分たちでは何もしようとしない、それでは国民のために頑張ろうという気も失せるというものです。少しでも多くの人々が世情に関心を持ち、欲しいものは要求し、不要なものにはノーという、そうした小さな努力を、職場や自治体、選挙といった場で発揮して行けば世の中は変わります。
 人類のもっとも恐ろしい最大の愚行は、民衆の怠惰と無関心なのです。

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