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下積みと道楽

2015/07/16


 いじけた話しをします。世の中には才能が高く評価され、才能で財を築き、有名になり天才と崇められるような人がいます。むかし筆者が同人誌を作っていた頃、創作活動をやるならプロを目指すのが当然だとおっしゃる人が何人かいました。読者の中にも筆者の所属するサークルにもいました。SFを書いたりシュールなミステリーを書いたりエッセイを書いたりと、方向性の定まらない筆者は、プロを目指している人たちから、創作の方向性について厳しい指摘を受けたりもしました。プロの作家を目指しているのではない筆者にとってこれはいささか迷惑な話しでした。職業作家と言われる人たちが果たして幸せな創作活動を満喫しているのかどうか疑問でしたし。そりゃ一流と称される作家になれるなら目指すのもアリかもしれませんが、そうでない作家の場合は好きなものを思い通りに書くこともできないし、収入だって安定していない、そう聞いていました。
 同人誌活動を12年もやっていると、経験の浅い人からは、どうやったら文章が上手くなるのかとか、人を感動させる作品を書くにはどうすればよいのかといった、ナンセンスな質問を受けることもありました。自分の作品で誰も感動させたことがない筆者は、むしろこっちが聞きたい、そんな方法があるならこっちが教えてほしいと、質問に質問で答えるようなことしかできませんでした。だったらなんで書いているのだ、次にそんな質問が決まって返ってきます。そりゃ、書くのが好きだからさ。
 ものを書くというのはなかなか大変なことです。むかしはインターネットがありませんでしたから情報収集も大変でしたし、修辞法やら文法やらを習得するのも大変でした。文法と言っても国語の授業じゃないので、文法的に正しい表現をすればよいというものでもありません。たとえ文法誤りでも慣用句のように大勢に伝わりやすい表現なら、そっちを採るべきです。
 単に趣味と言っても地味な努力が要るわけです。
 でも、アマチュアの苦労は努力ではありません。多くの人たちがここを間違っているところが悲劇です。プロフェッショナルの苦労は努力ですが、アマチュアの苦労は道楽でしかありません。売れっ子作家が自分の言葉をちゃちゃっとレコーディングして、編集担当が大変な苦労をしてそれを作品に起こし、本が出来上がったとしたら、その本は作家の努力の結晶です。アマチュアが血のにじむ苦労を重ねて膨大な情報量の作品を完成させたとしても、それは単なる道楽です。たとえプロを目指して頑張ったのだとしても、それは道楽です。
 ご家族はあなたにそんな夢を追いかけずに無難な仕事に就いてほしいと切実に願っているはずです。あなたはご家族に多大な心配をかけている道楽者なのです。

 こんなブログを書いている筆者ももちろん道楽者です、いろんな生き物を飼っていることを含め。生き物の世話をしてブログの執筆に多くの時間を費やして、お金も費やしています。この道楽がなければ、時間に追われる生活からも開放され、金欠に苦しむこともなく、淡々とした会社勤めを平穏に過ごしていたことでしょう。
 でも、それでは気が済まないところが悲しい性ですね。才能もないのに創作欲だけが旺盛というのは虚しいものです。延々と続く自己満足です。それでも止められないのは、中毒症状のようなものなのでしょうか。
 すべて自己満足で終わるだけならばやめればいい、そう思います。それが正解なのだと思います。
 ある小説のある登場人物がこんなことを言っていました。「どんなに才能があっても、実績がなければそんなものはただの凡人に過ぎない。何ひとつ実績を上げたことがないのに、他人の仕事を批判するのは、負け犬の遠吠えだ」記憶が不確かなのでセリフはかなりちがっているでしょうが、こんな内容のことを言っていたと思います。おっしゃる通りですね。

 とは言え、半世紀以上生きてきていろいろかじってきたにも関わらず、筆者にはプロとアマの才能のちがいが釈然としないことがひじょうに多いです。筆者の知り合いにもプロ顔負けと思われる作品を著すような方が何人かいて、その人たちの作品とプロの作品の価値のちがいがいまだに判りません。それでも売れっ子作家は天才ですし、素人はどんなに素晴らしい作品を著しても凡人です。
 天才とは往々にして作られるものです。宣伝と大家のお墨付きによって天才が作り上げられ、人々はその人の作品を素晴らしいと思い、その人の生きざまに敬意を表します。
 筆者の知り合いに、女子高校生の制服をせっせと写真に撮り、図鑑を作っていた人がいました。短い付き合いでしたが、その素晴らしい作品に深い感動を覚えました。彼は制服の現物も所持していました。いわゆるコレクターですね。対して世界的にも有名なデザイナーで男性なのに女性の下着もデザインしている方がいます。たぶんたくさんいるのでしょう。で、ふと思ったのですが、筆者の知るコレクターは世間的には単なる変態で、有名デザイナーは天才、でもやっていることはあまり変わらないんじゃないのか。プロは天才デザイナーで、アマチュアなら変態コレクター。才能の差異は小さくても世間の評価は大きくちがいます。

 人間社会とはそういうものです。専門業界の価値判断がすべてです。
 目指している娘たちはみんなアイドルになれるのか、なれません。目指してる作家はみんな一流になれるのか、なったのを見たことがありません。ほんと、なれませんって。目指している人たちには申し訳ないですが、早々にあきらめた方が良いです。
 でもね、世の中には実在するのですよ、アイドルも一流作家も。それは宝くじみたいなものです。あんなもの買ったって決して当たりません。少額ならまれに当たりますけど。でも宝くじは詐欺ではありません、実際に当選する人がいるのも事実です。問題は当選確率があまりにも小さく、一生の内に高額当選をものにできる人は、ほんの一握りも存在しないってことです。

 一流作家を目指しているアマチュア作家、アイドルを目指している日本橋のメイドさん。そういう人たちをたくさん見てまいりました。その人たちに夢をあきらめろと言ったことは一度もありません。目指すなら本気で目指せ、そう言ってきました。
 人間は、ただ単に食って寝て繁殖して、それだけの生き物ではありません。他の動植物は、純粋な生命の営みを繰り返し、それを蓄積しながら環境に適応してゆきますが、人間は文化という形で情報を共有し、自ら能動的に変ってゆきます、環境も変えてゆきます。本能の軛から解かれた人間という存在は、自ら考えて道を切り開かねばならないのです。
 ゆえに、人々の文化的生活は奨励されなければなりませんし、趣味やプロを目指すという形で、文化が育ち、それは人間社会という系を維持するのにひじょうに重要なのです。
 文化は易々と国境を越え、権力者による略奪行為を鈍らせます。人々が文化を持っていなかったら、世の中は大いに乱れ、破壊が繰り返されることになるでしょう。
 インターネットが高度な情報を身近なものにしてしまった現在でも、権力者は軍備を整え、暴力で人を支配しようとします。地球を一瞬にして焼き尽くしてしまう火器が実在することは、人類が技術文明の重みに耐えかねて滅びてしまう可能性を彷彿させます。でも、人々が高度な文化を有し、それが強力なネットワークに乗って行き交う状況は大きな希望です。現代人は他国の文化を愛したり、相互理解を深めることを急速に進めています。

 インターネットのような世界を網羅するネットワークが存在しない時代には、専門業界が創る文化と素人文化との差異はひじょうに大きなものでした。プロを目指し、それが実現しなければ素人の趣味は個人またはサークル内の自己満足に終わることが多かったものです。
 ところが今はいささか事情が異なります。アマチュアがアマチュアのまま有名になり高い評価を受けたりすることもありますし、プロになったものの同人作家の方が儲かるのでアマチュアに転向した、そんな人もいるようです。プロアマの線引きは急速に曖昧になりつつあります。
 かく言う筆者も、小説や論文を本にして出版しようと出版社からお話しをいただいたことが何度かあります。プロならぬ身では出版費の一部を負担しなければなりませんし、同人誌時代から誰も感動させたことがない筆者の作品がヒットするわけもないので、キッパリ断ってきました。売れない本の在庫を抱え込むのも憂鬱ですしね。
 でも、自分ごときでもこういうことがあるんだなぁと感心いたしました。同人誌ではなく流通書籍として自分の本が書店に並ぶなんていう事態が、今の時代なら皆無とはいえないのだなぁ、そう思いました。出しませんけどね。
 自分の作品を電子書籍にして自ら出版する方法なんてのも最近ではあるそうです。びっくりです。
 放送と称してネット動画を配信して有名になっている人もたくさんいます。
 個人の趣味が自己満足で終わらない可能性がどんどん増えてきました。これは素晴らしいことですね。有名なることや大勢の人たちから高く評価されることばかりが重要であるというわけではないですが、知名度が上がり強力な情報発信能力を持つことには意義があります。

 世間から認知されないアマチュアの労苦は単なる道楽です。でももしあなたがメジャーデビューを果たすことに成功したら、これまでの労苦は下積みとして高く評価され、人々の手本になります。
 

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