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メタリフェルホソアカクワガタ

2013/11/05


 ホソアカクワガタ属は、東南アジアに分布するクワガタムシの仲間です。その中でもなかなか奇抜なスタイルの種がいくつか日本にも輸入され人気を呼んでいます。今でこそポピュラーなペットですが、筆者がこれを入手した1999年頃はまだ輸入例も少なく知名度も低い昆虫でした。当時はまだホソアカクワガタという和名はなかったような気がします。少なくとも筆者は知りませんでしたし、本種を提供してくださった友人も、キクロマトゥスと学名のラテン語表記をそのまま読んでいました。
 その友人はクワガタムシの本格的なブリーダーを手がけ、業界ともよく通じている人だったので、まだ日本では輸入例の少ない様々な甲虫類をいろいろ見せてくれました。
 その友人を通じて筆者が入手したホソアカクワガタは、メタリフェルホソアカクワガタとエラフスホソアカクワガタの2種で、本項では前者について記述します。



 和名が示すように、基本的には細くて赤いクワガタムシです。メタリフェルは学名の種名の方をカタカナ表記したもので、金属光沢を意味していると思われますが、オスではそれがかなり顕著になります。



 上記2枚の写真は、オスの成虫ですが、上はホソアカクワガタらしさを、下はメタリフェルの特徴をよく示した写真だと思います。これらは光の辺り具合や見る角度による差異で、明るいところで見るほど金属光沢が顕著です。しかしながらメタリフェルの特徴は金属光沢よりもオスの大腮の大きさです。体に対してこれほど長大な大腮を持つクワガタムシは他にいないと思います。有名なギラファノコギリクワガタよりも本種の方が全長のうち大腮の占める長さが大きいです。
 上記の写真は、原産国インドネシアのセレベス島の地域亜種、キクロマトゥス・メタリフェル・セレベスですが、下のペレン島の地域亜種C・M・ペレンでは、さらにすさまじい大腮を有しています。


 ↑ C・M・ペレンのペア。オスの大腮の間に見える小さくて黒っぽいのがメス。下はオスの腹面。全長の半分が大腮だ。


 C・M・セレベスは赤みが強く、ホソアカクワガタの名をよく表していますが、C・M・ペレンは雌雄共に黒っぽく、オスでは深い緑色の光沢が見られます。メタリフェルの魅力は、その特徴的な形態もさりながら、繁殖が容易で飼育下でその生涯の様子を観察しやすいことです。とくにセレベスの方が繁殖力が強いです。
 雌雄ペアを入手できれば、飼育下で交尾の様子を観察できますし、産卵までそれほど時間を要しません。また、成虫は羽化するとすぐに繁殖行動に移りますので、メスは採集された時すでに持ち腹であるケースも少なくなく、飼育を始めると間もなく産卵に至ることもまれではありません。筆者のところでは1999年7月1日に入手して数日後に産卵を確認、18日には孵化を確認しました。


 ↑ C・M・セレベスの交尾。オスに対してメスはひじょうに小さい。
 ↓ C・M・ペレンの交尾。この雌雄のサイズ差でよく交尾が成功するものだ。



 繁殖を目指す場合は、市販のマットと朽木を購入し、産卵セットを仕立てて、そこでペアを飼育すると良いです。最近はクワガタムシやカブトムシを飼育繁殖するための良質な素材が市販されていて容易に入手できるので便利です。ナラやクヌギの朽木を乾燥させたものが、幼虫飼育用に市販されており、これを1日水に浸け、樹皮を削ぎ落として白木状態にしたものをマットに埋め込みます。マットも朽木を粉砕したもので、元は朽木と同じ素材です。下の写真が産卵セット、写真の中に見えているアニメチックなものは昆虫ゼリーで、これは成虫の餌ですね。この産卵セットが、繁殖を目指す場合のクワガタムシの飼育環境のすべてになります。


 ↑ クヌギマットに埋め込んだ朽木。上の木が白くなっているのは、白色腐朽菌による腐乱が進んでいるため。これは自然界でも普通に見られる現象で、白色腐朽菌の菌糸は幼虫の隠れ場所としても食料としてもたいへん有効だ。

 産卵セットに成虫のペアを入れて、10日から2週間もすると朽木の所々におが屑を詰め込んだような跡が見られるようになります。これはメスが丹念に朽木を噛み砕いて作った産卵床です。クワガタムシは多くの場合、幼虫は朽木の中を食い進んで暮らします。メスは孵化したばかりの初令幼虫のために朽木の一部を砕いたマット状にしているわけです。
 産卵セットのマットも朽木と同じ素材ですから、その中でも幼虫は充分に生育できます。メスはマットに産卵することも少なくありません。



 産卵セットは、そのまま幼虫の成長の場となります。そのまま放っておけば、やがて新成虫がそこで誕生します。しかしながら飼育者としては幼虫の生育の様子を観察したいもの。そこで割り出しという作業により、産卵セットから幼虫を採取し、個別飼育に移します。上の写真は朽木を割ったところです。メスが朽木の中を食い進んで朽木をマット状にしています。初令幼虫は、母親がよういしたこの柔らかい部分を食べて育つわけです。


 ↑ 卵と孵化直後の初令幼虫。

 体長わずか25mmていどのメスが、一腹で30〜40個ばかりの卵を産みます。卵の大きさは2mm以下で、10日ほどで倍近くに膨らんで、孵化に到ります。幼虫はC字型に丸まった直径が4mmほどです。幼虫を見つけたら、直径5cmくらいのプリンカップに個別に分けて飼育します。つまり幼虫の数だけプリンカップを用意しなければなりません。
 プリンカップの中身は、ナラやクヌギの朽木を砕いたマット。上述の産卵セットに使用したものと同じです。ペットショップには様々なマットが市販されているので、これを購入すると良いでしょう。筆者は、このマットに熱帯魚用の飼料をあれこれ混ぜて加水して発酵させ、栄養価を高めて与えました。これは筆者独自の実験的な方法で、これが良いというわけではありません。もともと栄養価を高めたマットや、白色腐朽菌による腐乱の進んだ朽木を使用したマットなども市販されています。小麦粉や味の素を配合するブリーダーもいます。マットに加水すると発酵の際に高熱を発するので、熱が冷めてから使用しないと幼虫が焼け死にます。加工を施したら数日間放置して熱を冷ます必要があります。
 プリンカップにはマットを目一杯詰め込み、フタの中央に通気孔を1つ開けておきます。かなり密閉度が高いですが、これで充分な湿度が維持できますし、幼虫が酸欠になることもありません。産卵セットの割り出しを行なう前にプリンカップによる幼虫飼育セットを準備しておくと良いでしょう。



 メタリフェルホソアカクワガタの場合は、大きなプリンカップは必要ありません。とくにメスの場合は、小さなプリンカップ1つで羽化まで大丈夫です。オスでもこれでかまわないのですが、観察していて他よりあきらかに大きな幼虫だと判断した場合は、大きめの容器に移してやります。体が大きく、とくに頭の大きな幼虫は大きめの容器に移してやりましょう。移動先の容器ももちろん内容は元のプリンカップと同じにします。
 クワガタムシを大きく育てるために、白色腐朽菌が充分に繁殖して真っ白になったマットを詰め込んだ菌糸ビン等を利用するのも良いのですが、これはもっと大型のクワガタムシに向いています。とくに動きのにぶい初令幼虫をいきなり菌糸ビンに入れると、幼虫が菌糸に巻き取られ逆に白色腐朽菌の栄養になってしまうこともあると思われます。マットに自然に繁茂した菌糸を除去する必要はありませんが、市販の菌糸ビンは本種の幼虫にとっては無用の長物な気がします。
 筆者の場合、プリンカップの数だけ幼虫を採取したあと、産卵セットに卵や幼虫を残したままにしておきました。ここからも新成虫がどんどん巣立って行きました。


 ↑ プリンカップの中のC・M・セレベスの2令幼虫。

 クワガタムシの幼虫は、初令→2令→と2度の脱皮を経て終令幼虫になります。孵化から30日ばかりもするともう終令です。加令の度に頭部や6肢が大きくなります。白い胴体は脱皮から脱皮の間に大きくなります。従って孵化直後あるいは脱皮直後の幼虫は頭でっかちで、次の脱皮が近づく頃には頭はそのままで胴体がでっぷりと育っています。


 ↑ C・M・セレベスの終令幼虫。
 ↓ 産卵セットの朽木の中のC・M・ペレンの終令幼虫。



 飼育温度にもよりますが、筆者のところでは孵化後約45日でメスが次々と蛹化しました。オスではさらに10日ばかりあるいはもっと日数がかかりました。
 幼虫は尾部に糞をたくさん蓄えてここだけ黒くなっていますが、この糞を使って蛹室を作ります。糞は蛹室の内面をなめらかに塗り固めるセメントの役目を果たします。メスの蛹室は体長の1.5倍ていどですが、オスのそれは2倍ていどで横幅にもゆとりがあります。
 蛹室の中で蛹化を待つ前蛹虫は尾部の糞がなくなって白くなり、代わりに体液が貯まっています。数日して蛹化が始まると尾部の体液が上体へ鼓動を打つようにして流れ込み、上体がどんどん膨らんで行きます。やがて頭部と背中が割れ、蛹が姿を現します。頭胸部がどんどん大きくなり、これまで痕跡程度だった肢から長くてしっかりした6肢が伸びてきます。オスの場合は頭部と前胸部がどんどん大きくなり、6肢もひじょうに長大です。そして大型のオスでは全長の半分を占める長さの大腮が見る見る伸長して行きます。


 ↑ C・M・セレベスの蛹、左がメスで右がオス。

 幼虫では9割りていどが腹部だったのが、体液が上体に流れ込むことによって頭胸部が大きくなり腹部がこじんまりし、上半身下半身のサイズが逆転します。下半身から上半身へ体液が送り込まれることによって、前胸部が大きくなり、6肢とオスの大腮が一気に伸長するのが蛹化のメカニズムです。
 蛹は、成虫の鋳型です。この中で体内はどろどろに溶けてしまい、体組織が再編成されます。甲虫類の蛹は、裸蛹といって体の各部がリアルに露出した状態の蛹で、この時すでに成虫の形状がひじょうによく判ります。蛹の上体でも腹部だけは動かすことができるので、腹部の筋肉や呼吸器系は幼虫時代のものを維持するのでしょう。
 そしてさらに10日ほどで新成虫が羽化します。早いものでは9月中に成虫になりました。飼育温度は30℃を越える日がほとんどで、この高温が幼虫の成長を早めたと思われますが、それにしても国産のクワガタムシに比べるとひじょうに早いですね。国産のクワガタムシは、夏に孵化した幼虫が終令で越冬して、翌年の夏に羽化するのが普通ですから。


 ↑ 地上に姿を現したC・M・セレベスの新成虫(メス)。

 下図に、C・M・セレベスの成長の様子をまとめてみました。わずか60日の間に劇的に成長する様がお解りいただけると思います。幼虫のみC・M・ペレン(オス)を記載しておりますが、セレベスよりも大きいですね。また、大型のオスではさらに3週間〜1ヶ月を要します。



 メタリフェルホソアカクワガタの、原産国インドネシアでの生態はどのようになっているのでしょう。日本のように四季が顕著でないあちらでは、年に何回か成虫が羽化するのでしょうか? 成虫の命はそれほど長くないと思われるので、繁殖の効率を高めるには同じ時期に新成虫がまとまって羽化するのが望ましいでしょう。新成虫の多く発生するシーズンというものは決まっているはずです。
 筆者のところでは、最初に入手した成虫たちは11月頃まで生きていました。メスは、何度も産卵を繰り返し、秋口になると様々な生育過程の幼虫や蛹が混在するようになりました。冬場はヒーターで加温して虫たちを管理しましたが、12月に蛹化した個体では前蛹の状態が2週間も続きました。やはり温度と成長速度は比例するようですね。当然と言えばそうなのですが。
 また、真冬に羽化したものは最低飼育温度5℃という低温でそれを達成しました。国産のクワガタムシは15℃が冬眠のボーダーラインで、これはヘビなどの爬虫類でも同じです。しかし冬眠の習性をもたない本種は、とりあえず10℃あれば緩慢ながら活動していました。
 2000年1月に羽化したオスで、繁殖に参加させずに飼育していた個体は7月半ばまで生きていました。



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