1_萌萌虫雑記帳.png

キイロスズメバチ

2013/11/26


 山岳地帯に住んでいる筆者のところでは、いちおう住宅街であるものの秋になると大きなスズメバチをたくさん目にするようになります。冬支度に忙しい秋のスズメバチは普段にも増して獰猛であるとも言われますが、筆者の家の近くに飛来するスズメバチはほとんどが単独飛行で、むやみに攻撃してくることはありません。
 俗に言うオオスズメバチは、そのサイズからよく目立ちよく目にする気がするのですが、実際のところはキイロスズメバチの方が出会う確率は多いと思われます。スズメバチの仲間は、オオスズメバチが例外的にデカイですが、その他の種は20〜30mmていどのものが普通です。キイロスズメバチも働きバチで20mm前後、女王でも30mm以下といったところです。
 2年ほど前になりますが、昆虫採集と標本作りを生業にされている方から、本種の巣を譲っていただき、自室に飾っているのですが、今日はそいつを観察してみることにします。


 ↑ キイロスズメバチの巣。幅が約30cmくらい。

 上の写真の人の手と比してどれくらいの規模の巣であるかがお判りいただけると思いますが、小さな虫がよくこれだけのものを作るものですね。ハチやアリの属する膜翅目の昆虫類の社会性や高度な巣作りには感銘を受けるばかりです。


 ↑ 巣の中ほどにある出入り口。数千匹のハチがこの1つの穴から出入りする。

 キイロスズメバチは、スズメバチの仲間のうちでも最も立派な巣を作ります。中には幅50cmを越えるものもあり、ひじょうに多くの幼虫がこの中で育てられ、巣立ってゆきます。
 彼らは肉食昆虫ですが、捕獲した虫は自らは食せず肉団子にして巣に持ち帰り幼虫に与えます。高タンパクを得て丸まると育った幼虫が分泌する栄養液が成虫たちの直接的な餌になります。筆者はオオスズメバチを飼ったことがありますが、虫を与えても肉団子にするだけで食べることはありません。同時に与えていた昆虫ゼリーが飼育下での餌になっていました。スズメバチの仲間は野生でも樹液や花の蜜を舐めますが、ミツバチの仲間のようにそれを巣に持ち帰って幼虫の餌にすることはありません。
 キイロスズメバチはひじょうに攻撃性が強く、人の刺傷被害は本種がスズメバチの仲間ではトップです。オオスズメバチは山岳地帯に多いですが、本種は平野部や人里近くにも棲息します。キイロスズメバチの危険を回避するには、その巣に近づかないことに尽きますが、彼らはけっこう目立つところに巣を作るので、幼虫育成中の現役の巣を見つけたら近づかないことです。
 ちなみにオオスズメバチは、樹木のウロの中や土中に営巣し、外観が目立たないので、ハイキング等でまとまった数のハチを見かけたら危険地帯に接近していると思った方がよいでしょう。多くの羽音を間近で聞いたり、カチカチという威嚇音を耳にした場合は、最大級の危険が間近に迫っています。


 ↑ 巣の外観は二枚貝を重ね合わせたようなたいへん美しい模様になる。

 キイロスズメバチの巣は、たいへん美しい模様がほどこされており、この虫の美的センスに感銘を受けるわけですが、筆者にはこれが二枚貝をたくさん重ね合わせたように、あるいは鯉のぼりのウロコ模様に見えます。彼らは、古くなった樹木を粉状に噛み砕き、唾液で練って建材にします。これを器用に貼り合わせながら巣を建造して行くわけですが、美しい模様は材料に色のちがいによって再現されます。もしも働きバチたちがすべて同じ材質を建材に使用したならば、巣は単調な外観になってしまうわけですが、高度な建築家にして才能豊かな芸術家である彼らは、単調で退屈な巣を作るようなことはしません。


 ↑ 巣の出入り口のクローズアップ。

 1つの巣の中では数千匹から大きなものでは1万匹以上の幼虫が育てられていますが、これだけの規模のものであってもひじょうに軽量にできていて、吊り下げ式であっても重みで落下してしまうことはありません。軽量にして強度を保つために、外装の二枚貝模様は重要なのでしょう。外装は多数の二枚貝状のパーツを幾重かに重ね合わせて形成され、外装部分に多数の空気の層を作っています。このことは巣の強度と軽量化を実現すると共に、巣の内部の保温にも大いに貢献しているはずです。風雨や直射日光を避けた立地に建造するにしても、巣の内部は密閉空間です。夏場の高温を巣の内部に伝えにくく、かつ内部の熱の放射にも優れた構造であることが伺えます。また夏の終わりから著しく気温が変化するようになっても、外装の空気の層が温度変化を巣の内部に持ち込みにくくしています。
 このような高度な設計思想と、大規模な行動物を小さな虫が建造してしまう技術を、生き物の進化の過程で彼らが本能として獲得した事実に驚嘆するしかありません。彼らはどのようなチームワークを以て、このような建造物を造ってしまうのでしょうね。


 ↑ 巣と働きバチたち。撮影には標本を使用している。

 そしてさらに驚くべきは、球形をした外部構造の中に、ハニカム構造の巣が層を成す、数階建てのマンションが作られていることです。ハニカム構造の名は耳にしたことがあると思いますが、まさしくハチの巣構造のことで、正六角柱を敷きつめた構造物を言います。ハチの巣の実物を目にしたことがない方でも、写真や映像で見たことはあるでしょう。正六角形は隙間なく敷きつめることができ、六角柱の内部に充分な広さを確保することもできるうえに、全体の構造として高い強度を発揮します。じつに合理性の高い建造物であるわけです。その六角柱の内部が育児室になっており、1室に1頭ずつ幼虫が収容されています。下向きに口を開けた巣の作りは、ハニカム構造が露出しているアシナガバチ等の巣と同様ですが、これが幾重にも層を成し、マンションになっているわけです。
 

 ↑ 働きバチの顔。

 スズメバチの仲間は、1頭の女王バチが初期の原始的な巣を作って最初の働きバチたちを育て上げ、1シーズンのうちに数千匹から1万匹の大所帯の社会を作り上げてしまうわけですが、同様に大規模な巣を作るミツバチの仲間とちがって、球状の外装を持つ、たいへん手の込んだ巣を作るに至った理由を考えてみましょう。
 ミツバチの巣もハニカム構造は同じなのですが、大がかりな巣でもスズメバチのようなマンション構造にはならず、マンションを横倒しにしたようなもの、すなわち巣板と呼ばれる単層構造が数枚横並びになるものを作ります。彼らはスズメバチのような外装を作らず、ものの隙間などを利用して巣板を風雨や外敵から守っています。
 これに比べると、スズメバチの巣は、外部構造が風雨や温度変化から巣板を保護するうえに、出入り口が1つしかないので外敵の侵入からも安全性が高いです。また吊り下げ式の場合は、近隣の構造物から独立的で、そのことも外敵を遠ざけるのに役立っていますし、近隣の構造が熱や湿度を帯びていてもそれを寄せつけません。まさにもっとも進化した巣だと言えるでしょう。
 さすがにオオスズメバチになると、個々の虫のサイズが大きすぎて吊り下げ式の巣を作るのは厳しいので物の隙間を利用しますが、他のスズメバチの仲間は吊り下げ式を採用しており、その中でキイロスズメバチが最も大規模の巣を作ります。


 ↑ 上段2頭はスズメバチ。左の個体は長い腹部から女王と思われる。下段4頭がキイロスズメバチのオスバチおよび働きバチ。写真のスズメバチの女王で実寸が約40mm。


 ↑ 左がオスバチ、触角が黒くて大きい。右が働きバチ。


 さて、巣の内部構造を実際に観察したいところですが、撮影に協力してくれた息子と話し合った結果、解体したり一部を切除すると球状の構造物が維持できなくなり、けっきょくゴミになっちまうのではないかということになり、それを断念しました。巣は紙でできているように軽く、持っているだけで壊してしまいそうです。振ってみるとゴゾゴゾと音がします。巣自体が少々臭いますし、解体するとさらに悪臭を放ちそうですし、イヤなものが出てきそうです。
 代わりに、ネット上にアップされている画像を以下に借用することにしました。スズメバチの巣の駆除のプロの方が管理されているサイトから、許可を得て掲載させていただいたものですが、見事なマンション構造ですね。幼虫が顔を覗かせている室、白いフタがされ成虫の羽化を待つ室、すでに巣立った後の室などが伺えます。


画像提供「スズメバチを研究した、三重県山里の生け捕りスズメバチハンター」
http://www.8hiro.com/index.html


 同サイトでは、スズメバチの駆除に関する依頼や情報のほか、スズメバチの仲間の生態についても詳しく紹介され、画像や動画も豊富で、スズメバチのことがひじょうによく解ります。ぜひ参照してみてください。

コメント
コメントする








   
この記事のトラックバックURL
トラックバック

索引


目次

スネさん リーザさん けもの 庭虫
雑虫 クモ 直翅系 半翅系 膜翅系 鱗翅系 鞘翅目 毒虫 魚たち 無脊椎
両生類 カメたち 絶滅動物 くさばな 庭草 雑草 高山植物 飼育と観察 ヒト □飼育動物データ




    123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930 
<< November 2018 >>

サイト内検索

NEW ENTRIES


Amazon Kindle 電子出版のご案内
cover4.jpg


★講読には
Kindle 読書アプリ
が必要です。



sijn.jpg






recent comment

recent trackback

プロフィール

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM