1_萌萌虫雑記帳.png

バルバトスカギムシ

2016/09/11


 南米のバルバドスに産するカギムシで、最近はペットとしてもかなり有名になって来ました。まだまだ値の張るペットですが、飼育繁殖が難しくないとされ、今後はブリーディングも進み価格が下がって来るかもしれません。カギムシの仲間は熱帯域に分布する生き物で、有爪動物門カギムシ綱カギムシ目に属する、ペリパツス(カギムシ)科およびペリパトプシス(ミナミカギムシ)科の仲間です。現在は世界の限られた場所にのみ生息する少数派(約180種ほど見つかっているとの情報も)の動物なのであまり知られていません。ペリパツス科の仲間は中米から南米北部に棲み、ペリパトプシス科はアフリカ南端やオーストラリア東岸、ニュージーランドに棲息し、後者の方が低温を好むようです。



 形態的には節足動物のムカデのような感じで、頭部には1対の触角、胴部に付属肢が並びこれで歩行します。付属肢とはチョウの幼虫のイボ状の足のようなもので、多分に節足動物本意の表現ですね。カギムシにとっては歴然とした歩脚です。昆虫のように気管で呼吸します。このように節足動物的要素を多く含むものの外骨格となる体節が存在せず柔らかな体は軟体動物的です。かつては軟体動物から節足動物への進化の過渡的生き物とされたこともあるようですが、つじつまが合いません。



 古くは、カナダのバージェス動物群の中にアイシュアイアという体長5cmほどのカギムシが見つかっており、他の動物門と共にカンブリア紀に有爪動物門の仲間は誕生しています。現在は有爪動物類は極少数が現存し、唯一海洋生物を含まない動物門になっていますが、アイシュアイアをはじめカンブリア紀のカギムシは海でカイメンなどを食べていたようです。おそらく軟体動物類から分化しました。ムカデ等の多足亜門の仲間に似た形状をとったのは平行進化でしょう。多足類はカギムシのような動物から進化したのではなく、海洋で栄えた節足動物の末裔が陸上生活を目指して進化したものです。



 全長約45mmていどの、これはおそらくまだ幼体ですね。南米産の生き物は輸送コストが高くつきますし、あまり出回らない希少動物ですから、けっこう値が張りますが、今回は幼体ということもあってか比較的安価で入手することができました。



 頭部です。タコの足のようにクネクネ曲がる触角が、軟体動物っぽさを思わせます。



 触角は伸ばすとけっこうな長さになります。今年はオカタニシやオカモノアラガイといった水生動物そのままの形態で陸生に移行した動物との出会いが重なりましたが、本種も同じですね。古生代には海洋生物であったものが、陸地に逃れたものだけが細々と現在まで生き残っているというわけです。軟体動物の場合、水生でも陸生でもほぼ同じ形態のまま、生活環境だけを変えている事例がいくつかあるわけですが、触角はいずれの環境でも重要な器官であるようです。



 節足動物の多足類そっくりな形態をしていても、背面腹面とも体節は見当たらず、軟体動物的です。まるでゴムのおもちゃのようですね。背面がベルベットのような感じなのに対し、腹面はゴムっぽいです。



 こうして見ると、もはや軟体動物そのものです。



 なかなか可愛らしい顔をしています。筆者の撮影技術がもう少し高ければ、口器や付属肢やその先端の爪も判るのですが。残念です。



 この独特の雰囲気は、やはり現生動物には他に例がありませんね。海洋生物の中には似たような雰囲気のものがいるのかもしれませんが、これで完全な陸生種ですから。



 触角の付け根のところに小さな眼があります。視力はあまりよくはないでしょう。動物食で、他の虫を襲うのだそうですが、動きもムカデのようには敏捷ではなく優秀なハンターではなさそうです。カギムシの餌食になる虫はよほどのろまなのでしょう。ひじょうに俊敏に動き回るものが多い現生動物たちの中にあって、この太古のスタイルは生きて行くのも大変です。
 ところが、カギムシは獲物に向かって粘液を放射状に噴射し、あたかも網で捕らえるようにからめ捕るテクニックを持っているのだそうです。触角の付け根のところに1対の分泌腺があって、そこから乳白色の粘液を噴射します。原始的な生き物なのに高度なテクニックを持っているものですね。おかげで5億年以上も生き延びてきたのでしょうか。海洋生物であった頃には、この機能はなかったでしょう。水中では有効な武器になりそうにありませんから。カンブリア紀のカギムシは、移動能力のないカイメン動物などを主に食べていたそうですから、飛び道具は必要なく、これは現代戦に適応するための新兵器、陸生種になってから獲得した形質なのでしょう。


コメント
コメントする








   
この記事のトラックバックURL
トラックバック

索引


目次

スネさん リーザさん けもの 庭虫
雑虫 クモ 直翅系 半翅系 膜翅系 鱗翅系 鞘翅目 毒虫 魚たち 無脊椎
両生類 カメたち 絶滅動物 くさばな 庭草 雑草 高山植物 飼育と観察 ヒト □飼育動物データ




    123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930 
<< November 2018 >>

サイト内検索

NEW ENTRIES


Amazon Kindle 電子出版のご案内
cover4.jpg


★講読には
Kindle 読書アプリ
が必要です。



sijn.jpg






recent comment

recent trackback

プロフィール

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM