タマムシ
2013/12/14
有名にして日本の甲虫類としてはかなり大型の虫ですが、成虫の食性がよく解っていないなど、謎のある虫です。棲息地は山間が多く限定的になりがちな気がしますが、居る場所にはけっこうたくさんいて、そこここに飛んでいるのを見かけたりします。筆者の住むところでも、家が少なく更地だらけの頃にはよく飛んでいました。うちの庭に飛来したこともあります。まぁ、山ですからね。
本来は雑虫扱いのところですが、幼虫の飼育セットを譲っていただき成虫まで育てることができたので、庭虫として記述することにしました。しかしタマムシの飼育セットなんて素晴らしいですね。これを譲ってくださった方は、プロの学者でもなければその方面の専門職でもないのに、生態の研究を重ねて自力で開発されたようです。
タマムシの幼虫は、かなり妙ちきりんな形態をしています。胸部が大きく膨らみ、腹部は長くほっそり、頭部はとても小さく、六肢が見当たりません。なんか寄生虫みたいです。サクラやエノキの幹部に食い入って暮らしているので、寄生虫みたいなものですけどね。
いただいた飼育セットは、直径7cmていどのプリンカップに細かく砕いた木のフレークを詰め込み、その中に幼虫を1匹ずつ入れてあるという単純なものでした。入手先はじつは2ヶ所で、1件は埼玉県、もう1つは奈良県です。両者とも一見して内容は同じに見えます。おそらくエノキ辺りを砕いたものだと思われますが、もしかしてタマムシマットとして流通している……なんてことはないでしょうね。
生木に食い込む虫ですが、マットはそれほどきつく押し固められているわけでもなく、湿度もそんなに高くしてありませんでした。
↑ 幼虫の表裏。左が腹面、右が背面。
いただいた幼虫は全長が4から6cm程度のもので、成虫と比較すると終令幼虫と思われますが、最初の方の説明では2年もので、羽化まであと1年かかるとのことでした。
↑ タマムシの蛹化して間もない蛹。頭部と前胸部は幼虫の旧皮をつけたままだ。
ところが、2005年3月末にいただいてから1ヶ月少々経過した5月初頭に、最初の蛹化それも2頭が確認でき、その後次々と羽化し、同年の夏までにたくさんの成虫が得られました。
タマムシの蛹がまたユニークで、体の細部が判る裸蛹なのですが、頭部と前胸部が幼虫の旧皮に覆われたままで、そこだけ茶色いのです。幼虫の形態を見ると胸部が膨らんでいて茶色味を帯びていますが、そこから上がはがれずに残るようですね。
↑ ↓羽化直前の蛹。
そして10日ほどで、腹部背面と翅を残して金属光沢の緑色いわゆるタマムシ色に色づき、羽化直前の状態になります。蛹の期間はカブトムシの約2週間に比べて少し短いといった感じです。
蛹室は浅く狭く、たいていがプリンカップの表面に作ってくれ、そこに腹を上にした状態で蛹になるので、そのままでもたいへんよく観察できます。プリンカップのフタを開けると蛹室は崩れてしまいますが、羽化には支障ないようです。これなら人工蛹室を作らなくてもじっくり観察できます。
↑↓ 羽化したばかりの成虫。翅鞘(前翅)がまだ白くみずみずしい。
蛹室の中で羽化した成虫は、生木を食い破って出てくると言われていますが、そんな強靱な大腮を持っているのでしょうか。あるいは幼虫の間に周囲の木部を噛み砕いて柔らかくしておくのかもしれませんね。
タマムシは、日本の甲虫としてはずいぶん大きな方で、その独特の色あいとも相まって、もともと熱帯地方に棲息するものが北上してきて居ついたものでしょう。飛翔能力はかなり高く、飛んでいるところをよく見かけますし、かなりの距離を飛ぶことも可能だと思われます。
ただ、成虫の生態はよく解っていないようで、幼虫が規制する樹木の葉を食草としているのか、成虫になってからは食事しないのか不明だとのこと。
↑ サクラの葉に残された飼育下でのタマムシの成虫による食痕。
ある専門家の意見では、成虫の口器は採餌には適さないほどに退化しているとのことで、ホタルの成虫のように水だけを飲んで短命を終えるという考え方もあるようですが、生木の中で羽化し、樹皮を食い破って出てくるのであれば、それを退化的な口器だとするのには疑問がありました。そこで、羽化した成虫にサクラの葉を与えてみたところ、かなり食べた痕が見つかりました。
幼虫の飼育は難しくなく、多くの人たちがそれを手がけているようです。ただ、成虫に産卵させて幼虫を得、累代飼育するとなればかなり工夫が必要でしょう。羽化した成虫は半月ていどは単独飼育し、それからペアリングを行なった方がオスの交尾器を傷めず、交尾は上手くゆくでしょう。また、雌雄の同定は容易ではなさそうなので、単独飼育した数匹の成虫を広いケージの中で出会わせれば、交尾行動は見られると思います。
問題は、どのような環境を設えれば産卵してくれるかですが、サクラやエノキに産卵することは解っているので、成虫が好んで産卵しそうな状態の木を用意できれば、成功するかもしれませんね。
今回は、飼育セットということで幼虫をいただいたので、雑虫ではなく庭虫としました。