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人類の進化

2017/02/01


 筆者がまだ子供の頃には、人類はその祖先が木から降りたことで、危険をいち早く発見するために立ち上がって遠くを見渡す習性を会得し、それが2足歩行を進化せしめ、体の真上に頭部を置くことで大容量の大きな脳を発達させることを可能にした、そんなふうに学びました。今ではこんな説はほとんどお笑いですが、むかしはこの漫才を多くの人たちが真剣に信じ、諸先生方も得意満面で生徒の前で語ったものでした。
 平地に住む動物の多くは、とくに草食動物や小動物では、危険を回避するための感覚器が発達していて、少しでも異常を感じると首を高く持ち上げ、耳を澄まします。プレーリードッグやミーアキャットなどは人間よろしく後足で立ち上がります。しかしながら、木から降りた類人猿の仲間のうち、人間以外はゴリラもチンパンジーも2足歩行を会得しておらず、最も人間に近いチンパンジーでは危険回避のためにとっとと木に登っちまいます。大型類人猿たちはみんな例外なく手を器用に使います。リスやアライグマも手を使いますが、前足で物をホールドするていどで、類人猿のように棒を片手で握ってそれを自由に操るようなことはできません。
 人間は、唯一前足を手専用に変えた動物です。ゴリラやチンパンジーあるいはオランウータンもひじょうに器用に手を使いますが、手はしばしば歩行用として用いられ、とくに全力疾走する場合には4つ足になります。類人猿の仲間が手を発達させたのは、その祖先がブラキエーション(腕渡り)という樹上移動手段を会得していたからです。ブラキエーションはテナガザルの頃すでにひじょうに発達しており、前足を手のように用いて枝をつかみ、枝から枝へ木から木へ、後足をつかわずにホイホイと渡って行く技は、樹上生活に革命をもたらしました。
 テナガザルのさらに祖先もやはり樹上生活者で、昆虫を捕獲したり木の実をちぎったりするのに口ばかりでなく前足を用い、やがてそのことが前足の歩脚機能に物をつかむ手の機能を加えたのでしょう。ものを前足で上手につかむことが可能になると、やがてブラキエーションが発達し、そのことは体の大型化にも貢献しました。オランウータンは樹上生活者としては他の4つ足動物をしのぐ大きさの動物に進化し、樹上の王者になりました。
 ブラキエーションはまた、体を自然に垂直姿勢に保つので、彼らは枝に座ったり、複雑にからんだ枝の間を伝い歩きするようなシーンで容易に垂直姿勢になることができました。体が垂直なる時、進行方向を確認するには顔は前を向く必要があり、これまでの動物が体に対して水平方向に顔を向けていたのに対して、彼らは顔を腹側に曲げて前を向くようになりました。
 つまり、直立姿勢、前を向いた頭部、前足が手として機能するといった形質は、人類のはるかむかしの祖先であるテナガザルの頃から確立されていたわけです。

 人類とチンパンジーは最も近縁の動物で、2者が分岐したのもそれほど古い話しではないのですが、チンパンジーの仲間は祖先とそれほど変わらず、人類の仲間は劇的に変化することになりました。そしてチンパンジー以前から半地上生活を送っていたため、人類の平地進出はそれほど大した出来事でもなかったわけです。なので人類を木から降りたサルなどと表現するのは適切ではないでしょう。人類の祖先は人類を分岐する以前から普通に地上を歩き回っていました。
 人類の祖先は、おそらく進化的な類人猿たちと豊かな森で争うことよりも、競争相手のいない新天地を目指して荒野へと旅立ったのでしょう。楽園を後にした彼らは多くの食物に恵まれず、新たな敵と遭遇するという試練に行き当たりました。彼らの前途には飢餓と危険がつきまとい、生存そのものが脅かされたことでしょう。彼らは他の動物たちを観察し、木の根を掘り起こしたり、小動物を狩ることを覚えていったのでしょう。また、草原を駆ける恐ろしい肉食獣から逃れるために、大人のオスたちが集団で敵を威嚇することや、その背後にメスや子供たちをかくまうことを覚え、社会性が増して行ったのでしょう。
 やがて人類は、道具を使って手のリーチを補うことや、土を掘ったり堅いものを砕いたりすることを覚えてゆきます。上質の武器を作ることに長けた者もいれば、それを巧みに操って敵を撃退することに長けた者も現れ、群れ社会の中で分業制が発達してゆきました。

 飢餓や伝染病、肉食獣との戦いといった多くの試練は、これまでの森の生活よりも多様性を必要としました。一見なにもないようなところから食べ物を得る、何の変哲もない木や石を道具に変える、そうした知恵、それに高度な社会性がなければ、荒野での暮らしは成り立ちませんでした。人類の知性と頭脳の発達は、試練から産み出されたものです。
 人類は、もともと備わっている本能よりも後天的に得た知識によって暮らしを支えるという方向へどんどん進化してゆき、大脳がますます発達してゆきました。大容量の大脳を収容した頭骨は重く大きく、これを体の上で支える垂直姿勢はひじょうに好都合でした。棒の一端に重りを固定し、それを水平にした棒で支えるよりも、重りを上にして垂直に立てた方が、棒への負担が減ります。
 人類(ホモ属)の頸椎(首の骨)は、これまでの動物とちがって、顎の下に向かって伸びています。これまでの動物(チンパンジーを含め)のように頸椎が後頭部から後ろに向かって伸びているのではありません。また、内臓も垂直方向にぶら下がる形体に変更されており、完全な直立2足歩行形態に進化しました。
 チンパンジーをしばしば2足歩行をしますし、その際には顔は前を向いていますが、じつは後頭部から後ろに伸びる頸椎をお腹側に曲げて前を向いているだけです。彼らが全力疾走するには4本の足が必要です。
 完全直立2足歩行に進化した人類は、4つ足になって頭部を体に対して水平方向にして前を見て、そのまま歩こうとすれば全力疾走はできませんし、その姿勢を長く保つことも難しいですよね。

 弱者から奪うこと、序列を作ること、食欲や性欲を抑えないことを、動物と同じ人の本来の姿だと言う人がいます。それは壮大な誤解です。人類はヒトに進化した時点で、本能に支配されず後天的に会得する言葉で物事を理解し、理性で考えて行動し、社会性を一義に考えるようになりました。本能に忠実な利己的な行動は、旧石器時代かそれ以前に捨てたのです。それが納得できず、やっったもん勝ち、強いもん勝ちを主張するなら、人類は今後も存続する術はありません。
 人類はひじょうに高度な分業によって社会を支えています。そしてそれを取り巻く環境は刻々と変化しており、今は眠っているように見える能力も必要になる時が来ます。あらゆる能力あらゆる技能が人間社会には必要で、かたよった高等教育で裁量を発揮できた者だけを優秀とするエリート主義が人間社会を支えているわけではありません。そのことに多くの人たちが気づかなければ、人類の未来はありません。

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