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質的人員と量的人員

2014/01/24


 別項で人間社会のマスとエリートについて述べましたが、その差異は社会の進歩に伴って曖昧になってゆくでしょう。マスのレベルは向上するばかりです。太古のむかしは権力者と民衆には絶対的な差異があり、まったく異なる存在でしたが、文明の進歩はその差異をどんどん埋めて民主化が進み、今では権力者最高、権力者のためなら死ねるぜ、なんて発想の人は多くないでしょう。かつての王朝文化遺産を眺めながら、絶対君主の再来を願う人も少ないでしょう。壮麗な城を眺めて王を称賛する人よりも大むかしの建築技術のレベルの高さに感銘を受けることの方が多いでしょう。それは王というエリートではなく、技術を持ち得たマスへの称賛です。
 城を建てたのは王さんじゃなくて大工さんだという笑い話がありますが、確かに王は、権力を象徴し優れた要塞として機能する建造物の実現を希望したものの、王の理想を具体的な形にしたのは民衆の力です。優れた技術者と優秀な労働力に恵まれなければ、王の夢も夢想と終わったわけです。我々が古代建築に抱く感銘は、王の見た夢の素晴らしさにではなく、その夢を現実にした技術と労力の素晴らしさに対してです。つまり、古来より人間社会をリードしてきたのは、大衆のパワーです。
 で、その大衆はみんなで力を合わせて社会を動かす技術力と労力を発揮するわけですが、そのひとうひとつはとても小さく見え、あまり評価されることはありません。それぞれの技能は、誰かえらい人が作成したマニュアルによって会得できるようになっていて、個々の労働はマニュアルと上司の指示に準じているだけのように見られています。会社における労働者は組織の歯車のひとつに過ぎず、いつでも交換可能で、交換されないように技能と労力を維持しなければならないみたいな。
 しかし、作業の安全や仕事の効率化は、労働の現場の文化として発展します。藍より青しの言葉にあるように、先輩の教えを引き継いだ後輩はそれに新たな創意工夫を付加し、作業効率や安全性を向上させて行くのです。このことはヒトが考える生き物である以上必然的なものです。この基本を忘れ自分たちだけが偉いと勘違いしている経営者が最近は多すぎますが、ひじょうに恥ずかしいことに。

 社会性を持つ動物は、それぞれがボスになる素養と、ボスに従順になる素養を有しています。行動のほとんどを本能ではなく後天的な学習に依るヒトであってもこの素養は変わりません。人がエリートになるかマスに甘んじるかは、その人の素養や努力よりも成り行きに依ることが多いのです。運も才能なんて言われますが、運がよければ才能が報われエリートになるというわけです。
 人間社会はひじょうに複雑な分業によってまかなわれており、人々はその分業のいずれか、あるいは複数に所属します。それらの分業には、物質的な生産性のあるもの、無形文化として人間社会を豊かにするものなど様々です。また、報酬が得られるものを職業、自らの出費を要するものを趣味といったりもします。
 個々の分業は、会社単位、職場単位といった具合にユニット化されます。そして各ユニットで中心的な役割を担う人と、あまり活躍せず従順さを見せる人とが必然的に存在します。会社の職場のようにより大きな統率力に所属するユニットでは、中心人物と一般的な作業員というのは階級等で分けられますが、これが趣味の集まりであっても事情は同じになります。リーダー格の人間と従順な一般メンバーという区分がない集まりは珍しいです。
 リーダーシップをとるような人間には、そうした素養があるように言われますが、そうとも限りません。往々にして成り行きがリーダーをそうならしめます。従順な一般メンバーに甘んじるような人たちには、カリスマ性がなくリーダーに不向きかというと、それもまた成り行きです。そうならば、趣味の集まりくらいみんな平等でいいじゃん、と思うのですがそうならないところがヒトたるゆえんと言うか、おもしろいところです。
 どのような団体にも、中心的な役割を担う質的人員と、従順な量的人員があり、質的人員は団体の少数派であるというセオリーがあるそうです。みんなで一丸となって頑張ってます、と対外的にはピーアールしているものの、実際に頑張っているのはその中の何割かで、あとは頭数に入ってるだけみたいなことは、団体行動の必然性なのだそうです。
 質的人員になる人と量的人員になる人とには、才能のちがいややる気の有無があるように言われますが、必ずしもそうだとは限りません。サルの社会では体の大きいオスの方がボスの才能に恵まれていると言い切ることができますが、小さなオスも別のサル社会でたまたま自分より大きなオスがいなければ、ボスになる才能を発揮できます。飼い犬も家畜として従順な個体とそうでない個体という分け方はあまり役に立ちません。このイヌはボスに向いているから飼い馴らせないという話しはあまり聞いたことがなく、ヒトとイヌが良好な関係を築くにはヒトのリーダーシップが重要になります。あるいは、ハトや渡り鳥の帰巣や渡りにおいて飛行の先陣を切るのはいつも同じ個体であると決まってはおらず、ほとんど成り行きでリーダーが決定します。
 筆者の経験では、同人誌を作るサークルでは筆者は中心的な位置づけにいることが多かったですが、会社のテニス部では単なる頭数で、従順で目立たない存在でした。ヒトは集団で行動するとき、質的人員と量的人員を必然的に産むものだが、ヒトがいくつかの集団に所属する場合、すべての集団で質的人員でいられるとは限らないようです。もしそういう人がいたとしたら、それは不得手なことは避けているのでしょう。
 集団においてリーダーシップはひじょうに重要なように思われますが、そうとは限りません。質的人員の尻をたたいてリーダー風を吹かせることによってメンバーのやる気を削ぐことも多々あることです。また、集団のおかれる状況というのは不変ではありません。ひとりのリーダーや一定の質的人員のやり方が功を奏したからといってそれが永続的であるとは限らないのです。様々な才能や考え方を擁し、変化に対応することが重要です。量的人員も状況が変われば質的人員に変じることもあるので、軽んじられないのです。
 筆者が同人誌を作っていたころ、筆者が言い出しっぺだったので最初は編集を担当しましたが、自分がそのポジションにこだわり当然のことのように居すわっていては、メンバーの中で本作りは形骸化してしまうんじゃないかという恐れを抱いていました。それ以前、高校在学中にも手作り同人誌を作っていましたから、同人活動はまったく初めてってわけじゃなかったもので。そこで編集は毎号持ち回りで、サークルの会長は他の人にお願いして会報作りを会長にお願いしました。編集者は、各号のサブタイトルを決め、投稿者が申請したページ数をもとに台割りを作成するのが主な仕事で、諸事情で細々とした作業に携われなくても編集を担当できるようにしました。これで質的人員と量的人員の差は顕著でなくなり、サークルは魚の群れのように一様で一丸となって活動できるんじゃないかと考えたのですが、面付や表紙の原稿作り、印刷入稿といった作業では動けるメンバーはいつも決まっていました。遠隔地からの投稿もありましたし。ただ、このやり方の善し悪しは判りませんでしたが、同人活動は12年続き、半年に1号という刊行ペースを最後までまっとうできました。今でも時おり活動再開を欲する声が届きますが、再開するなら前回の続きの号から、やはり編集持ち回りでやりたいですね。

 伝統的な文化活動によく見られる傾向として、時代と共に同士が減って行き活動が緩慢になり、悪くすると消滅してしまう。その大きな要因は、集団の中に存在する権威の頑固さです。質的人員が古き良き時代にこだわり続け、集団を取り巻く環境の変化について行こうとしないんですね。最近の若者は飽きっぽい、自分たちだけでまとまって広い世界に飛び込んで行こうとしない、などと新しい世代を批判し、集団隆盛期を築いた自分たちの手柄ばかりを振り返るわけです。文化の火を絶やさず受け継いでゆかねばならないと言いながら、若い世代を受け入れようとしないのはじつは古参者の方なんですね。
 集団の中の質的人員と量的人員は固定的であるとは限りませんし、それが良いとも限りません。また同じ人間がどんな集団でも必ず質的人員になるとも限りません。とめどなく変わり続ける自然環境の中で、それに対応するために野生の生き物たちは種類を増やし、絶妙な棲み分けをしてバランスを維持しています。比較的気温の低い年には、低温に強い種が勢力を拡大し、気温の高い年には恒温に強い大食漢が頑張って伸び放題の葉をもしゃもしゃ食います。自然環境の変化には気温だけでなくひじょうにたくさんの条件がありますから、野生にはじつにたくさんの種類の生き物が棲むことになるのです。
 人の作る集団においても、あるタイプの個性が頑張る時期と、別の才能が頑張る時期といった変化が生じるのが当たり前で、質的人員が固定的であることが良いとは限らないのです。集団を長く続けたいのなら、その必要があるのなら、集団を取り巻く変化と人員構成ということにも目を向ける必要があると思います。

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