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衛生観念と細菌

2014/02/27


 虫や爬虫類が、哺乳類や鳥類とちがって多くの人たちに気味悪がられる原因は何でしょう? 珍しい虫や奇妙な生き物に多くの人たちがワクワクしないのはなぜでしょう。こういうことを考えることがそもそもナンセンスなのだということは解ります。筆者にだって苦手な物事は存在しますし、何でも捕まえて飼ってみるくせに嫌いな動物もいたりします。すみません、身勝手で。人の嗜好性や好き嫌いについて考えるのはほんとナンセンスです。筆者に酒の美味さ楽しさを説得されても困るのと同様に、虫や爬虫類の魅力を嫌いな人に懇々と語るのは愚かなことです。そして筆者が属している日本という国社会では、虫や爬虫類が苦手というのが一般的で、あんなものが好きというのは少数派なのです。
 でもね、世間一般の嗜好性も時と共に変化して行くものです。筆者が若い頃は、美少女アニメを大人が嗜好するのは不気味がられましたし、少女誘拐事件などが世間を騒がせたりすると同類扱いされて恐れられたり心配されることもありました。世間一般の人たちのそうした反応は理解できました。理解できるけれども、だったら世の男性諸君が女性を好きになるのはなぜなんだろうとも思いました。可愛いものが好きじゃないなら、女性なんて好きになれないんじゃないのか、なんて。ところが時と共に世間のアニメに対する見方考え方も変化し、今ではアニメは日本が世界に誇る文化にまでなりました。アニメとは相いれない大人の世界だと思っていたパチンコにも美少女アニメキャラが大出演です。やっぱみんな可愛いもの好きだったんじゃないか、なんて。
 同様に、日本での虫や爬虫類の認知度も時代と共に高くなり、一頃は昆虫ブームや爬虫類ブームまで興り、今ではそれらの専門ショップもたくさん増え、ホームセンターにも虫や爬虫類が並ぶことさえあるほどです。
 それでもアニメオタクは大勢を占めているわけではありませんし、虫や爬虫類好きは今でも変わり者の部類に入るのでしょう。ただ、むかしに比べると世間の嫌悪感がだいぶ低減して、オタクや変わり者の市民権がかなり認められるようになったというだけです。オタクのみなさん、変わり者のみなさんは、これに乗じて調子に乗ることなく、嫌いな人の方が圧倒的に多いのだという認識を忘れちゃいけまへん。

 考えてみれば、アニメオタクも虫好きの変わり者も共通しているのは、子供の属性を大人になっても持ち続けているってことのようですね。アニメや虫に興味のない大人でも、子供の頃にはテレビアニメにくぎ付けだったでしょうし、野山で虫を追いかけた経験もあるでしょう。子供の頃は虫に触るのも平気だったのに大人になってからは無理だ、なんてこともよく耳にします。
 子供の頃は興味津々だった虫たちも、大人になると忌み嫌う対象になってしまうなんて、じじぃになっても心は少年の筆者などからすると、残念というかもったいないというか、あんな面白いもの……なんて言ってはいけないんですよね、それは好きなものの身勝手です。
 ただ、本項ではあえてその苦手のカラクリに挑みたいと思うのです。
 虫や爬虫類は無理だけど、魚の解体は平気、タコやイカは美味そうに見える、カニも解体してムシャムシャ食べる。筆者などに言わせると、カニの方が虫よりもはるかにグロいです。ご立派なズワイガニのお顔をガン見したことありますか? なかなかヤリますよ、あれは。あれが平気ならアリンコやカマキリなんてずいぶん可愛らしいものです。スルメイカやでっかいサバをさばきながら、ちっこいヘビやトカゲが無理とか言われても説得力ないんですけど。鮮魚の調理現場の迫力は、小ヘビの脱皮シーンなどで到底たち打ちできまへん。
 食べ物であれば、なかなかいかついものまで食欲の対象なのに、虫は聞くだけでも無理というふうに、人はいつ頃からなってしまうのでしょう。諸外国には虫を食欲の対象にするところもたくさんありますし、時代をさかのぼれば日本でもタニシやイナゴもご馳走でした。
 これは生活習慣や既成概念、教育の問題ですね。虫は無理だという大人が、子供にそれが怖いもの、忌み嫌うべきものと教え込むことがそもそもの原因ではないかと思われます。もっとも昆虫採集や虫の飼育を徹底的に排除するような家庭教育をする親は多くないでしょう。ペットショップ等で子供にせがまれてカブトムシなんぞを買い与えたことのある親も少なくないでしょう。しかしながら、虫を寝室や食堂に持ち込むことは不衛生であるとして許さないのが普通ですし、家の中にさえ持ち込ませない、せいぜい玄関止まりというのが常識的です。
 そう、虫獣類は不衛生なのです、一般的な認識は。ゴキブリやハエやカは、病気の直接的な感染源ですらあります。そうした身近な害虫は子供の目の前でも容赦なく抹殺しますし、子供にもそうするよう指導します。その害虫のお仲間である虫たちは、必然的に不衛生なもの、場合によっては有害なものということになるのでしょう。ヘビやトカゲは感染源という認識は薄いですが、彼らは自衛本能として人に噛み付き負傷させます。これも感染症を連想させます。
 現代日本ではとくに、虫を食材にする例がほとんどありません。爬虫類もしかり。魚介類として食卓に登るのは主に海産生物で、身近な小動物はまず食品対象外です。ぶっちゃけますと、魚も甲殻類も身近な獣虫類と同様の野生動物であり、同じように寄生虫を宿していたりします。……この話しは止めましょう。多くの人たちにとって精神衛生上よろしくないですから。
 そう、この精神衛生上の問題というのが日本人のような衛生観念の高い人間にはとても重要でして、虫や爬虫類を忌み嫌う大きな原因なのだと思われます。人家の周りや近くの緑地にいる身近な生物は食材にはならず、食べられる生き物は海や遠くの渓流に住んでいます。
 細菌による感染症は怖いです。極力防ぎたいです。多くの日本人のように時計の命令に厳しく縛られていっぱいいっぱいの暮らしをしているようなケースではとくに、傷病によって生活ペースを乱されるのが恐ろしいものです。感染症は徹底的に避ける、それがデジタルで目いっぱいの日本人の自衛本能なのかも知れませんね。……感染症は防げても心の病になりそうですが。

 わかりました。忙し人の日本人諸氏に虫や爬虫類の可愛らしさをお勧めするのはやめましょう。解ってもらえる永遠の少年少女たちだけと、その面白さ楽しさを共有するとしましょう。虫と甲殻類とどこがちがうねん、なんて理論攻撃もやめましょう。感情的な精神衛生なるものを重視してさしあげましょう。
 外国人が驚愕するような潔癖症は、日本人の分単位で時間に縛られた生活を維持するためのものなのかもしれません。毎日欠かさずに入浴し、除菌効果の期待できる洗剤や石鹸を使う、それが日本人の常識に組み込まれたパーツなのでしょう。
 しかしながら、不衛生なものがすべて生物由来であるとするのは大間違いです。薬品や塗料といったものの中にも不衛生なものが山ほどあります。ハウスシック症候群を引き起こす家屋の接着剤等も人体に有害な、すなわち不衛生なものの1つですね。石油製品や放射線物質など、無生物でありながら不潔なものはたくさんあります。
 逆に、細菌類の中にも衛生的つまり人体に健康的な作用を及ぼすものがたくさんいます。乳酸菌やビフィズス菌は有名ですね。いわゆる善玉菌といわれるものは主に腸内細菌として知られており、ひじょうに重要な役割を担っています。食品加工に用いられるイースト菌や納豆菌も間接的に人と共存しています。熱帯魚を飼育している人たちは、水質の維持にバクテリアの存在を無視できないことを知っています。
 人と直接関わりを持つ善玉菌は腸の中に住んでおり、その研究はかなり進んでいますが、人体のその他の場所、口や鼻孔、皮膚といったところにも有用な細菌が住んでいて、人と共存しているのではないでしょうか。ミトコンドリアのように人の細胞内のオルガネラ(細胞小器官)になってしまったものさえいますし。ヒトは多細胞生物ですが、突きつめれば単細胞生物の集合体です。個々の細胞は細菌類とまったく異質のものではありません。我々は同じDNAを有する細胞の集合体として多細胞生物たるヒトを定義していますが、ミトコンドリアは独自のDNAを有していますし、ビフィズス菌だって彼自身のDNAを有していますが、人体内に必ず存在するレギュラーメンバーです。
 健全なヒトというものを考える時、ヒト遺伝子を持った細胞のみを着目したのでは不完全なんですね。すごめな科学技術で人間のコピーをするなら、人体内の同居人の存在も見逃さないようにしましょう。
 細菌類が悪玉ばかりではないと知りつつも潔癖症の日本人は毎日入浴して体に磨きをかけ、歯垢を分解するほどの強力な歯磨き薬剤で口内を綺麗にします。除菌効果の高い石鹸で子供たちの柔らかい手を洗います。もしかするとこれらの行為は、口内や喉、皮膚に住んでいる天然の除菌効果、すなわち有用なバクテリアをせっせと排除する行為なのかも知れません。人体のあらゆるところにあたりまえのように細菌たちは住んでいますから、その方たちの研究をもっと進め、どなたが人間にとって古来からの友人なのかを把握する必要があるのではないでしょうか。
 科学の進歩は、生活環境を衛生的なものに変えて行きましたが、それに比例するように食品アレルギーや花粉アレルギーが増えて行ったのも事実です。ヒトにとって重要な栄養源である肉や大豆、野菜や果物に拒絶反応を発症するなんて、健康的とは言えません。古き善き隣人である細菌たちをバイ菌などと呼んで一掃してしまう前に、彼らのことをよく研究することも重要なのではないでしょうか。

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