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虫嫌いの虫の観察

2014/03/13


 虫嫌いのお話しなのですが、筆者がそうであるわけはありませんよ、ええ、ありませんとも。あの小さな体に秘められた複雑なメカニズム、ゴマ粒よりも小さな脳に記憶された高度な生態のことを思うとワクワクします。小さな小さなクモが高度な網巣を作成したり、微細なアリンコが高度な社会生活の中で、分業でチョウの幼虫を育て、キノコの栽培をすることを思うだけで、感動で胸が熱くなります。虫万歳、虫最高、です。
 ところが、世間一般に虫というものは人間にはあまり好まれません。とくに文明社会と称される気取ってくれちゃってる環境に住まう人は、ほんと虫が嫌いですよね。あんな面白いものがどうして嫌いなのか、子供の頃はみんな虫が大好きだったのに、いつ頃から嫌いになっちまうのか、そのことについて筆者なりに別項で分析してみましたが、衛生観念と関係があると思われます。虫がうじゃらうじゃらとわいているさまは、それだけで病気の感染をイメージしてしまうのではないでしょうか。文明社会では、年齢を重ねるとともに衛生観念の意識が高くなります。汚れたものを嫌い、汚れた身なりを恥ずかしいと思うようになります。社会生活では体臭や衣服の汚れを隠すのがマナーです。そうした衛生意識の向上と比例して、人は虫が嫌いになって行くように思われます。
 小さな子供、泥んこ遊びを不潔と思わず、拾ったものを口に入れて味覚で確認する、そんな頃は人は虫と友だちです。大人が虫は汚い。虫は有毒で噛みついたりするということを教える、それが人を虫から遠ざけて行くわけです。
 そんなことは関係ない、虫はグロテスクだ、脚がたくさん生えていたり、小さいのが多数わいたり、ウネウネはい回ったり、人間とほど遠いさまがあまりにも不気味なのだ、そういう反論をする人もいます。脚がたくさん生えてるというのなら、昆虫はカニやエビに敗退します。小さいのが多数わいたりするなら、チリメンジャコに勝算がありそうです。ウネウネならウナギやナマコの方がイモ虫よりもすごいでしょう。動物性の食材のいかつさはなかなかのもので、虫なんて可愛いものだと思うのですが。
 同じ動物性の食材でも、海外にはなかなか怖いものがありますよね。同様に日本の食材であるタコさんやウニは、外国人には恐れられることが多いです。要するに、虫嫌いは文化のちがいなのですよ。そして文明圏ほど虫嫌いのていどが拡大する、大人になるほど大きくなる傾向を見るにつけ、やはりそれは衛生観念と無縁ではないんじゃないかなと思うわけです。
 ホラー映画などでは、不衛生なものが多用されます。大量の血が吹き出し、内蔵が飛び散り、ガイコツにウジムシがわいています。あのウジムシは、多くの場合ジャンボミルワームが使われます、はい。我々が飼育動物の飼料として常備し馴れ親しんでいるあれなので、一瞬しか映らなくても見まちがえたりしません。ホラーではどうして不衛生なものが好んで使用されるのでしょう。逆に、清潔感あふれる美女の幽霊があでやかに微笑んでいる姿を終始つらぬくホラー作品なんて、なかなかお目にかかれませんよね。美女が登場するものの、やがては刃物が飛んできて大流血事件になっちまうのが王道です。
 ホラー映画が、不衛生なものグロテスクなものを多用するのは、一般的に人がそれを怖いと思うからでしょう。見たくない、考えたくない、避けて通りたい、そう考えるからこそホラーにもってこいの題材になるわけですね。見たくない考えたくないものが、大挙して押し寄せてくればそれはもうホラーな状況にちがいありません。
 ところが、ホラー作品は、映画に限らず小説やゲームにおいても古来から高い人気を誇ってきました。幽霊が飛び出してくる系の映画は苦手だけども、ヒーローが悪人どもを銃器で惨殺して回るアクションは好物って人もたくさんいます。人が残酷なもの、破壊的なもの、頽廃的なものに魅せられるのはどういうことなのでしょう。そういうものを嗜好する人に、破壊や殺戮の願望があるからでしょうか。ホラー好きに実際に幽霊に遭遇したいかと尋ねると、怖くて耐えられないと答えるケースが多いです。怪談は嫌いじゃないけども、自分や身内が悪霊に取り憑かれるのは望まない、それが普通です。バイオレンスアクションのファンに人を傷つけたりしてみたいかと尋ねると、そんなことを考えもしないとおっしゃるのが普通です。軍事オタク、ガンマニアの多くが平和主義者です。
 正常な人間は、は自分の体や生活圏が汚されたり破壊されたりすることを望みませんし、憎くもない他人を傷つけたいとも思いません。事故現場で流血を目撃して冷静でいられることもありません。現実生活の平和を望みながら、虚構における刺激を欲する、それは矛盾しているようで異常心理ではありません。現実と虚構を混沌とせずきちんと使い分けることが分別であり常識でしょう。
 人は、虚構の世界に怖いもの避けたいものをなぜ望むのでしょう? それは刺激を求める欲求、あるいは好奇心といったものに通ずるものなのでしょう。怖いもの見たさとは、人間にとってありがちな心理です。
 筆者はどうなのか、白状しますと、虫や爬虫が好きなことから想像していただけるように、ホラー大好きです。残酷描写の非日常性が大好物です。バイオレンスアクションにもワクワクします。現実なら目を覆いたくなるようなグロいシーンもガン見したい方です。ビデオなら巻き戻して繰り返し見たろか、ポーズかけて舐めまわしたろか、ってなもんです。怖い映画、グロい作品が一切ダメッて人には変態と言われますが、それ以前に虫や爬虫が好きってことですでに変態ですから、一般的な尺度からすると。
 言っときますが、筆者のような虫や爬虫好きでホラー好きの人間が、あらゆる不潔なものが兵器だってことはないんですよ。車に轢かれた動物の死骸にワクワクしたりしませんし、ゴミや汚物を見つめていたいとも思いません。仕事がら酔っぱらいの嘔吐物を片づけたりしますが、あの臭いと見栄えは、直接触れなくても感染しそうです。
 筆者の親友で、天才的な画才のある女性の言ですが、クモやムカデは好きになれないけれど、その拡大写真は意外に綺麗で興味深いものなのだそうです。絵描きなんて好奇心と観察力の固まりですから、怖いという先入観を通り越して観察してしまうですね。彼女とは一緒にクワガタムシを繁殖させたことがありますし、ヘビに名前を付けてもらったこともあります。共著で出した同人誌には素晴らしい動物の絵をたくさん描いてくれました。
 クモやサソリをペットとして日本に持ち込み、日本タランチュラ協会を設営した方によると、人間には自分の身を安全なところに置いて、怖いものを見たいという心理があるそうです。野放しの虫には逃げ出すけども、飼育ケースの中の珍虫は見てみたいというわけです。動物園の獣たちや水族館の魚は見ていて飽きないけれど、触ってみろと言われると遠慮したいって方も少なくありませんよね。こうした心理は、前述した怖いもの見たさや、虚構の中に猟奇的な刺激を求めることに通ずるものがあるような気がします。
 あるペットショップに熱帯地方のタマヤスデが売っていた時のこと、その巨大ダンゴムシに興味を示した筆者に、女性店員が話しかけてきて「可愛いでしょう、思わず自分用に1匹買っちゃいました」とおっしゃるのですが、さわれないので買うなら自分で捕まえてくれと言うのです。彼女は小鳥も長年飼っているけれど触ったことがないそうです。イヌやネコや哺乳動物は平気で触るのに、虫や鳥は檻から出さないでほしいそうです。
 またある女性は、人形のクマさんが好きすぎて、野生動物のクマについても興味を持って詳しく調べたそうですが、実際のクマを観に動物園に行く気にはなれないそうです。実際のクマさんも人形ほど可愛いとよかったのに、だそうです。クマをイメージしたキャラクターを愛でるものの、その元ネタは好きになれない、ここにも現実と虚像の使い分けが伺えます。筆者にしてみれば、人形のようなクマが生きて歩いていたら、そっちの方が怖いですけど。

 虫嫌い、それは一般的な常識のようです。虫好きの筆者でも、その常識を否定したいとは思いません。ただ、虚構の世界や自分の危険が及ばない状況で、怖いものを見てみたいという好奇心も、人は併せ持っているようですね。
 また、一般的な人よりも好奇心が強い傾向のある人たちは、もう少し恐怖や危険に踏み込んでみたいという興味を抱きがちです。筆者の遊び場である大阪日本橋には、オタクやメイドさんという好奇心の固まりみたいな人種がワラワラいます。筆者の勤める会社では、虫や爬虫類に興味のある人は数名の男子しか見つけられませんでしたが、日本橋のメイドさんには、爬虫類好きがワラワラいました。わけてもヘビが彼女たちの一番人気です。女の子ってヘビ好きですよ。メイドさんたちと話しをすると、そう結論づけたくなります。ヘビのどこが好きかと尋ねると「どこがって言うんじゃなく、可愛いじゃないですか」そんな返事が返ってきます。家で何頭もヘビを飼っていて、スマホにその子たちの写真を入れて持ち歩いている筆者は、そりゃもうメイドさんにモテモテですって。

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