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ムスカリ

2014/04/03


 春に可愛らしい青紫の花房をつける小さな草です。こじんまりしていて目立たない草ですが、開花時期には花房の独特の形状が、たいへん個性的でこの時だけはかなり目立ちます。
 むかしは見かけることがほとんどありませんでしたが、近年はかなり人気みたいで、人家の庭はもとより公園や街路の植え込みなどでも目にするようになりました。



 筆者の家の庭では、いつ誰が植えたのかよく判りませんが、春になると庭のそこここに散在する花房がお目見えします。おそらく新築した時に最初から植えてあったのでしょう。
 球根です。花壇をけっこういじってますから、人の手によって知らぬ間に移動させられた球根たちが、庭のそこここで芽吹いたのでしょう。



 まとまった数の花が集合する様子がとても可愛いのですが、他の植物の間に1本だけ見え隠れする花もまた可愛いです。
 花が下を向いている上に、花弁があまり開かないので、一見花らしくないですね。
 花が終わると、細葉が残りますがそれも夏までに枯れてしまいます。その後はいなくなってしまいます。葉が枯れる頃に球根を堀り上げて、秋に植え直すことで増やせるそうです。筆者のところのように放置しておくよりも、この方が成長も良くよく増えるらしいです。

 近所の歩道の街路樹の植え込みとかにも時々見かけます。誰かがこっそり球根を埋めたのでしょうか。ある時、小さな女児が「ねぇ、これは何の実?」と母親にずいぶん興味ありげに質問していました。「あらぁ、可愛いわね。でも何かは母さんにも分からないわね」女児はしげしげとムスカリを見つめたまま「食べられるのかなぁ」とつぶやきました。「さぁ、どうかしら。インターネットで調べてみましょうか」女児の質問に対して「食べられるわけがない」と一蹴するのではない母親の態度に感心しました。「抜いて帰ってもいい?」「そうねぇ。でも食べられないと判れば無駄にならない? それに小鳥さんの食べる分が減っちゃうし」「小鳥さんは食べる?」「それも分からないわね。でも、小鳥さんが食べないとしても、これを見て楽しむ人もいるかもしれないじゃない?」「そうかぁ……。じゃあ、ひとつだけ」小さな指を1本立ててせがむ女児を、少し困ったという笑顔で見つめる母は、ここですぐ近くを通りすぎようとするじじぃの存在に気づきます。彼女の苦笑はそのままじじぃつまり筆者に向けられたので、大変おせっかいな筆者は「1本くらい抜いても大丈夫ですよ、それにインターネットで調べるにしても実物が手元にあった方が確実ですし」なんて口をはさむわけです。「でも……」と躊躇するので、筆者はさっさと1本のムスカリを引っこ抜いて女児に手渡しました。「これ、ブドウの実みたいですけど、じつはムスカリの花なんですよ、下から見るとよく判りますよ」ムスカリを手にした女児は、気まずそうに手の中のものと母親とを交互に見比べていましたが、やがて恐る恐るといった感じで手を顔に近づけると、ムスカリを下から見上げました。ひじょうに好奇心の強いこの女児の目の前で、青紫の実たちは一斉に花に変身したはずです。



 大きく目を見開くと、「ねぇ見て!」と自分が目撃したものを母親に差し出しました。母親は身をかがめると女児の手をとって手の中のものを凝視し「まぁ、ほんとだ」母子の間に笑顔の花が咲きました。
 行き過ぎようとする筆者の背後から、母親の「ありがとうございます」の声を聞いて振り返ると、女児が小さな手をブンブン振っていました。「水に差しておくとしばらくは持つと思いますよ」おせっかいなじじぃは、そう言って手を振り返しました。

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