獲得形質の記録

 前項では、生物が後天的に獲得した特徴が、何らかの形で遺伝情報として記憶される可能性と、タンパク合成の際にスプライシングプロセスで、イントロン遺伝子の用不用の判断という形で形質に反映されるのでは、ということを論じました。推論なんですけどね。でも、イントロン遺伝子が、全く不用な情報ならわざわざメッセンジャーRNA領域に挿んでおく必要はないわけで、スプライシングという煩雑なプロセスも虚しいだけじゃないですか。
 筋肉トレーニングを一生懸命がんばってですね、マッチョな形質を獲得したら、その経験は、今後はよりマッスルな方向に形質が発現するようにスプライシングがチューニングされるのかも知れません。つまり、イントロンの領域には筋肉の付き具合の幅が記述されていて、鍛練に応じて調整されるのです。イントロン遺伝子とは、全く不用な情報ではなく、いつでも使用されるように準備された形質発現の幅ではないか、それが筆者の考えです。
 イントロン領域には、状況の変化に応じて使う可能性のあるデータをたくさん並べてストックしてある、そんな感じじゃないかな。
 イントロン領域以外にも、不用な遺伝情報は山盛りで、DNAの中身は使われない量的遺伝子だらけなわけで、それらは生物がたどってきた進化の歴史のダイジェスト版で、DNAはタンパク合成のための機能よりも、膨大なデータライブラリーとしての役割がメインなのではと思えるほどです。そして、今は使われないデータライブラリーは、困った時の虎の巻だったりし、生活環境の変化にどう対処すべきかに窮した時に参照されるわけです。参照して使える情報があれば、メッセンジャーRNA作成領域に組み込まれるのです。進化上の過去の情報を参照するからといって、旧式の形質として発現するわけではありません。古い遺伝情報を参照することは、新しい形質を創造する確かな方法、すなわち温故知新が進化の神髄というわけです。

 生物が後天的に獲得した特徴や、生物が経験した生活状況の変化が、遺伝情報を用いたタンパク合成の際のスプライシンングプロセスに影響を与えるというのは、遺伝情報のイントロン領域に変化への適応に使える情報がストックされているという仮定に基づく推論なわけですが、では、イントロン領域に有用な情報がストックされたり、スプライシングのプロセスでその情報が選択されるメカニズムはということになると、筆者はまったく思考が及びません。
 ただ、DNAがじつは極めて動的に振る舞うことができるデータベースであり、その内容が生体内でしばしば書き換えられるのだとしたら、獲得形質や経験といった生物の後天的な情報がDNAに書き込まれて、生物の変異や進化に影響を与えることに期待がもてますね。
 そして遺伝情報の書き換え、すなわち生体内での遺伝子組み換えは、実際に生じることらしいのです。DNAはひじょうに複雑な構造に縒り上げられていますが、そのせいで1本鎖でありながら無数の交差ポイントがあり、そこで鉄道の進路が切り替わるように、遺伝子の組み換えが生じるのだそうです。むかし読んだ専門書に書いてありました。
 そうして後天的にえた特徴や経験は、遺伝子上に記録として残り、生殖細胞に受け継がれ、次の世代へと受け渡されるのかも知れません。そして次の世代でもその情報が必要なものとして活用されることになれば、情報は新たな形質として定着してゆき、生物の進化は能動的に推し進められることになります。
 生物の進化は、獲得形質の記録によって確実にそして漸進的に進行して行くことになります。生物の進化がひじょうにゆっくりと、そして一定方向に(環境により適応してゆく方向に)進んでゆくことは、ゆるぎない事実です。

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