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政治の善意のシナリオ

2014/04/22


 人間社会は、古来より統治者によって国家レベルで統治されて来ました。国を統べる統治者は強大な権力と莫大な富を独占し、民衆の上に君臨してきました。多くの人々を統率するには力が要ります。それは武力であったり警察力であったり、それらを動かすための財力であったり。あるいは人民を啓発したり服従させるための報道の操作も必要でしょう。統率者の下に組織力を磐石なものにするには、国力が必要でありますが、それは人々を傷つけたり虐げたりする力と表裏一体のものです。
 国家権力は、外国の脅威からも、国政に謀叛を企む国内の不穏分子からも権力者を守らなければなりませんから、武装は必須条件になります。
 古来より人類は国家レベルで争い、そのための武力を強化するために民衆から搾取し、あるいは民衆を兵士として駆り立てて来ました。
 人類の歴史は、まさに血塗られた戦争の歴史でした……歴史の教科書ではそう言うことになっています。
 しかしながら、私たちは争いはいけないこと、人を傷つけることは許されないことと学んでまいりました。人の肉体や心あるいは財産を傷つけることは人間社会においては認められておらず、それは処罰の対象です。いかなる人間でも人を自由に傷つける権利は持ちません。そりゃそうです。思いのままに人を傷つけることが許されたら、社会なんで成り立ちません。
 では、国家権力にのみ人を傷つけることが認められているのでしょうか。人を傷つけたり蹂躙したり財産を奪ったりできることが国家権力というものなのでしょうか。

 人類の歴史は戦争の歴史ではありますが、その中でも民主化は着実に育って行きました。市民生活は時代と共に豊かになって行き、誰もが学問を会得する権利が保証され、権力者の地位を目指すことも不可能ではなくなりました。実際問題としてすべての人が平等に同じスタートラインに立ち、同じ条件で高みを目指せるわけではありませんが、少なくとも憲法や基本概念は人々の平等と同権を認めています。
 1960年生まれの筆者は、ひじょうに貧しい家庭で育ちました。福井県から無一文で大阪に出てきた両親は紳士服の仕事を見つけ、労働力だけで財を増やし、最初は自分の家もなかったのに、筆者が小学生に上がり、野っ原で虫を追いかけていた頃には、庭付きの家に住み、テレビや電話やオーディオ機器、自家用車などがそろっていました。その頃はまだ夢の超特急ひかり号やジェット旅客機に乗ることなど夢のまた夢で、海外旅行などSFみたいなものでしたが、筆者が結婚して子供ができる頃には、それらも普通の市民生活になっていました。
 家があって自家用車があって海外旅行もできる、自分の家もなかった両親の許に生まれた筆者が今では大富豪の暮らしを送っています。そりゃ、大富豪の持ち物や旅行は我々とは質がちがうのでしょうが、とりあえず日常的に乗り回せる自家用車があり、草木の茂る庭付きの家があり、海外旅行も行けるのですから、形だけなら大富豪に負けているのは、自家用クルーザーや自家用ジェットくらいのものでしょう。
 そして今ではパソコンやスマホが一般家庭に普及していますが、時代の最先端技術が市民の持ち物になっているわけです。筆者のスマホやパソコンと、大富豪の持ち物のちがいは、ボディが純金ダイヤモンド入りでできているか否かのちがいていどで、スペックに大差はないでしょう。大富豪のスマホとて、1000インチディスプレーを空中展開したり、USJのアトラクションのようなバーチャルリアリティが体験できるわけでありません。電脳生活においては、人々の格差は僅少です。

 筆者は高度経済成長の時代を生きてまいりましたが、最近の日本では経済成長が停滞し、若い人たちは将来不安を抱えています。政治家や資産家による富の独占が疑われ、政治家や大企業の経営者は私利私欲のために国を売ろうとしているといった懸念さえもっともらしく聞こえます。
 確かに最近の政治経済は悪意に満ちているように見えます。政治は不平等税制の増強に福祉の切り捨てを推し進め、企業は右肩上がりの経済を維持するために雇用を縮小し賃金を抑える。財力は資産家にばかり流れ込み、人々はどんどん仕事が重くなるのにますます賃金がカットされます。
 筆者の勤める鉄道会社でも、筆者の年代の一般労働者はまともな給料をもらっていますが、それはエリート総合職の賃金を確保するため、会社が仕方なく支払っているもので、若い職員は年金生活者ほども収入がありません。週に72時間働き週休2日も確保されず、今の年金生活者の7割ていどの賃金をもらうだけです。時給にすれば安いパート労働者以下です。かつては6000人いた社員も今では3分の1になり、通常の窓口業務に加えて、かつては監督職の仕事だった金銭管理も現場の仕事になり、駅の掃除や広告、コインロッカーやATMの管理までさせられています。普通列車しか止まらない小さな駅では、独りですべてをこなします。小さな駅といえども数千人の来客があり、200メートルばかりのプラットホーム上下線と様々な設備があります。駅周辺の種々のお店と比べてもかなり大規模な店舗です。個人経営の飲食店でさえ複数名の従業員がいます。これだけの規模の設備です、せめて常駐する清掃員くらい雇えよと思います。駅員は一見上品な制服を着用していますが、汗とほこりにまみれ、日々の汚物処理で細菌の温床です。ゲロ掃除したその手で接客業務をします。
 個人的なことをリアルに語りすぎました、なんだか愚痴になってしまいましたが、言いたいのは、これが最近の日本の優良企業の実態だということです。会社の看板を背負ってフロントマンとして活躍し、種々のメンテや掃除までこなす現場職員の大半が、低賃金住労働者なのです。
 今の若い人たちは、親世代がまともな給料をもらっているので、親と同居していればとりあえず普通の文化人らしい暮らしができるでしょう。しかしながら、親世代の人間はやがて退職して現役から退きます。退職した親たちも年金を減らされ増税を課せられます。自分の子供たちの面倒まで見れなくなります。あと数年から十年もすれば、日本はエリート総合職を除いた一般サラリーマンは数十年前の賃金水準の労働者ばかりになります。物価は今のままで賃金は数十年前の水準、しかも労働内容は数十年前の3倍以上という恐ろしい事態です。企業は、筆者の世代の3分の1の人数の労働者を3分の1の給料で3倍働かせる、そんな暴挙がすでに現実化しています。それでもまだ足りぬと、新しい会計システムが導入され、遠隔案内業務が導入され、会計業務用員の削減、休憩交代用員の削減の準備を進めています。
 企業が人を雇わないので、まともに就業できる若者もわずかしかいません。最近の電脳ネットワークに精通している若者たちの中には、職に就かずにネットを利用した商品の売買でサラリーマンより多くの収入を得ている人もいます。サラリーマンの半分以下の労働で倍以上の収入を得ています。ネットを通じて音楽や小説などの才能が評価され、それで高収入を得る人も少しずつ増えてきました。労働に対する対価という経済評価がデタラメになっています。
 今や、日本という国は、賃金水準の低い貧乏国です。一般市民は労働賃金で家も車も買えません。大病を患っても国は面倒を見ないので死ぬしかありません。一握りのエリートとか勝ち組とか言われる身勝手な人たちが、貧しい国民を食い物にしてのさばっている、それが日本です。
 生産会社は貧民相手では商売になりませんから、グローバリズムとか称して海外に行って儲けることに専念しています。技術も才能も外国に売り飛ばし、日本なんか滅びればいいと思っています。

 筆者は、半世紀以上を生きてきて、今ほどすさまじい格差社会を見たことがありません。政治家や資産家の大老たちは、自分の余生を薔薇色にするために若者たちの未来を踏みにじってもいいと本気で考えているのでしょうか。今は多くの国民が政治不信に陥り、資産家を悪人だと思っています。平民から憎悪されることこそが、選ばれた者の喜びなのでしょうか。
 こんなことばかり考えていると、どんどん気が滅入ります。
 現代は、資産家が攻撃的な投資等を通じて世の中をいいように振り回すことができる時代です。世界の経済事情をマネーゲームなんて表現するのを聞いたことがあると思いますが、まるで神の手のようにゲームを司る人たちは、じつは人類の将来を慮って意図的に悪者を演じているんじゃないだろうか、あるとき筆者はふとそんなふうに思ったことがあります。
 人間という環境を変えるほどの力を持った存在が身勝手なことをするとどうなるか、身をもって教えようとしているんじゃないか、それが世の中を陰で操っている人たちの真意なんじゃないか。
 学校で習う歴史の教科書では、権力争いの話しばかりがクローズアップされていますが、そればかりではありません。伝染病や自然災害と戦った人たちの話し、人種差別と戦った人々の話し、様々な発明や発見、それらの史実もまた教科書に記載されています。人類の歴史は戦乱の繰り返しだという単純にして悲しい結論を裏づけると共に、人類にとって何が必要で何が不用なのかも、歴史の教科書は教えているのです。
 高邁な理想はしばしば独裁者を産み、国民の支持を得るに至り、世の中を戦乱へと導きます。しかしながら戦争は必ず終わり、再建の時代が始まります。その繰り返しによって世界は着実に民主化の方向へ進んできました。軍事における現代戦の背景には、地球を滅ぼして余りある壮絶な火器が存在します。次なる世界大戦が勃発すれば、核を搭載した巡航ミサイルの発射ボタンがいつどこで押されてもおかしくありません。それを食い止めるには、世界大戦の回避と、そのための国々の高度な相互理解しかありません。
 人類は、第二次世界大戦以前のように列強国同士が戦火を交えるわけにはゆかないのです。現代の経済戦争は、その代理戦争であるとも言えるかもしれません。グローバリズムや国際れべるの経済情勢によって、一国の中に大きな格差が生じ、経済バランスが破綻し、将来不安が増長する現状を、この経済戦争を終結させてみよと、世の中を陰で操っている人たちは望んでいるのではないでしょうか。
 自らマネーゲームに興じる人たちにそんな善意はないとおっしゃるかもしれませんが、それならなぜ、インターネットなる最新技術を一般大衆の情報交換ツールとして公開したのでしょう。人々を自在に操り、マネーゲームを思い通りにしたいというなら、インターネットにアクセスするためのプロトコルを一般大衆に公開する必要はなかった。市民は高度なツールを持たず、特権階級の人々だけがそれを独占すればよかったわけです。
 個人と世界をつなぐ電脳ネットワークの技術は、人類の最強のツールです。迅速でひじょうに信頼性の高いこのネットワークで、今の経済は回っています。電子マネーや銀行のオンライン、携帯電話のメールがいい加減で当てにならないもの、使えないものなんて思ったことはないでしょ?
 人々の私利私欲が増長し、人類が本来持っている協調性を失ったらどうなるかを、今の政治経済を司る人たちは、身を持って教えているのではないでしょうか。お前ら、これだけ痛めつけられて、いい加減に気づけよ、そんな声が天から聞こえてくるような気がするのです。
 世の中の腐敗は、人々のあきらめや無関心が招いたことなんだよと、天の声は教えてくれているような気がします。自分たちは無力で何もできない、そう思い込んで悲観に陥っている大勢の市民に対して、天は罰を与える形で教えてくれている、そんな気がします。大勢の人々が気づかないと、人類は前に進めない、一部の権力者が一時的な解決をもたらしたとしても、それはまた次なる悪意にかき消されてしまう、市民レベルでの進化が必要なのです。
 人類最強の情報ツールをパソコンやスマホという形で所持している人々が、どれだけ強大な情報収集能力と情報発信能力を身に着けているか、それをもっと知るべしです。そのことの重要性と可能性を知るべしです。オンラインゲームやチャットや掲示板に精通している人は、電脳空間で人々がどれだけ自由と平等を獲得できるかを痛感しているはずです。性差やルックスや経済力といった足かせから解き放たれ、自由なコミュニケーションが可能になるのが電脳空間です。経済的価値観から開放された架空のお話しが、しばしばよりリアルに人間性を表現できるように、電脳空間ではより素直に、より自分らしくなることができます。
 ネットワークの匿名性を利用した、卑怯な嫌がらせや無責任なデマが横行するのも事実ですが、それ以上に人々は多くのメリットを得ています。でなければパソコンやスマホがこれほど普及することはないでしょう。
 電脳空間を自在に駆け巡ることができる情報端末を手にした現代人には、ひじょうに大きな可能性、大きな力があります。そのポテンシャルパワーが目を覚ませば、社会を良い方向に動かすことができます。そしてその予感は、筆者の中で日増しに大きくなっています。
 筆者は楽観論者です。楽観的というとどうもお気楽な感じに聞こえるかもしれませんが、前に進もうとすれば、明るい方向へ歩もうとすれば、それなりの努力と責任が伴います。お気楽極楽の中にも苦労はあるのですよ。
 調子のいいこと言って、世の中そんなに甘くない、だったら変えて見せろよ、なんて言うのは簡単ですし、リアルで大人っぽく聞こえます。でも悲観からは何も生まれません。楽観からは、生まれる保証はありませんが、生まれる可能性はあります。人類は、できたらいいな、あったらいいな、という希望を、できる気がする、必ず方法があるという楽観に転じ、空を飛んだり写真を動かしたりという現実のものにしてきたのですよ。

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