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生存競争の不在

 生物の進化や、自然界での生態について語るとき、あたりまえのように使われている"生存競争"という言葉は、生物の本来の姿を説明するにはあまりにも不充分です。同様に用いられる"弱肉強食"という言葉も、よく考えてみると極めて矛盾した表現です。
 そもそも生存競争とはいったい何なのでしょう? ひとことで言うと、生き残りをかけた闘争ということになりましょうか。生物は常に生き残りをかけた闘争を続けており、勝者だけが生存を許される宿命なのでしょうか。
 例えば、同じ種類の動物が餌を巡って争奪戦を繰り広げ、勝ったものが生き残って子孫を残し、進化の明日を担う、それが生存競争でしょうか。敗者は淘汰され、勝者は明日の闘いの場に赴き、果てしない闘争を繰り返す。このようにして強い者だけが生き残ることによって、より強くより大きい方向へ、生物の進化は導かれて行く。この説明は定行進化のメカニズムをごく単純に言い表していますね。

 ところが、実際には多くの場合敗者も淘汰されることなく生き残り、子孫を残します。定行進化の法則に従って強く大きな種へと進化を遂げるのは、種の一部であって残りは進化せずに種を保存します。例えばAという種の一部から、より強く大きなBという種が進化したとしてもBという種は滅びるわけではなく、AとBは同じ時代に共存するのです。進化によって新しい種が誕生する場合、種全体が新種へ移行するのではなく、新種が旧種から枝分かれするのが普通で、これを分化と言います。
 ただ、旧種Aと新種Bが同じ環境で競合した場合、Aは衰退しやがて死滅することになり、種の置き換わりが生じることも少なくありません。AはBとの生存競争に負けるわけです。

 では、生存競争とは上述のAとBのように異種間で生じるのでしょうか。生物はふつう同じ種同士が殺し合うことはありません。社会生活や縄張りの習慣を持つ生物は、テリトリーに同種が侵入するとこれを撃退しますが、殺してしまうことはありません。侵入者も他人のテリトリーを認識すると撤退します。生物のテリトリー争いを観察した人間が、勝手に生存をかけた争奪戦だと思っているだけで、彼らは威嚇(に見える)行動によって侵入者に自分のテリトリーの存在を教えているだけかも知れません。
 弱肉強食という言葉は、弱い種が強い種の食事になることを表現いますが、これが生存競争の正しい解釈なのでしょうか。草食獣が肉食獣の餌になるような状況が、生存競争なのでしょうか。テレビ番組等で、肉食獣の狩猟の様子が紹介されると、解説者が弱肉強食や生存競争を同義語のように使っているのをよく耳にします。厳しい弱肉強食の世界だとか、食うか食われるかの生存競争とかいった具合です。でも筆者には、ライオンとシカが食うか食われるかの競争をしているようには見えないし、ライオンがシカを食い滅ぼして勝者になろうとしているようにも思えません。
 捕食者とその餌になる者との関係は、メンタルに考えるとひじょうに残酷に見えますが、じつは両者は絶妙な共生関係にあります。ライオンはシカが滅びると飢えることになりますし、シカはライオンがいないと増え過ぎて餌である草が不足してしまいます。

 先ほどの生物の分化の話しに戻りますが、旧種から分化した新種がいつでも勝者になるとは限りません。新しく分化した新種の方が、分化元である旧種より先に滅びてしまうようなことは少なくありません。クラゲやイソギンチャクの仲間は、太古の姿のままあまり変わらずに今も元気にしています。

 生活環境が、生物に対して一定の淘汰圧を加え続けていることは確かで、それにどれだけ耐えれるか、耐えるのに有利かということは、生物の繁栄と衰退を左右し、その盛衰の様子はあたかも競争のように見えます。そうした中で新しく分化して来る新種は、必ずより強く大きいもので、定行進化の法則を肯定しています。
 ただしそれは、生物に対して加えられる淘汰圧が一定であるという条件下だけの話しです。温暖で肥沃な土地で、植物がどんどん生い茂る条件下では、定行進化は維持されますが、気候は恒久的に一定ではありません。温暖な気候も永久には続かないのです。
 気候が寒冷化して来ると、強く大きく大食の生き物はいつまでも優位に立っていられません。個体の維持に大量の食物を必要とする者は、餌の確保が次第に困難になり、体力が衰え、出産率と子供の生存率が減退します。これに比べ、もともと少食だった小型種はダメージが小さくてすみます。大型種が衰退した分だけ淘汰圧が減少した小型種は、気候の寒冷化に伴って繁栄してゆくかもしれません。

 生物が、存亡を賭けた生存競争を繰り広げているというのは、人間の勝手な解釈です。ライオンはシカと競争しているわけではないし、同じライオンの群れを襲って食い滅ぼすこともしません。弱肉強食という言葉も自然の営みを正しく表現していません。シカは弱いからライオンに食われるのだ、食われないためには強くならねばならないのだ、そんな考え方は自然界には通用しません。シカがゾウのように強く大きな動物に進化したとしても、ライオンを食うことはありませんし、ライオンの方もシカをあきらめて別の餌を求めるでしょう。それに強く大きな者が勝者であるなら、恐竜は滅びなかったはずです。恐竜たちは今よりずっと温暖で肥沃だった中世代に必要とされて進化し、気候の変化に伴ってその役割を終えたのです。
 生物は、生態系という大きな社会の一員に属し、それぞれの役割を果たしながら生態系のバランスの維持に寄与し続けています。地球は多種多様な動植物が各自の役割を果たすことによって維持されている大共栄圏なのです。


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