食物連鎖のピラミッドの崩壊

 生物は食べ物を摂取して生きるためのエネルギーを得ていますが、生物の食べ物は、動物質であれ植物質であれ、他の生物です。生物の食生活関係は、食うか食われるかの生存競争ではなく、食う者は一方的に食う側に立ち、食われる者はいつも食われる側で、両者の間に競争はありません。植物は太陽エネルギーから栄養素を生産し、草食獣がそれを食べ、肉食獣が草食獣を食べます。そして死した肉食獣は死体食や腐肉食の者に食べられ、残りはバクテリアに分解されて土になります。土は植物の滋養となります。このような循環を食物連鎖と言い、生物の生涯はこの循環の輪に組み込まれています。
 食物連鎖の様子をピラミッドとして表現し、頂上にいる生物と底辺にいる生物を種類分けする考え方がありますが、これは極めて奇妙で理不尽な発想です。図式は頂上のとがった三角形として表され、底辺には小さくて弱い生き物が並び、頂上へ行くほど強い生き物が配されます。三角形になっているのは、上へ行くほど個体数が減少することを表しているのでしょう。つまり底辺近くにいる草食獣はたくさんいて大きな群れを成し、これよりも強い肉食獣は頭数が少ないということです。理屈に合っているのですが、わざわざ図式にして説明なくても当たり前のことですね。食う者より食われる方が多くなければ食物連鎖は成り立ちません。
 この図式が生物の個体数の状況を表しているのだとしたら、我々人間はかなり低い位置にいることになります。しかし、人間を常食している生き物など聞いたことがありません。人間は文明の力で武装し、堅牢な営巣地を築き、向かうところ敵なしです。
 食物連鎖のピラミッドという考え方については、生物学の専門家でなくても多くの人が知っていて、自然科学の常識みたいになっているようですが、人間がピラミッドのどの辺りに位置するのかと尋ねると、たいていの人が迷うことなく頂上と答え、一部の聡明な人は判らないと答えます。テレビ番組で生物学の専門家が、堂々と「人間は食物連鎖のピラミッドの頂点にいる」とおっしゃっているのを聞いたことがあります。もしそうだとしたら、このピラミッドは、頂点がおそろしく肥大したものになってしまいます。
 ゾウという大型獣も、卑怯な手を使う人間を除けば、無敵無敗の猛者ですが、植物しか食べない彼らをライオンより上位に置こうと考える人はあまりいないでしょう。

 食物連鎖のピラミッドの矛盾点をちまちまとほじくり返してみても空しいですね。それ以前に生物の食物連鎖をまるで縦社会の序列のように表現する考え方自体が正しくないと言いたいわけです。生物の世界すなわち生態系は、縦社会ではありません。生物たちは、食物連鎖の頂上を目指して覇権を巡る競争を続けているわけではないのです。
 生物はそれぞれの役割をきちんと果たすことによって、生息地での存在を認められ、生態系のバランス維持に貢献しています。ただ、生態系及びそれを取り巻く環境は極めて流動的に変化し続け、その中で生物たちは栄枯盛衰を繰り返しています。新天地を目指して勢力拡大を図ることもあれば、自衛と攻撃のための武装を発達させることもあります。そして適応力で劣った者は敗者として淘汰されます。個々の生物を見る限り、生存を賭した攻防戦を繰り広げているように見えますし、それを生存競争と表現してもあまり矛盾はありません。
 しかし、それを競争と捉えずに共存共栄のための営みというふうに考えると、生態系の全体像と個々の生物の位置づけが、よりいっそう鮮明に理解できます。生物同士の相互関係は、人間界の縦社会のような単純な力関係で表現できるものではありません。人間界流に言うと、ライオンはシカより強く、食物連鎖のピラミッドの上位に位置しますが、見方を変えると、大群を構成して繁栄を極めているシカに、ライオンは寄生して生きているということもできます。生存個体数と勢力範囲において、ライオンはどう頑張ってもシカに太刀打ちできません。両者はそれぞれの役割を果たすべきで、勢力争いなどしようものなら共倒れするだけです。
 ライオンとシカのような肉食獣と草食獣の関係でなくても、同じ肉食獣同士、草食獣同士でも役割分担があり、きちんと住み分けています。生態系の緩衝能力の項でも話しましたように、生物は多種多様の種類が共存して豊かな生物層を形成し、生態系を維持しているのです。
 そうした共存共栄の中で、種の絶滅が生じるのは、淘汰圧に負ける者が生じるのは、生物同士の利己的な競争の結果ではなく、劣勢な種が環境の変化に追従することができなくなるからです。また、生物の進化が強く大きい方に定行的に進むのは、淘汰圧が一定である結果様々な変異が生じても、その淘汰圧に対して強い者しか生き残れないからです。
 生存競争あるいは食物連鎖のピラミッドといった発想は、人間界の縦社会になぞらえて生態系を観察した結果生じた偏見に過ぎません。その偏見が常識のように人々の間に浸透し受け入れられているのは、たいへん残念なことです。
 生物は競争などしていません。シカがライオンを怨んだり復讐を企てたりもしません。人間界の競争社会を、自然界における生存競争を模したもだとする考え方もかなり一般的で、人間も生物の一員なのだから、競い争うようにできているのだと、競争社会を宿命のように言う人も少なくありません。でも実際には、競争している生き物など、人間以外には存在しないのです。


コメント
わわわわわわわわわわわわわわわ〜〜〜〜〜〜〜〜
  • わ〜〜〜〜
  • 2012/02/03 9:27 AM
カモシカの間違いではないですか?アフリカには50種類のウシ科動物がいたと思いますが、シカ科の動物は記憶にありません。私の記憶違いだったら申し訳ありません。
  • シカ?
  • 2013/09/16 3:44 AM
シカ?様。
貴重なご意見ありがとうございます。アフリカ大陸のシカ科の動物については筆者の勉強不足でした。ご指摘のとおり、インパラやレイヨウはニホンカモシカと同じウシ科の動物ですね。
古くはカモシカとも呼称されていたこうした動物を、シカと表現したのはやはり間違ってますよね。
シカ?様のご指摘どおり、この記事ではシカをカモシカに訂正するのが適切だと思います。筆者の無知と不勉強を披瀝するために、しばらくは訂正せずにおいておきます。
  • 筆者
  • 2013/09/16 9:54 AM
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