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進化のシナリオと前適応

 生物の進化の歴史を見ていると、しばしばそれがシナリオのあるドラマであるような感覚に襲われることがあります。そのあまりにも見事な計画性にしばしば驚かされます。
 まだ生物が存在しない原始の地球は、太陽からの強烈な紫外線や宇宙線にさらされ、さながら電子レンジ状態でした。大気はメタンや窒素が主成分のなんとも暑苦しい状態で、酸素などはほとんど含まれていませんでした。
 しかしこの苛酷な地球環境は、じつは生命の誕生にとってとても重要だったのです。大量の紫外線や宇宙線は、地上の有機物を調理して生命の素材となる化合物を生成するのに必要な条件でしたし、酸素が少ないことは誕生しつつある原始の生命にとって幸いでした。他の元素と結び付きやすく鉄をも錆び付かせる酸素は、生物にとってはたいへん有害なものでしたから。
 生物が進化し、太陽光で滋養を生成する原始的な植物が進化してくると、彼らは光合成の際に生じる酸素を大気中にどんどん放出しました。有害物質である酸素の放出は言わば排泄行為でした。多くの植物たちによる大量の酸素排泄のおかげで地球上の大気は大量の酸素を含むようになり、大気上層には分厚いオゾンの層が形成されました。
 オゾン(O3)層は太陽からの紫外線をひじょうに効果的にカットします。紫外線は生命の誕生に必要不可欠だったものの、ひとたび生命が誕生し進化を始めると細胞を焼き滅ぼす有害なエネルギーとなってしまうので、オゾン層によるUVカットは、生物を保護するのに不可欠なものとなりました。
 やがて植物を食べ、それを燃焼してエネルギーにかえるタイプの生物つまり動物が増えてくると、彼らは酸素を必要としたので、植物たちが酸素を排泄し続けることはまことに好都合でした。動物たちは酸素を吸い込み、植物の光合成に必要な二酸化炭素を排出します。
 生命の進化と発展は最初は浅い海で起こりましたが、やがて彼らは陸地にも勢力を拡げました。陸地で植物が育つためには土が必要ですが、無機物の集まりである砂を土に変えるためにバクテリアという微生物が頑張りました。
 このようにして地球は、生命が誕生しやすい電子調理機状態から、生物が住みやすい場所に、生物によって作り変えられて行ったのです。じつに巧妙かつ見事なシナリオだと思いませんか?

 地球は生物自身の手で生物に適した環境に創り変えられたわけですが、それは綿密に計算された計画に基づいて進められたような絶妙かつ劇的な歴史でした。その後の生物進化の歴史も、自然あるいは偶然というにはあまりにも出来すぎたドラマの数々で彩られています。
 その最も顕著な例が前適応といわれる現象です。前適応とは、次の進化に必要な形質や生態を生物が事前に身につけているというもので、進化の計画性を強く感じさせます。
 前適応の身近な事例は、我々人類の進化を可能にしたもので、サルの仲間から類人猿が進化して来た時に起こっています。
 サルの仲間から進化した最初の類人猿テナガザルは、樹上生活の中で"腕渡り"という移動方法を身につけました。前足で枝をつかんだ状態でぶら下がり、前足を交互に繰り出しながら枝を渡って行くやり方ですね。
 哺乳動物の中でも霊長類のなかまは、ずいぶんむかしから前足で物をつかむという機能を発達させており、サルの仲間が進化してくると前足のこの機能は"手"としてさらに進化してゆきました。そしてテナガザルの仲間がサルから進化して来たわけですが、霊長類が前足に物をつかむ機能を発達させたことは、サルに手を与えるための前適応でありましたし、テナガザルの腕渡りを実現させるための前適応でもありました。
 そして、テナガザルがぶら下がり姿勢で体を垂直に維持することは、類人猿から人類が進化して来るための前適応でした。テナガザルが体を垂直に維持し、顔を体に対して垂直の方向に向けるという機能が発達しなければ、人類の直立二足歩行スタイルは実現しなかったでしょう。
 セキツイ動物の仲間は、魚類から爬虫類、両生類、鳥類、哺乳類に到るまで、首の骨が背骨に対して水平で、その先に頭部が付いていますから、顔は体に対して水平方向つまり前を向いているわけですが、テナガザルの仲間は首の骨を腹の方向に曲げ、顔を体に対して垂直の方向を向くようにしました。でないと腕渡りの時に前でなく上を見るしかありませんからね。
 セキツイ動物が陸生動物に進化して以降、首が自在に動き、回頭性が生じたことは、テナガザルが顔を体に対して垂直に向けることの前適応であったと言えるかもしれません。
 また、魚類が水から出て陸生動物に進化するには、肺呼吸が不可欠でしたが、肺という器官は、魚類の浮力調整タンクである浮袋が変化して生まれました。魚類の浮袋は両生類が肺を獲得するための前適応だったわけですね。
 このように、生物の次の進化を想定していたような器官や機能の発達は、生物進化の歴史の中で随所に見られます。その見事なストーリー性には感動すら覚えます。
 生物が進化して新しいタイプのものが誕生する場合、先祖にない器官や機能が唐突に現れるということはありません。先祖が持っていたものを巧みに応用して新たな形質を作り出すのです。進化について知るうえでこれはひじょうに重要なことです。


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