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羽毛と知性

 動物は恒温動物と変温動物に区分され、鳥類や哺乳類は恒温動物とされていますが、中生代の進化的爬虫類の多くも実は恒温動物のように安定した体温を維持し、高い知能を持ち高度な社会生活を送っていたと思われます。ただ、彼らは体温の維持を中生代の温暖な気候に委ねていたので、正確には恒温動物とは言いがたいですね。
 恒温動物、変温動物という表現とは別に、体温の維持を外気温に委ねる動物を外温動物、自ら熱を発し外気温の変化にかかわらず体温を一定に維持する動物を内温動物という言い方があります。この表現は動物の機能を極めて的確に表していると思うので、もっと一般的に使ってもらいたいものです。

 鳥類は、初期の恐竜の仲間から分化した内温動物です。中生代の大型化ブームとは裏腹に、小型軽量高性能の動物としての道を選び、その究極の形として飛翔動物にまで進化しました。
 複雑な姿勢制御や方位感覚を必要とする飛翔生活は、優れた感覚器と高い知性を必要とします。そのために恒温性を維持することは大変重要で、体の体積を大きくして保温効果を得ることができない代わりに内温機能を確立しました。そして羽毛の発達が体温の安定に大きく貢献しました。羽毛は飛ぶためだけでなく、鳥類の小型軽量ボディの体温維持と知性の発達にもなくてはならないツールなのです。
 鳥類の飛翔は、翼竜類のような滑空ではなく飛行というべきものです。滑空動物は膜や翼に蓄えた浮力と、位置のエネルギーによってグライディングするのですが、鳥類は高度な羽ばたき運動によって推力を発生させて飛ぶことができます。高所から飛び降りなくても、地上から羽ばたいて離陸することもできます。すごいですね。
 羽毛で覆われた翼は、複雑な形状と動きによって高度な操舵性を発揮しますし、破損にも強いです。翼竜の翼は1枚膜なので事故で裂けてしまうと回復が大変です。裂けた翼では滑空もできず、深刻な生命の危険にさらされます。その点羽毛の翼は1本1本独立した羽根でできているので基本的に翼が裂けるようなことはありません。
 羽毛は、飛行や体温調節に絶大な威力を発揮するほか、装飾の機能も高く、オスがメスの気を引くためのディスプレイにも活用されるようになりました。羽毛は形状や色彩のバリエーションを広げるにも有利ですから、彼らのディスプレイはたいへん華々しいものになりました。恐竜の中にもディスプレイによる求愛行動を行なうものがたくさんいたにちがいありませんが、鳥類のディスプレイ能力や立体的な動きによるパフォーマンスは卓越していました。
 鳥類は、求愛行動や巣作りといった知性的な生活を送りますが、その知性は高い運動能力や飛行技術を支える感覚器とそれを制御する脳の働きによって育まれてゆきました。
 しかし、彼らの脳の発達には大きなハンデがあったのです。それは飛ぶために体重を増やせない、つまりあまり脳容量を増やせないことです。そこで彼らは大脳よりも脳幹を発達させ、そこに生きてゆくためのプログラムをたくさん蓄積しました。脳幹に蓄えられたプログラムはいわゆる本能といわれるもので、鳥類は学習するまでもなく本能で、巣作りや高度な生活様式を維持しています。もちろん大脳もあって経験による学習も行ないますが、学習の割合を増やすと、大脳の容量と消費エネルギーも大きくなってしまうので、小型軽量高性能を目指すには不都合です。

 鳥類は内温動物ではありますが、多くの哺乳動物ほど高い恒温性を有していません。食物を体内で燃焼して発熱するには、大量のエネルギーを消費しますから、その分食事量も増えます。食事量が増えると体重も増加し、それを動かす消費エネルギーも増えます。そこで彼らは羽毛で放熱を抑えることで発熱の負担を減らしているのです。
 彼らはまた、大型陸棲動物のように胎生による繁殖も困難です。母親の胎内で胎児を充分に成長するまで維持しようと思えば、これも体重の増加を招いてしまいます。幼生は卵の形で産み落とし、孵化した幼生(ひな)を巣の中で管理します。
 卵生の爬虫類の多くは、卵を産みっぱなしにしますが、鳥類は巣の中で親鳥が卵を温めるという習性を会得しました。胎児は温かい卵の中でスクスクと育ち、孵化すると親の庇護を受けて安全に成長します。卵を産みっぱなしにする原始的な爬虫類よりも格段に幼生の生存率は向上しました。ちなみに鳥類と近縁の恐竜類すなわち進化的な爬虫類の多くも育児を行なったと思われます。あるいは小型の恐竜の中には内温機能を備えたものもいたかもしれません。

 鳥類の内温動物としての機能は、哺乳類ほどには高くありません。飛翔生活に肥満は禁物なので、たらふく食べてどんどん燃やして発熱するなんて余裕はもてないのです。摂取と消費を極力抑えて溜め込まない、いつも身軽でいる、それが飛翔生活のモットーです。
 鳥類の一部に、託卵という習性をもつものがいます。メスが他の種類の鳥の巣にこっそり産卵し、抱卵と育児を押し付けてしまうというこの独特の生態は、じつは現生の鳥類にもけっこう見られるのです。これは自分の内温機関があてにできないので、卵とひなの保温を他者に依存するためであり、鳥類の恒温性が充分でないことの表れのひとつかもしれませね。
 また、鳥類が進化し放散を開始した中生代は今よりもずっと温暖だったので、それほど高性能な内温機関は不要だったのでしょう。軽量ボディを羽毛で包むだけで充分な恒温性を維持できたのです。
 動物の体毛の中でも羽毛ほど特殊化の進んだものはないでしょう。まさに体毛進化の究極の形ですね。鳥類は、骨格をはじめ多くの身体的特徴で進化的爬虫類と近縁で、その一員であるとさえ言われることがあるのですが、羽毛の発達という顕著な特徴をもって独立したグループと見なすべきだと思います。ただ、中生代前期の鳥類と近縁な爬虫類に羽毛が発達していた可能性は皆無ではありません。哺乳類を派生させた獣形類(爬虫類の仲間)が、多くの点で哺乳類的特徴を備えていたように、羽毛を持った恐竜もたくさん存在したかもしれないのです。

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