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DNAと生物界

2014/07/13


 生物の形質は、親から子へと遺伝します。単細胞生物の場合は、細胞が2つに分離して2匹の娘細胞になるので、遺伝は簡単なように思われます。細胞分裂によって生まれた娘細胞は、単純に親を半分にしただけなのですから。しかしながらその細胞を構成する内容は生物である限り単なる有機化合物よりはいささか複雑で、タンパク質をどのように組み立てて体を構築して行くか、その設計図をどこかに書き留めておかねば、緻密な体組織構造を正確に再構築することは難しくなります。そこで遺伝子というコンピューターのようなものを組み込んだ細胞核を持つようになったのが、真核生物と言われるものです。
 ご存知DNAとは、細胞核の中の遺伝子コンピューターの記録メディアであってそれだけでは機能しません。コンピューターに使用するDVDやHDもそれ単体ではなにもできませんよね。コンピュターは0と1という2つの数字を使った2進数で演算を行うので、その記録メディアには、0と1に見立てた2種類の素子(磁性体の磁気のNSみたいな感じ)が使われますが、DNAは4種類の塩基という物質を並べた記憶媒体です。4種類の塩基が延々と連なったたいへん長い紐状物質です。それはまた2本が対になっていてそれぞれの塩基同志が、塩基対原理(または塩基の相補性)に基づいて水素結合で結びついています。
 DANを構成する4つの塩基すなわちアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)は、AとT、GとCという組み合わせ以外で水素結合しないので、1本の塩基配列が決まれば、対になるもう1本の塩基配列は必然的に先の1本を反転させた配列になります。このような配列で2本のDNAは並走しており、それがらせん状つまりコイルになっているので、DNAの構造はよく2重らせんとも言われます。
 DNA上の塩基配列が遺伝のシーンで具体的にどのように活用されるのかについて、専門書等ではしばしばタンパク合成の仕組みで説明されています。タンパク合成とは、生物の体組織に使われている20種類のアミノ酸をどんな順番でいくつつなぐかということです。タンパク質は、アミノ酸をひも状につなげたものを糸玉のように丸めたものですから、ひもの中身すなわちアミノ酸の配列が決まればどんなタンパク質を合成するかが決まることになり、DNAの中にはその情報が含まれているということです。
 タンパク合成の際には、DNAの2重らせんの一部が特殊なタンパク質によってファスナーを開けるように解かれ、露出した塩基配列にあらかじめ用意しておいた塩基を水素結合させて並べて行きます。解かれたDNAの塩基配列が、AGCTAGCTならそれと結合して生成される配列は、塩基対原理に従ってTCGATCGAと反転した配列になります。ただしここで生成される塩基配列にはDNAではなくRNAという核酸が用いられ、そのためチミン(T)はウラシル(U)に置き換えられます。DNAの一部を反転転写して作られたRNAに並んだ塩基配列がタンパク合成に用いられるコード(コドン)で、3塩基で1つのコードになっているので、トリプレットコドンとも呼ばれています。
 DNAの一部を反転して写し取った塩基配列すなわちトリプレットコドンが得られたことで、ようやくこれでタンパク合成の設計図が手に入りました。この設計図はメッセンジャー(m)と呼ばれ、mRNAというふうに表記されますね、学術書では。mRNAはこれだけでは単なる記録媒体でしかないので、リボゾームという再生装置に通されます。そこにはトランスファー(t)というRNAすなわちtRNAが大行列を成して待ち構えていて、mRNA上のコドンを読み取ってゆきます。tRNAは短い塩基配列が3つ葉のクローバーの形に屈曲しており、中央の葉の部分にmRNAの読み取りヘッドがあり、それとは反対の茎の先端にアミノ酸1つを従えています。
 mRNA上のコドンがGAAであれば読み取りヘッドのところにCUUという塩基を持ったtRNAが水素結合し、そのtRNAはグルタミン酸というアミノ酸を従えています。mRNA上のコドンと水素結合するtRNAの部位は、コドンを反転させたものなのでアンチコドンと呼ばれています。
 コドンに対応するアンチコドンを有するtRNAが従えているアミノ酸は決まっているので、mRNA上のコドンの配列はアミノ酸をどんな順番で並べるかの指示書ということになり、それに従ってアミノ酸をつないでゆけば、必要なタンパク質が生成できるというわけです。

 以上長々と語りましたが、いかがです? これでDNAのすべてが解りましたね。また、知識がある方は読んで損をしましたね。問題はここからです。以後の話しはだんだんSFじみてまいります。
 mRNA上に記述されたコドン(トリプレットコドン)が特定のアミノ酸を定義することは科学の常識です。学術書にはRNAコドン表が記載されていて、どのコドンがどのアミノ酸を定義するかが判ります。ではコドンはどのようにして1つのアミノ酸を特定するのでしょう。コドンに対応したアンチコドンを有するtRNAが定められたアミノ酸をまちがいなく従えているのは、どのようなメカニズムによるものなのでしょう。筆者がむかし泣きながら読んだ学術書には、コドンとアミノ酸との間には、なんの整合性も親和性も認められないとありました。科学の常識に秘められた壮大なミステリーです。なんでそうなるか解らないけれど、そうなっているのが常識であるというわけです。
 我々人間は、遺伝子中の記憶メディアをDNAと呼びますが、そのことをサルに言い聞かせてもウキッ? とか言われるだけです。DNAが何を意味するかは共通言語を知識として習得している人間の間だけに通じる暗号です。人間の学識はAUUというコドンがイソロイシンを表しているということを突き止めたわけですが、イソロイシンというアミノ酸を表すのに塩基でAUUまたはAUCまたはAUAと記述するというのは生物界の常識なのです。サルのことをなんでそう呼称するのかと今さら聞かれても困るように、生物界の常識でそうなっているのだから仕方ありません。
 我々多細胞生物は、世代交代の際に受精卵という1個の単細胞に還元されます。世代交代のたびに1個の単細胞からやり直すのです。それは親とは完全に独立した閉じた系であり、へその緒でつながっているとしても滋養の供給を受けるだけで、親の細胞を1個たりとももらうことはありません。子の持つ遺伝子は両親から半分ずつを継承して作られた独自のものです。
 遺伝子を有する受精卵は、たった1個の細胞から親と同じ生物を1から作り上げることができます。そのための情報もDNAの中に記述してあるのだとすれば、タンパク合成の基本を学んだところで、遺伝子について理解できたとは言えません。むしろ遺伝子のほとんどの部分を知らないままです。
 生物の形質に関する設計図はDNAに記述されているとして、親から譲り受けた癖とか才能とかはどのように遺伝するのでしょう。あるいは隔世遺伝と呼ばれる祖父母の代から受け継ぐ才能については? そういったこともDNAには記述されているのでしょうか。顕微鏡サイズの受精卵を眺めてもほかに遺伝情報の受け渡し場所はなさそうです。
 人間のように生きるための常識や言語を、遺伝ではなく1から学習し直す生き物はともかく、生きるための行動のほとんどを本能に依存している生き物たちは、行動パターンをどのようにして親から受け継ぐのでしょう。クモは誰からも習わずにその時の立地条件に応じた適切な巣を自力で作りますし、アリンコたちも社会生活を営むのに教育や訓練を必要としません。壮麗な多重構造を有するハチの巣も図面も指揮者も必要とせず、それぞれのワーカーの本能が結成され自動的に完成します。こうした緻密で複雑な行動パターンを制御するのは間脳という部位だと言われていますが、世代交代で1個の受精卵に還元される生物たちは親の間脳を直接受け継ぐことはできません。
 形質や生態の遺伝される情報のすべてはDNAに記述されているのでしょうか。それともDNAの設計図に従ってタンパク質を組み立てて行くだけで、次世代の脳の中に生態をつかさどるすべての記録が再現されるのでしょうか。
 コドンの話しに戻りますが、コドンとアミノ酸の間に整合性も親和性もないのだとしたら、それは物理的な矛盾です。正常に機能していることが矛盾です。そうなったいるのだからそれでいいのだと結論付けるのなら、唯物的な科学そのものを否定することになります。
 生物界の常識と言う表現を上述しましたが、生物は個々に自立して機能する系ではありますが、それは物理的な話しであって、じつは壮大なネットワークなのではないかと筆者は疑っています。生態系という用語は生物のみならす一定の閉じた環境の中に含まれる土壌や無機物質をも含みます。同様に生物界というものは、地球という1つのシステムに組み込まれた要素のうちの生物部分だけを指しているのであって、あらゆる物質および事象現象を統一的に観ることが自然界を理解するのに重要なのではないかと考えています。ガイア理論の考え方では地球を1個の生命体のように見るそうですが、それに似ているかも知れませんね。
 ホームページを自作される人なら、CSSを用いて複雑な修飾をそこに書き込んでおけば、HTMLの記述がすっきりすることをご存知ですよね。HTML内でA=Cみたいな簡単な記述だけで、ホームページ上で複雑な命令を実行するのはどうしてかというと、命令の内容をCSSに別記してありHTMLと関連づけがなされているからです。同様に遺伝子内のコドンとアミノ酸の間に整合性や親和性がなくても、どこか別のところに双方を関連づけるための記述があって、生物界を含む広大なネットワークに参加していれば、その記述にアクセスすることができるのだとしたら、コドンがそれ自体意味を持たない3つの塩基の羅列だけでアミノ酸を特定するという高等な芸当が可能になるでしょう。
 そのネットワークはもしかすると宇宙を網羅する途方もなく広大なものかもしれません。
 DNAが隕石に乗って飛来した地球外物質の可能性を論じた記事を読んだことがあります。筆者はそれを否定できません。DNAは遠い宇宙から飛来し、生命にとって理想的な惑星に到着すると、その環境に応じた生物を進化させる仕組みの装置であるかもしれません。DNA由来の生物は不可逆的に進化を続け、惑星環境に合った生態系を構築するようにプログラムされているのかも。そうして知的生物を進化させることがプログラムに含まれているかどうかは難しいところですが、DNAが人為的な意思によって宇宙に放たれたものなら、知的生命への進化もシナリオに組み込まれているかもしれませんね。

 私たちは、DNAという生命を創造する装置によって幾多の実験を行なって来ました。地球という惑星ではそれは大きな成果を上げ、たいへんユニークな動植物が次々と誕生しました。原始の地球において太陽からの紫外線や宇宙線は有機物を効果的に生成するのに有益でしたが、やがて微生物がたんじょうすると、その脆弱な体を焼き殺してしまう紫外線は有害なものになりました。しかし地球の生命は大量の酸素を放出してオゾンの層を大気の上層に構築することで、紫外線の地上への到達を安全レベルにまで引き下げることに成功しました。メタンガスでくすんだ原始の地球の大気は、大量の酸素によって浄化され澄み渡りました。多くの物質と結合して酸化させてしまう酸素は、原始的な生物にとってはとても有害だったので、生物が増えると代謝中に生成される酸素量も増え、ひじょうに多くの酸素が大気中に放出されたのです。しかしやがて酸素を利用してエネルギーを燃焼し、大きなパワーを出力する大型の生物が登場しました。彼らは大胆にも酸素を呼吸し、それで栄養を燃焼して活力に変えたのです。栄養は他の生物を捕食することで得ました。こうして地球上の生物界は生産者と捕食者、植生と動物たちといった豊かな層が育まれるようになったのです。豊かな生物層は地質学的な幾多の危機を乗り越える力がありました。地殻変動による気象の大きな変化は惑星にはつきものですが、短期的に大きなダメージを受けても、生物はやがて復活し生態系を維持し続けました。そしてその中から知的生命も進化しました。
 1万年ばかり前に本格的な文明時代を迎えた地球の知的生命は、とても豊かな自然に囲まれたじつに幸運な存在ではありますが、大きなエネルギーを有する惑星では、知能を持ったものというのは野心も大きくなり群れを統率する者たちは富を巡って激しく争うようになりました。1つの星にありながらひじょうに多くの文化圏に分かれて抗争するようになり、破壊と殺戮が延々と続きました。そうして最近になって地球規模の電脳ネットワークを実現した彼らは、争いを続ける反面、文化レベルではひじょうに接近して互いの存在を確かめ合うようになり、富を巡る権力に固執した群れづくりではなく、ネットワークを通して協調し得る社会の足掛かりをつかもうとしています。
 近年、核エネルギーを応用した壮大な火器を彼らが手に入れた時には、地球での実験も失敗に終わるかと思えましたが、民衆文化の向上とネットワークを活用した文化圏の広がりにより、致命的な争いを回避し、社会的により高みを目指す可能性が広がってまいりました。地球人類は破壊や浪費を繰り返して来ましたが、他の生物をも慈しみ豊かな自然を取り戻そうという発想が持てるのもまた彼らだけなのです。彼らは今、大きな岐路に差し掛かっていると言えるでしょう。彼らがどのような道を進むことになるのか、そう遠くない将来に何か答えが見つかる気がしています。

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