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真獣類の進化と大陸移動

 哺乳類の進化放散において大陸との関係は無視できません。というのも彼らがもともと陸棲動物で、適応放散の道のりはほぼ陸伝いであったからです。現生の哺乳類は真獣類(有胎盤類)がほとんどを占めている状態ですが、真獣類との競合に敗れた有袋類が今でもオセアニア地方と南米に生き残っているのは、これらの土地が他の大陸から海で隔てられているおかげです。これらの土地に陸伝いに侵攻して来る新種の勢力が、有袋類の存続を脅かすほどではなかったというわけです。オセアニア地方と南米は長らく有袋類の楽園のままで、今ではそれぞれ別々の進化系統の有袋類が住んでいます。
 真獣類の進化系統も土地柄の差異がひじょうに顕著で、最近の分類学でもアフリカ獣類とか北方真獣類といった風に、進化系統ごとに地域別のグレード名がついていたりします。
 生物の分類には、界・門・綱・目・科・属というグレード名が用いられますが、現生の哺乳類すなわち哺乳綱(こう)には29の目(もく)が含まれ、そのうち1目がカモノハシやハリモグラの属する単孔目で、これは卵生哺乳類(原獣類)の生き残りです。2目が南米の有袋類(後獣下綱)、5目がオセアニアの有袋類、残りの20目が真獣類になります。
 進化の歴史をたどるには、現生の生き物だけに着目してもだめで、絶滅してしまった動物も含めて分類してゆくべきなのですが、哺乳類の場合、豊富な現生種を分類するだけでもかなり具体的に進化の歴史のドラマを見渡すことができます。

 真獣類(真獣下綱)20目の動物たちは、アフリカ獣上目、異節上目、ローラシア上目、真主齧上目という4つの上目(じょうもく)に大別されます。アフリカ獣上目はその名のとおり進化の発祥がアフリカとなる動物群で、大陸移動で1億年以上前にアフリカ大陸が他の大陸から分かれたことが起源であるとも言われています。異節上目はこれも1億年以上のむかしに大陸移動で南アメリカが独立形成された際に、そこに隔絶された真獣類が起源になっています。ローラシア上目もやはり大陸移動にちなんだグレードで、超大陸パンゲアが南北に分裂して北のローラシア大陸と南のゴンドワナ大陸に分かれた際に北の大陸に生息していた真獣類が起源です。ローラシア大陸は現在のアジアと北アメリカを含み、ゴンドワナ大陸からはアフリカと南アメリカ、オセアニア、南極が含まれます。そして最後の真主齧上目は起源が1億年以内と新しい動物群で、ローラシア上目から分化したと言われています。ローラシア上目と真主齧上目を統括して北方真獣類と呼称したりします。

 アフリカ獣上目の中でも原始的な3目、長脚目、アフリカトガリネズミ目、管歯目は今でもアフリカ大陸にのみ生息するネズミタイプの小動物ですが、管歯目に属するツチブタは全長1メートルを越えるいささか大型の動物です。アフリカ獣上目の仲間には、極めて進化的で大型化を果たした、近蹄類と言われる動物群が分化していて、初期の動物は現生の岩狸目のようにネズミタイプの小動物であるものの、やがて長鼻目や重脚目といった巨大動物を排出しました。重脚目は容姿も体格もサイのような大型草食獣で、長鼻目はご存じゾウの仲間です。2者はともにアジア大陸にまで進出していますが、重脚目の方は絶滅しています。束柱目もやはり絶滅動物ですが、彼らは草食獣でありながら水棲生活に傾倒していました。さらに水棲生活に適応した海獣目は海草を主食とする完全な水棲動物で、今でもジュゴンやマナティが世界中の海や河川で暮らしています。

 異節上目は、アルマジロ類を含む被甲目と、アリクイ、ナマケモノを含む有毛目の2目を擁しますが、いずれもひじょうに特徴的な生き物ですね。かつては3メートルを超えるアルマジロ類や全長6〜8メートルの地上性ナマケモノが存在し繁栄を極めました。とはいえ南アメリカの先住者である有袋類の生存を脅かすようなことはなく、南米では今も90種類以上の有袋類が生息しています。

 現在のユーラシア大陸と北アメリカは、かつてはローラシアという超大陸としてつながっていましたが、次に紹介するローラシア獣上目はそこで進化放散を開始した動物群です。
 現生のトガリネズミ目(モグラの仲間)やハリネズミ目は古いタイプを今に伝える原始的な仲間ですが、やがてより活発に活動し樹上生活や草原での暮らしに進出してゆく仲間が現れ、ローラシア獣上目の爆発的進化放散が始まりました。
 その中のキモレステス目の仲間は、樹上生活に適応したイタチやオポッサムによく似た動物で、そこからやがて有鱗目という鱗を有する哺乳類(センザンコウ)や、草原に出て他の小動物を狩る肉歯目を分化しました。肉歯目よりもさらにハンターとして進化したのが食肉目で、ネコやイヌ、クマ、イタチ、水棲動物のアザラシ等がこの仲間です。キモレステス目、有鱗目、肉歯目、食肉目をまとめて野獣類と呼称したりします。野獣類のうち現在も生き残っているのは有鱗目と食肉目の2目です。
 キモレステス目と近縁で、ローラシア獣上目の進化放散の黎明期に分化した仲間に次のようなものがあります。草食生活に特化した汎歯目、大きな鉤爪を有する紐歯目、齧歯類に似た前歯を有しかなりの大型動物を輩出した裂歯目、小型の食虫動物である幻獣目など。これらはいずれも絶滅していますが、蹄を持ち最初の大型草食動物として栄えた汎歯目の仲間は、南アメリカや南極大陸(当時は今より温暖だった)にまで生活圏を拡げ、形態的にも地上性ナマケモノに似たものやカバに似たもの等、さまざまな動物が分化しました。かつては有蹄類の始祖とも言われた顆節目もオセアニアを除く全大陸に分布を拡げた草食動物ですが、そもそも有蹄類という分類は進化系統分類学では適切なグレードではなく、彼らはおそらく奇蹄目やその近縁の仲間の始祖なのでしょう。
 顆節目から始まった蹄を持つ大型草食獣の分化は多岐に渡り、とくに真獣類があまり入り込まなかった南アメリカでは、南蹄目、滑距目、火獣目、雷獣目、異蹄目といったさまざまな動物が分化し、形態的にもウマ型やサイやカバ、あるいはゾウに似るなどの多様化が分化し見られました。北アメリカとアジアではサイに似た恐角類が栄え、現生のウマ、サイ、バクを擁する奇蹄目はアフリカにも進出しました。しかし現在では奇蹄目以外はすべて滅亡し、唯一の生き残りの奇蹄目も、同様に蹄を持つ草食獣である偶蹄類の進出に圧倒され、今では20種類ほどが生存しているにすぎません。
 ローラシア獣上目がさまざまに分化し始めた頃、おそらく樹上生活の中から前足と体側にかけて皮膜を発達させ、滑空する小動物が進化して来ました。それがコウモリの仲間である翼手目です。彼らの翼はどんどん飛行能力を発達させ、やがて鳥類と同じく動力飛行が可能になりました。中生代の翼竜や哺乳類のモモンガやムササビ、ヒヨケザル、ウロコオリスのような滑空ではなく、翼の動きによって動力を産み出し、長距離を飛翔するのです。そして哺乳類の適応放散の道のりである陸伝いを凌駕し、海を渡りました。現存するコウモリでも南極大陸を除くあらゆる大陸と、海に浮かぶ島々にまで分布しています。かつて南極大陸が今より温暖であった頃には、そこにもコウモリはいたかも知れませんね。
 翼手目と奇蹄目、現存する野獣類の食肉目と有鱗目を合わせてペガサス野獣類と呼称されたりしますが、このことはこれらの目が進化系統上で近縁であることを示し、偶蹄類とは疎遠であり、奇蹄目と偶蹄類を含める有蹄類という分類が無意味であることを示しています。ペガサス野獣類が進化系統に基づくグレードなら、絶滅した多くの同系統もこれに含めるべきだと思うのですが。
 ローラシア獣上目の中で最も壮大かつ多様な進化を遂げたのが、先ほどからしばしばその名が挙がる偶蹄類を含む鯨偶蹄目でしょう。メソニクス目(別称無肉歯目)という肉食動物群を始祖に持ちながら、イノシシやラクダ、シカ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、カモシカ、キリン、カバといった草食動物と、イルカやクジラの大型水棲動物まで輩出しています。鯨偶蹄目の内の陸棲草食獣たちはイノシシとラクダ以外は、反芻という高度な植物消化システムを有しており、これが奇蹄目との競合に勝利した秘訣にもなっています。またカバは、子育てを水中で行なう、水中でコミュニケーションができる、無毛であるといったイルカやクジラとの共通点も多く、彼らが水棲動物への移行形態のまま現在にいたっていることが解ります。

 真獣類の現在の多種多様な目が生じたのは、今から約6500万年前の恐竜や大型爬虫類が絶滅した以降のことです。しかしながら、アフリカ、南アメリカ、北方大陸のそれぞれの動物群の遺伝子レベルの分化は1億年以上前から始まっていたそうです。遺伝子レベルでは別々の動物群として分かれていたのに、新生代を迎えるまでは彼らは一様にネズミタイプの小動物として似たような形態と生態を維持し、爬虫類の大繁栄の陰で細々と生きていたわけです。
 彼らが爆発的な進化を遂げ、次々とユニークな新種が誕生し数多くの目が生じるようになったのは、大型爬虫類不在のあと生活の場が一気に拡がったからである、と多くの書物に記述されていますが、ここで忘れてならないのは同様に爆発的な進化放散を果たし、先に覇者の座をものにした鳥類と、その政権を短期で終わらせた有袋類の進化のドラマです。真獣類の覇者の座は新生代になってから3代目ということになり、新生代初期はじつに目まぐるしく政権が交代した時期であったというわけです。

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