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哺乳類の時代の終焉

 哺乳動物においても最も巨大化を果たしたのは、恐竜類と同じく草食動物です。肉食獣のクマやライオンもたいへん大きな動物ではありますが、草食動物の中にはさらに巨大なものがゴロゴロいます。肉食獣の場合はハンターとしてのしなやかで複雑な挙動を実現するには、体のサイズにも限界があるのでしょう。
 大型動物は、体を維持するためにたくさんのエネルギーを必要とします。哺乳類では内温性を保つのにさらにエネルギーを消費します。ゾウのような巨大な草食動物は、動物質に比べて栄養価の低い植物を食べて体を維持してゆくために、日がな一日食べています。彼らの主な仕事は足元に広がる草原を刈り続けること、そう言って過言ではないくらいです。動物園などでも肉食獣の食事風景はあまりお目にかかりませんが、草食獣はいつ見ても口をモグモグさせていますよね。
 それでも、巨大な草食動物たちがいくら食べても、草原の草は尽きません。新生代中期の哺乳類全盛期の大草原には、見渡す限り巨大草食獣の群れ、といった圧倒的な光景が広がっていたそうです。
 草食哺乳類の代表格はなんと言っても偶蹄類といわれる、四肢に蹄(ひづめ)を持ち反芻という高度な植物消化システムを有する動物たちです。この仲間はまた鯨偶蹄目というグレードにまとめられ、そこから史上最大の動物であるクジラを分化させています。

 有蹄類という今では古語になりつつある名称で呼ばれる陸棲草食動物の偶蹄類と奇蹄類は、互いに競合しながら進化して来ました。両者は蹄の数が偶数か奇数かで分けられますが、陸棲動物のもともと5本あった四肢の指が、人差指と中指の間を中心に、外側から順に消失していって最終的に2本指になったのが偶蹄類、中指を中心に外側の指がなくなって行き、3本指そして最終的に1本指になったのが奇蹄類です。
 両者は共に、駆けることに特化して行った仲間で、四肢は力強く大地を蹴るために進化しました。とくに奇蹄類の1本指は、究極の蹄と言うべきもので、足首と同じ太さの指に頑丈な爪がついており、言わば生涯クツを履いているようなものです。一方、偶蹄類の方は四肢の進化もさりながら、植物摂取のための究極の器官を発達させました。消化しにくい植物を吸収するために複数の胃を持ち、それらを循環した食物は再度口の中に戻され改めて噛み砕かれます。反芻というこの独特の消化システムは、イノシシとラクダ類以外のあらゆる偶蹄類に見られます。

 新生代はまさに哺乳類の時代で、恐竜の再来を思わせる巨大動物が大地を闊歩し、大洋を支配したのでした。見渡す限りのウマの群れ、見渡す限りのゾウの群れ、そんな壮大な光景は、今はもう見られません。究極の進化を遂げたそれらの動物たちは、新生代末すなわち現代までに次々と姿を消して行きました。現生のウマやサイ、ゾウ、そして大型のクジラたちは、かつて地球上の覇者だった動物群のわずかな生き残りに過ぎず、それも次第に数を減らしつつあります。哺乳類の時代は、すでに終わったのです。
 古生物学には、地球のこれまでの歴史を4紀に区分する考え方があります。それによると、古生代以前を第1紀、中生代を第2紀、新生代を第3紀とし、新生代の最後の258万8000年前から現在までを第4紀とします。哺乳類の時代は第3紀で終わり、大型で最も進化的な哺乳動物たちは、前述の最後の生き残りを残して滅び去りました。
 これまでの陸棲動物の進化の歴史を見ますと、古生代(第1紀)に地上を席巻した両生類の時代が終わると、爬虫類がこれに台頭し、爬虫類が覇者であった中生代(第2紀)が終わると、新生代(第3紀)には鳥類が勢力を伸ばし、次いでその勢力を打ち負かした哺乳類が支配的地位を獲得するといった、ひじょうに明瞭な勢力交代劇が伺えます。そして現在(第4紀)、新生代の覇者である哺乳類も王座を降り、極めて進化的な大型動物を中心に滅亡を迎え、爬虫類や鳥類と同じく小型動物を中心とした多様化を図っています。
 哺乳類の時代が現在も続いていると考える人は少なくないでしょう。確かに史上最大級の動物の生き残りは哺乳類ですし、爬虫類や鳥類、両生類にあれほどの巨大動物は現生していません。しかしながら巨大哺乳類はもう間もなく、数万年もすれば滅亡してしまうでしょうし、かつて地上を埋めつくした奇蹄類も滅亡間近です。大型の肉食獣たちもその多くが衰退の一途をたどっています。大型の類人猿もわずかな生き残りが現存するだけです。
 哺乳類の仲間で最も進化的だった動物がことごとく滅亡に瀕し、哺乳類全体としては小型多様化を図っている現状をもはや哺乳類の時代というわけにはゆかないでしょう。
 それでは現在(第4紀)は、何の時代なのでしょう? 覇者がいないのに従来型動物が覇権を奪われるというのは生態系の構造的におかしいですよね。それでは脊椎動物全体の危機になってしまいます。
 現在はご承知の通り、人類の時代です。これまでの脊椎動物はさまざまな種を分化させて、地球上のいろんな環境に適応放散してゆきました。その分化の過程で究極の進化を遂げた大型動物を輩出し、覇者の地位を明瞭にしてきたのでした。ところが人類という動物群は、さまざまな分化の過程では覇者を産み出すことはなく、現生の人類であるヒト1種が生き残ったのちに劇的な適応放散を果たしました。1つの種が身体的な進化を遂げることなく、1つの種のまま世界中に分布してしまい、先代の覇者を退けてしまったのです。
 人類のこのふるまいは、あまりにも例外的で奇妙です。さまざまな環境に応じて器官を特殊化させることなく、形質の特殊化はむしろ抑制され、汎用性で環境に適応し、あろうことか知恵と技術力で環境を変えてさえ来たのです。現生人類は本能よりも知性で生活しています。理性で本能を抑制し社会性を維持するという生活様式は、もはや生物として本能の支配から脱却しているとも言えるでしょう。この特異な生態は他のあらゆる哺乳類とまったく異なります。近縁の類人猿とも共通点がありません。類人猿は一見すると人類と似たような社会性を有し、学習によって暮らしを支えているように見えますが、彼らは哺乳類として極めて進化した動物であり、彼らが生活している環境にふさわしい形質の特殊化を果たしています。形質的に成熟しておらず、知性と技術力で未発達な形質を補完している人類とはまったくちがうのです。
 筆者は人類という奇妙な動物種がいまだに哺乳類として分類されていることの意味が解らないのですが、それはまた別の機会に論じるとして、本章では現在が人類の時代であり哺乳類の時代は終わっているのだということを結論づけるにとどめておきましょう。

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