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人類の進化

 新生代後期、今から500万年〜350万年前に出現したアウストラトピテクスという完全2足歩行動物が勢力を増して来る頃、進化的な大型哺乳類すなわちウマ、サイ、バクといった奇蹄類や、ゾウやクジラ等は急速に衰退して行きました。哺乳類は全盛期を終え、最も進化的な大型動物たちは姿を消し、爬虫類や両生類と同様に小型多様化の時代に入りました。
 地質時代的には、氷河時代と言われる地球の両極に巨大な氷床が存在し、それが大きく発達する氷河期と、現在のように比較的小規模になる間氷期を繰り返す時代へと移行して行きます。
 哺乳類と人類の交代劇は、両生類と爬虫類、爬虫類と鳥類、哺乳類の置き換わりとそっくりです。先代の動物群は進化的なものがことごとく消去され、動物群全体として支配力を失い、新しい動物群がその空席を埋めるべく地球規模の拡散を開始します。
 現在の生物分類学では人類は、ゴリラ、チンパンジー、オランウータンといった類人猿と共に、哺乳類の一員である霊長類の中のヒト科に含まれますが、だとすれば哺乳類と政権交代したのは、哺乳類の一員ということになります。これはひじょうに奇妙で前例のないことです。哺乳類の全盛期に終止符を打ち、哺乳類と置き換わって支配的位置付けを獲得した者を、どうして哺乳類と呼べるのでしょう。これでは哺乳類の分類そのものが否定されているようなものではないでしょうか。哺乳類支配の時代がまだ続いているというなら、進化的哺乳類たちが滅びに瀕する必要はなかったのでは?
 筆者には、人類がどうして哺乳類に分類されているのか、その意味が解りません。遺伝子的にはヒトと類人猿は極めて近縁なのでしょうが、人類になってから獲得した新要素は、あまりにも哺乳類と掛け離れています。2足直立を基本姿勢とし、骨格から内蔵の付き方まで変更してしまった哺乳類なんて他に存在しないし、言語を持ち文明を発達させた哺乳類もいません。首も座らない胎児状態の子供を産み、生活様式のほとんどを本能ではなく後天的な学習に依るなんて動物も哺乳類には存在しません。人類が進化的な哺乳類であると言うなら、人類よりもさらに優れた形質の特殊化を顕現させ、新生代を担ってきた彼らはいったい何だったのでしょう。彼らはデカイだけの無能力者で、今こそが真の哺乳類の実力者の出現であるというのでしょうか。

 新生代の哺乳類全盛期には、類人猿も進化的哺乳動物としてこの世の春を謳歌しました。ドリオピテクスやギガントピテクス、シバピテクス、ラマピテクスといった類人猿は、現生のチンパンジーやゴリラよりももっと進化的な動物で、密林の王者の地位を欲しいままにしていたでしょう。その中で人類の祖先型となる類人猿は、樹上生活から草原生活へ移行しつつありました。新天地を目指したフロンティアスピリッツあふれる行為であると言いたいところですが、実際には他者との競合を避け、貧しい辺境の森へ逃れ、そこからさらに荒廃した荒れ地に逃げ延びた敗残者だったというのが本当のところでしょう。
 荒野での暮らしは飢餓との戦いであり、森とはまったくことなる環境で外敵から身を守るのも容易ではなかったでしょう。彼らは大変な試練を経験し、その中で知性を育んで行きました。強靱な武器も防具も持たない彼らの生きる術は、知恵と団結力だけでした。そしてやがて、この異端児の中から人類の祖先が分化して来たのです。
 初期の完全2足歩行動物は、猿人と呼ばれることもありますが、その中で最も有名でかつ多数の"種"を含むのがアウストラロピテクス属です。この仲間は500万年以上前に出現し、150万年前頃まで棲息していました。チンパンジーに似た容姿で身長も120cmていどでしたが、基本姿勢が2足直立で、走る時もチンパンジーのように4つ足になることはなく、前足は手に特殊化していて、狩猟や採集のために様々な道具を使いました。アウストラロピテクスの後期のものでは、石器を加工していたとも言われています。
 そして、アウストラロピテクス属の中から、現代人を含むホモ属の仲間が分化しました。ホモ属に含まれる仲間は、今から約230万年前頃に出現し、様々な種が分化しましたが、1万年前までにすべて滅亡し、現在まで生き残っているのはホモ・サピエンス1種類のみです。ホモ・サピエンスは今から約25万年前に出現しました。それから数千年前まで、石器人として勢力拡大を続けて来たのですが、その後急激な文明発達時代に突入し、現在のエレクトロニクス時代に到っています。

 人類が直立2足歩行動物に至る道のりはひじょうに長く、今から3000万年以上むかしにテナガザルの祖先が出現し、サルの仲間は前足で枝をつかんで森林を移動する方法を獲得したのですが、このぶら下がり移動がサルの直立姿勢の起源だと思われます。腕渡り(ブラキエーション)という移動方法は、サルの前足を長く強靱にしてゆくとともに、体の大型化にも貢献しました。これまで多くの霊長類が前足を手のように使用していましたが、それがさらに進化して手でありながら移動手段にもなったおかげで樹上で大きな体を支えやすくなり、大型のサル類が次々と分化して行ったわけです。
 テナガザルの仲間から、やがて類人猿類が分化してきますが、彼らは大型で最も進化した樹上動物として森林に君臨しました。その最たる仲間が現生動物を残すオランウータン類です。
 しかし彼らの繁栄とは逆に森を追い出され、平地生活に適応して行く仲間が現れます。平地では長い前足と短い後足が原因で頭が比較的高い位置に維持されました。また腕渡りの習慣から直立姿勢も得意だったので、必要に応じて後足で立ち上がったり、尻をついて座ったまま休んだりといった行動をよくとったでしょう。ゴリラの仲間は、地上でかなり早く走ることができますし、後足で立ち上がって遠くを見渡したり敵を威嚇したといった行動も得意です。
 これがチンパンジー類になるとかなり身軽になり、再び樹上生活に適応して行きます。樹上の方がやはり収穫も多く魅力的です。地上生活に適応した類人猿の中でも、比較的身軽な種が樹上へ生活圏を広げたのです。チンパンジーの仲間は、樹上生活者でありながら地上での4つ足走行もかなり俊敏にでき、行動範囲が広く、ひじょうに大きな群れを形成することもある、卓越した社会性を発
揮するようになります。高度な社会生活を行なうことと、行動範囲が広く樹上や地上やさまざまな場所を渡り歩くこと、これはこれまでの進化的な動物たちが限定的な環境に適応して進化し続けたのに比べるとひじょうにユニークです。
 そしてその中から今一度地上生活を目指すものが現れます。これが人類の始祖となった動物で、容姿はチンパンジーとあまり変わらないものの、体の構造が徐々に地上生活のみに特化して行き、木登りのために枝をつかみやすい構造だった後ろ足は、大地を力強く蹴って走行したり跳躍したりするのに適した単純な構造へと変わって行きました。人類の祖先は木から降りることによって2足歩行の能力を得たとよく言われますが、彼らが後足による2足歩行を得るまでには、テナガザルの仲間がぶら下がり移動によって直立姿勢を獲得し、ゴリラ属が地上生活への適応力を得るといった度重なる前適応のたまものでした。
 チンパンジー属から分化した猿人の中でも有名なのがアウストラロピテクスですが、最古の猿人はアルディピテクスだそうです。いずれもチンパンジータイプの人類としては華奢で小型の動物で、脳の容量もチンパンジーとあまり変わらず、ただ2足歩行に適した骨格をすでに持っていたそうです。つまり人類のヒトとしての最初の特殊化は、2足歩行のための骨格の変更であり、その後大容量の脳が発達したということになります。現生人類は類人猿と比較するとひじょうに大容量の重い頭脳を持っていますが、2足歩行に適応した骨格が備わっていなければ脳の大型化はかなわなかったでしょう
。類人猿を含めすべての哺乳類は首の骨が後頭部から出ています。これは爬虫類や鳥類、両生類でも同じです。ところが人類は直立姿勢で大きな脳を下から支えるために、首の骨は頭の下に生えているのです。人類と他の動物が決定的にちがうところがこの点です。従来型の動物は脊椎を棒にたとえると、基本姿勢は棒を横にした状態で、その先端に頭脳がついていますが、人類では棒を立てた状態の脊椎のてっぺんに頭脳が位置しています。重い脳を支えるのにどちらが有利か言うまでもありませんね。
 これまで動物にとって直立するというのはひじょうに困難なことでした。多くの動物が必要に応じて一時的に後足で立ち上がりますが、全力で走行する場合は4足歩行になります。鳥類は静止している時は直立姿勢ですが、飛行は頭を前にして腹這い姿勢になります。チラノサウルスなどの肉食恐竜も常時2足歩行ですが、彼らは尾と頭部でバランスをとりながら腹這い姿勢で2足立ちしています。直立2足歩行は姿勢を維持するのに高度なバランス能力が必要で、それでも転倒してダメージを受ける危険性は4足よりずっと大きいです。加えてお腹を無防備に露呈し、格闘になった場合もかなり不利です。他の動物たちにしてみれば、人類が幾多のハンデを負いながら2足直立姿勢を維持していることは実に奇妙に見えることでしょう。
 しかし我々人類にとっては、重い脳を支えたまま4足歩行をすることの方がずっと大変で、直立2足歩行で前足を手専門に使う方がずっと機能的で便利ですよね。
 2足歩行は、前足を道具を使用するための手に変えましたが、類人猿もじつは器用に手を用います。我々にとって2足歩行と直立姿勢の必要性は、知性と文明の源である大容量の脳を発達させるためにこそ必要でした。頭脳を大きくせずとも器用な道具の使い手になれるなら、腰痛や肩凝りや痔の要因を作ってまで直立する必要はなかったわけです。
 人類がどのようにして2足直立姿勢とそれに伴う骨格や臓器の変更を獲得するに至ったのか、そして高度な文明に至る知性をどのようにして獲得したのか、その謎はあらゆる生物進化のシーンで最も大きな謎です。アウストラロピテクス属は今から約500万年前に出現し、300万年以上の長きに渡って存続し、数々の種を残していますが、その最も新しい種では石器を使用していたそうです。そして約250万年前には頑丈な体躯と大きめの脳を持つパラントロプス属と、ホモ属を輩出しています。
 最も原始的なホモ属は約230万年前に出現しているそうですが、それから現在に至るまでの200万年ばかりの間に10種類以上のホモ属が分化しています。原人の名で知られる数多くの原始人の化石が世界各地で見つかっているのです。彼ら原人は、猿人よりもさらに優れた道具の使い手で、その繁栄が哺乳類の時代の終焉をもたらしました。そして今から約25万年前に真人すなわちホモ・サピエンスが出現しています。サピエンスの直近の旧人ホモ・ネアンデルタレンシスは数万年前までサピエンスと競合しながら生きていたようですが、けっきょく最後に文明を築いたのはホモ・サピエンス1種でした。
 人類というニュータイプも、猿人や原人(ホモ属)の時代には、先代の哺乳類のように種の分化を展開して行ったのですが、哺乳類のようにそれぞれの環境に応じた特殊化を計ることはほとんどありませんでした。華奢型やがっしり型、皮膚の色や体毛の差異といった変異は生じたものの、ゾウのように鼻が伸びたり、キリンのように首が伸びたりすることはありませんでしたし、ポセイドンのような巨人も、マーメイドのような水棲動物も、ある種の魔属のように背中に羽を持つ飛行能力者も分化しませんでした。直立2足に長け汎用性に優れた、形質的には大差のない同形同類ばかりが輩出されたのです。高度な社会性と卓越した道具の使い手である彼らには地域限定の特殊化はむしろ邪魔なだけでした。そして最終的には1種の真人に集約され、すさまじい火力とエレクトロニクスを扱う存在へと進化したのでした。

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私たちは今でも、過去十数万年にわたって人類が使っていた言語形式と同じと思われる第
  • 哲学はなぜ間違うのか?
  • 2012/07/24 10:33 PM

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