アオダイショウ 抱卵
2013/08/20
ヘビの抱卵については、多くのヘビがその習性を持つようです。筆者もヘビの飼育を手がける前までは、図鑑の写真等でヘビは抱卵するものだと思っていました。ところが、飼育下ではヘビの抱卵はあまり見かけたことがなく、産卵を終えてシェルターから出てきたネルソンミルクスネークのメスなどは、再びシェルターに帰ると、自分が産んだ卵をことごとく平らげてしまったしまつです。まぁ、これには筆者が観察が加わったせいもあって、そのメスを一概には責められないんですけどね。でも、産んだ卵が期せずしてそのメスの腹の中に帰ってしまうなんて笑い話にもなりません。ともあれヘビの飼育をし始めてから以降は、ヘビの抱卵にはあまり意識が向かなくなりました。筆者宅でしばしば産卵しているコーンスネークも抱卵の様子を見たことがありませんし、ヘビも基本的には産みっぱなしなのだという認識の方が強くなりました。
で、飼育下でアオダイショウのメスが産卵した卵をそのまま抱卵しているのを見つけ、ちょっと感動しました。なんか、愛情みたいなものを感じるじゃないですか。
アオダイショウに抱卵の習性があるのだとしたら、その理由は、卵を外敵から保護することでしょう。外温動物であるヘビに卵を温める能力はないでしょう。あるていどの保温と保湿の効果は期待できるでしょうが。そして孵化には50日ほどかかりますが、その間、抱卵し続けることは、基本的に無駄な動きをしないヘビにとっては造作もないことでしょう。ただ、充分に水分補給していなかった場合は水を飲みに行かないと、50日間の乾きとの戦いはきつすぎます。
飼育下では、人が観察したりすることもあってか、母親が孵化まで抱卵し続けることはあまりないと思われます。また、産み落とされた卵を飼育者が取り上げてしまっても、母ヘビはたいして抵抗もしませんし、すぐに産卵のことなど忘れて平素の暮らしに戻ります。ほとんどの飼育者は、アオダイショウの繁殖には、卵を母ヘビから隔離して管理しているでしょう。
ロイヤルパイソンの繁殖では、卵を取り上げたあと、母ヘビを平素の暮らしに戻すのに、ちょっと工夫が必要であると言われています。ロイヤルパイソンの場合は、抱卵意識がかなり強く、卵を取り上げられた母ヘビは、卵を探し回り、産卵で消耗した体力を回復させるべく給餌しても食べようとしないことが多いと言います。飼育者は、母ヘビを充分に水浴させ、ケージも丸洗いして、繁殖の際の匂いを消して、メスにそれを忘れさせるそうです。
かなり強い抱卵の習性を持つヘビでも、水を飲みに卵を離れたり、そのまま抱卵することを忘れてしまったりと、ヘビの抱卵は痕跡程度の習性であると思われます。ヘビが進化の過程のいつ頃、抱卵の習性を身につけたのか判りませんが、ヘビを分化した大むかしのトカゲにその習性があったのでしょうか。現生のトカゲを見る限り、あまりそのようには思えないのですが、恐竜をはじめ大むかしの爬虫類の方が、形態的にも生態的にも進化的なものが多かったのも事実ですから、ヘビの抱卵の習性が祖先ゆずりのものである可能性はあるでしょうね。それが今ではほとんど形骸化してしまったのかも。
ムカシヘビ上科の大型のニシキヘビの仲間には、自ら体温を発して卵を温める習性のあるものがいます。その種について知識と経験の乏しい筆者には、そのヘビが日常的に恒温性を有しているのか、抱卵時にだけ発熱するのかは解りませんが、外温動物(変温動物)として知られるヘビが体温を発するのは驚きですね。中生代の恐竜の中にも恒温性を持つ仲間がいたかも知れませんね。
基本的に一般家庭で飼えるサイズのヘビの繁殖を試みる場合、抱卵という習性に委ねることはあまりありません。飼育下という特別な環境で、それがどれだけ上手く行くか解りませんし、筆者が経験したような母ヘビによる食卵、あるいは孵化した幼蛇が母ヘビに餌として認識されちまうような事故も充分起こりうると思います。