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鳥類の進化放散

 鳥類は、哺乳類と共に中生代前期に爬虫類の仲間から進化しました。哺乳類を分化させた獣形類は今はもういませんし、鳥類を産んだ恐竜類も今や絶滅動物です。中生代の温暖な気候に適応した進化的な爬虫類たちは、時代の終わりと共に絶滅し、氷河期と間氷期が交互に訪れる新生代は、鳥類や哺乳類の時代となりました。爬虫類は現在も大変よく繁栄していますが、現生の爬虫類の主流は中生代には原始的だった仲間の生き残りとそこから進化してきた動物たちです。爬虫類もまた、かつての両生類のように支配的な地位を新しいタイプの動物群に明け渡し、小型多様化して行ったのです。

 爬虫類の優位が失われ、進化的な仲間が急速に衰退して行くと、空いた席を埋めようとするように鳥類の大型化と進化放散が加速しました。爬虫類の優位によって抑圧されていた進化のエネルギーが一気に開放され、世界中のあらゆる地域あらゆる環境に多種多様の鳥類が進出していったのです。
 中生代の鳥類は古鳥類と真鳥類に大別され、鳥類の元祖として知られる始祖鳥は、古鳥類の仲間で現生の鳥類を含む真鳥類は早い時期に古鳥類から分化しています。
 中生代の鳥類は、小型恐竜の変わり種といった感じの動物で、逆に小型恐竜の中にも当時の鳥類と見分けがつかないような仲間がいました。中生代の鳥類は近縁の恐竜たちと競合し、よく繁栄していました。爬虫類の優位に進化放散の力を抑圧されていたとは言え、温暖な気候に適応した動物としては、すでに一定の繁栄をものにしていたと言えます。その点で、古鳥類や中生代の真鳥類は、恐竜の一部と定義してもよいくらいで、中生代末期に真鳥類から派生した新鳥類以降を爬虫類から独立させた方が、進化のドラマとしてはしっくりします。
 つまり、中生代の終わりと共に一気に進化放散を開始し、爬虫類に台頭して地球上での優位を獲得したのは新鳥類であり、それ以前の鳥類は、恐竜たちと運命を共にしたわけです。

 今から約6500万年前に始まった新生代初期は、鳥類の時代でした。多種多様な鳥たちが次々と誕生し、世界中のあらゆる環境に進出してゆきました。鳥類は空を飛べるという特性上、放散能力も高く、比較的短時間で世界制覇を成し遂げたでしょう。
 長大な翼を持ち優れた滞空性能を持つもの、小さな体と高回転の翼によってホバリングを可能にし昆虫のような生活を送るもの、水上に常駐する鳥、地上歩行生活が得意な鳥、そして爬虫類が成し得なかった極寒の極地方で氷上生活を送るものまで現れました。
 鳥類は飛翔動物の形態上、地中生活や水中生活は得意としないものの、彼らの生活圏は地球上のあらゆる環境に及びます。水中生活はしないものの優れた潜水能力および機動力で魚を追い回す鳥もたくさんいます。
 鳥類の分布状況を観ていますと、温暖な地方ほど多種多様の仲間がひしめき合い、寒冷な地方に行くほど種類が減り、ひとつの種が大群を成すようになります。これは鳥類に限らず動物一般の特徴なのですが、とくに鳥類ではそれが顕著です。
 鳥類は、現代でもほじょうによく繁栄し、我々も身近に彼らの姿を見ることができますが、その本当の繁栄は、じつは新生代前期に終わっています。大型爬虫類が去ったあと、鳥類の多くの仲間が大型化を目指し、中には中型の恐竜に匹敵するような怪鳥も現れました。
 鳥類の大型化は、進化放散の早い時期に生じており、重厚な体とそれを支える力強い脚を備えた、さながら恐竜のような鳥が大地を闊歩しました。彼らは飛翔能力を犠牲にして大型化を図り、代わりに地上での高い機動力で他の動物たちを圧倒しました。
 しかしながら、鳥類の天下はあまり長くは続きませんでした。鳥類よりも高い恒温性能と汎用性に優れた体を持つ哺乳類が、間もなく頭角を現して来ることになるからです。鳥類が哺乳類よりも先んじて天下をとったのは、移動能力が格段に優れており、勢力範囲を拡大するのに哺乳類よりも断然有利だったからでしょう。哺乳類も鳥類と共に、新生代当初から進化放散を始めたのですが、どこへ行っても先回りしている鳥類に撃退されるのが常でした。それでも哺乳類たちは鳥類の猛威を巧妙にかわしながら地道な勢力拡大を続け、やがて相手を打ち負かして大型動物の地位を獲得します。
 鳥類の敗因は飛翔生活のために、形態や生態があまりにも特化したことでしょう。器官の特殊化が進んでいる度合いが大きいほど、それを別の機能に変更することが難しくなります。脚を翼に進化させるよりも、翼を脚に戻すほうがずっと困難なのです。
 爬虫類でも哺乳類でも、進化して来たばかりの頃は、地味で目立った特徴があまりない動物でした。そこから多種多様の動物を分化させてゆくわけですが、鳥類の場合は飛翔生活への適応のためにすでに大きな特殊化を達成した状態で進化して来ました。卓越した移動能力で哺乳類よりもいち早く適応放散を実現し、天下をとったものの、後発の哺乳類の適応力に次第に圧されて行くことになり、やがて短期政権の幕を閉じます。
 その後新生代は事実上哺乳類の時代となるわけですが、政権を明け渡した後も制空権は未だに鳥類のもので、その繁栄は今もつづいています。

羽毛と知性

 動物は恒温動物と変温動物に区分され、鳥類や哺乳類は恒温動物とされていますが、中生代の進化的爬虫類の多くも実は恒温動物のように安定した体温を維持し、高い知能を持ち高度な社会生活を送っていたと思われます。ただ、彼らは体温の維持を中生代の温暖な気候に委ねていたので、正確には恒温動物とは言いがたいですね。
 恒温動物、変温動物という表現とは別に、体温の維持を外気温に委ねる動物を外温動物、自ら熱を発し外気温の変化にかかわらず体温を一定に維持する動物を内温動物という言い方があります。この表現は動物の機能を極めて的確に表していると思うので、もっと一般的に使ってもらいたいものです。

 鳥類は、初期の恐竜の仲間から分化した内温動物です。中生代の大型化ブームとは裏腹に、小型軽量高性能の動物としての道を選び、その究極の形として飛翔動物にまで進化しました。
 複雑な姿勢制御や方位感覚を必要とする飛翔生活は、優れた感覚器と高い知性を必要とします。そのために恒温性を維持することは大変重要で、体の体積を大きくして保温効果を得ることができない代わりに内温機能を確立しました。そして羽毛の発達が体温の安定に大きく貢献しました。羽毛は飛ぶためだけでなく、鳥類の小型軽量ボディの体温維持と知性の発達にもなくてはならないツールなのです。
 鳥類の飛翔は、翼竜類のような滑空ではなく飛行というべきものです。滑空動物は膜や翼に蓄えた浮力と、位置のエネルギーによってグライディングするのですが、鳥類は高度な羽ばたき運動によって推力を発生させて飛ぶことができます。高所から飛び降りなくても、地上から羽ばたいて離陸することもできます。すごいですね。
 羽毛で覆われた翼は、複雑な形状と動きによって高度な操舵性を発揮しますし、破損にも強いです。翼竜の翼は1枚膜なので事故で裂けてしまうと回復が大変です。裂けた翼では滑空もできず、深刻な生命の危険にさらされます。その点羽毛の翼は1本1本独立した羽根でできているので基本的に翼が裂けるようなことはありません。
 羽毛は、飛行や体温調節に絶大な威力を発揮するほか、装飾の機能も高く、オスがメスの気を引くためのディスプレイにも活用されるようになりました。羽毛は形状や色彩のバリエーションを広げるにも有利ですから、彼らのディスプレイはたいへん華々しいものになりました。恐竜の中にもディスプレイによる求愛行動を行なうものがたくさんいたにちがいありませんが、鳥類のディスプレイ能力や立体的な動きによるパフォーマンスは卓越していました。
 鳥類は、求愛行動や巣作りといった知性的な生活を送りますが、その知性は高い運動能力や飛行技術を支える感覚器とそれを制御する脳の働きによって育まれてゆきました。
 しかし、彼らの脳の発達には大きなハンデがあったのです。それは飛ぶために体重を増やせない、つまりあまり脳容量を増やせないことです。そこで彼らは大脳よりも脳幹を発達させ、そこに生きてゆくためのプログラムをたくさん蓄積しました。脳幹に蓄えられたプログラムはいわゆる本能といわれるもので、鳥類は学習するまでもなく本能で、巣作りや高度な生活様式を維持しています。もちろん大脳もあって経験による学習も行ないますが、学習の割合を増やすと、大脳の容量と消費エネルギーも大きくなってしまうので、小型軽量高性能を目指すには不都合です。

 鳥類は内温動物ではありますが、多くの哺乳動物ほど高い恒温性を有していません。食物を体内で燃焼して発熱するには、大量のエネルギーを消費しますから、その分食事量も増えます。食事量が増えると体重も増加し、それを動かす消費エネルギーも増えます。そこで彼らは羽毛で放熱を抑えることで発熱の負担を減らしているのです。
 彼らはまた、大型陸棲動物のように胎生による繁殖も困難です。母親の胎内で胎児を充分に成長するまで維持しようと思えば、これも体重の増加を招いてしまいます。幼生は卵の形で産み落とし、孵化した幼生(ひな)を巣の中で管理します。
 卵生の爬虫類の多くは、卵を産みっぱなしにしますが、鳥類は巣の中で親鳥が卵を温めるという習性を会得しました。胎児は温かい卵の中でスクスクと育ち、孵化すると親の庇護を受けて安全に成長します。卵を産みっぱなしにする原始的な爬虫類よりも格段に幼生の生存率は向上しました。ちなみに鳥類と近縁の恐竜類すなわち進化的な爬虫類の多くも育児を行なったと思われます。あるいは小型の恐竜の中には内温機能を備えたものもいたかもしれません。

 鳥類の内温動物としての機能は、哺乳類ほどには高くありません。飛翔生活に肥満は禁物なので、たらふく食べてどんどん燃やして発熱するなんて余裕はもてないのです。摂取と消費を極力抑えて溜め込まない、いつも身軽でいる、それが飛翔生活のモットーです。
 鳥類の一部に、託卵という習性をもつものがいます。メスが他の種類の鳥の巣にこっそり産卵し、抱卵と育児を押し付けてしまうというこの独特の生態は、じつは現生の鳥類にもけっこう見られるのです。これは自分の内温機関があてにできないので、卵とひなの保温を他者に依存するためであり、鳥類の恒温性が充分でないことの表れのひとつかもしれませね。
 また、鳥類が進化し放散を開始した中生代は今よりもずっと温暖だったので、それほど高性能な内温機関は不要だったのでしょう。軽量ボディを羽毛で包むだけで充分な恒温性を維持できたのです。
 動物の体毛の中でも羽毛ほど特殊化の進んだものはないでしょう。まさに体毛進化の究極の形ですね。鳥類は、骨格をはじめ多くの身体的特徴で進化的爬虫類と近縁で、その一員であるとさえ言われることがあるのですが、羽毛の発達という顕著な特徴をもって独立したグループと見なすべきだと思います。ただ、中生代前期の鳥類と近縁な爬虫類に羽毛が発達していた可能性は皆無ではありません。哺乳類を派生させた獣形類(爬虫類の仲間)が、多くの点で哺乳類的特徴を備えていたように、羽毛を持った恐竜もたくさん存在したかもしれないのです。

竜と獣

 古生代後期、最初に出現した爬虫類である無弓類から分かれた単弓類は、盤竜類というダイナミックな動物を輩出し、しかも草食性の動物まで分化させて多様化を目指したのですが、古生代末の生物大絶滅のとき、進化的両生類と運命を共にしてしまいました。しかし死滅の直前に盤竜類は、獣形類という自分とは似ても似つかない仲間を分化させ中生代に子孫をつなぎました。
 獣形類は、姿形は盤竜類に似ていないものの、草食に移行した盤竜類の持つ異歯性という特徴を受け継ぎました。生える場所によって歯の形がちがう口器は、食生活の多様性を拡げ、知性を育むのにも貢献しました。小型で敏捷に動き回る獣形類からは、やがて哺乳類が分化することになります。
 原始の哺乳類は、中生代前期には出現しているのですが、進化的爬虫類の隆盛に圧され、長い中生代の間ずっと日陰の生き物にとどまりました。

 獣形類と同様に中生代に命をつないだ、双弓類といわれる仲間は、進化的爬虫類として中生代を通じて隆盛を極め、主竜類、魚竜類、鱗竜類と、いくつかの小グループといった多種多様な仲間を分化しました。
 魚竜類は水棲生活に移行して四肢がヒレ足に変化し、究極のものではイルカのような魚タイプの動物に進化しています。
 鱗竜類には、現生のヘビやトカゲを含む有鱗類や、長頚類(長首竜類)といわれる仲間が含まれます。長頚類は、魚竜類と同じく水棲生活に移行し、四肢がヒレ足に変化しますが、さらに首が伸長して胴体の長さに匹敵するかあるいはそれを上回るという特殊化を遂げるものが現れます。体も巨大化してまさに水棲の恐竜といった風体でした。
 カメ類は、中生代初期かそれ以前にはすでに出現しており、主竜類と近縁で、主竜類と共に主竜形類として同系列にまとめられています。
 そして主竜類は、ワニ類と、脊椎動物初の飛翔動物である翼竜類、巨大な陸棲動物を多数輩出した恐竜類を含みます。
 恐竜類は、骨盤の形状で竜盤類と鳥盤類(恥骨の向きが鳥類と同じ)に大別されますが、鳥盤類には多数の草食獣が含まれ、竜盤類には、長い首と巨体を有する竜脚類と、二足歩行の肉食獣である獣脚類が含まれます。そして獣脚類は獰猛な肉食獣として大型化を目指すものと、小型で敏捷なハンターとして繁栄するものとに分かれ、敏捷さの追究の究極の形として鳥類が分化します。

 中生代の爬虫類の進化系統はややこしいですね。陸棲動物としての完成を果たしたあと、海に空に、あらゆる環境に竜族を送り込んだわけですから、分類も複雑になるわけです。
 また、中生代前期の三畳紀には、哺乳類が分化して来ているのですが、彼らは爬虫類の一部の変わり種といった存在で、竜族の大繁栄の陰でひっそりと暮らしていました。初期の哺乳類は、竜族があまり寄りつかない地中生活を得意とし、その後樹上生活にも適応して行きました。地中や樹上は、竜族の華々しい暮らし向きの、言わばわずかな隙間でした。
 竜族は変温動物で、体温の維持を外気温に依存していたので、夜間はあまり活動しません。哺乳類にとって夜間は比較的安全で、彼らは夜行性でした。哺乳類は酵素パワーで体温を作り出す恒温性を身につけ、小さな体でちょこまかと夜の森を駆け回っていたのです。
 そして時代は、中生代中期ジュラ紀へと進みます。爬虫類はますます隆盛を極め、巨大な動物から敏捷に跳ね回る小型のハンターまで、多種多様な動物がこの世の春を謳歌しますが、ジュラ紀の爬虫類は最小のものでも現生のネコを下回らなかったそうです。現生のトカゲでネコサイズというとかなり大型種ですから、中生代の爬虫類とのスケールの差はひじょうに大きいですね。

K-T境界

 古生代と中生代は、超大陸の出現による生物大絶滅というインパクトで区切られ、これをP-T境界と読んでいますが、中生代の終焉も恐竜をはじめとする大型竜族のドラマチックな絶滅劇で幕となりました。今から約6500万年前の中生代と新生代の境界は、白亜紀(Kreide:ドイツ語)と新生代第3紀(Tertiary)の頭文字をとってK-T境界と呼ばれています。第3紀という時代区分は古生代を第1紀、中生代を第2紀、新生代前中期を第3紀、現代を含む新生代末期を第4紀と呼ぶものです。
 K-T境界を決する破局は、ユカタン半島付近に衝突した巨大隕石によるものであるという説が今では有力ですが、壮絶なインパクトが大型爬虫類とアンモナイト(海洋軟体動物)の仲間を選択的に滅ぼしたのはどうした理由によるのでしょう? 哺乳類や原始的な爬虫類、鳥類はなぜ破局をまぬがれたのでしょう。
 進化的な爬虫類だけが隕石衝突に対する耐性がなかったのでしょうか。では、海洋動物のアンモナイトはどうだったのでしょう。
 巨大隕石の衝突がもたらす破壊は確かに壮絶ですが、特定の生き物を選択的に滅ぼす理由としては弱い気がします。環境の激変は進化的な大型動物ほど不利で、それに該当するが恐竜や大型爬虫類たちであったというのはとりあえず理にかなってはいますが、恐竜にも小型種はいましたし、それに比べるとK-T境界を越えて生きながらえたワニの仲間の方がずっと大型です。

 選択的絶滅には、環境を永続的に変える何か他の理由があったはずです。その理由として支持したいのが、隕石衝突説よりも古くから提唱されている火山活動の終息説です。超大陸が分裂を開始した中生代、地球上では火山活動が活発になり、火山噴火がもたらした炭酸ガスによって中生代の空気中の二酸化炭素量は現在の10倍以上、その温室効果に伴い平均気温も10〜15℃も高かったといわれています。
 激しい火山活動が終息し寒冷化が進むと、高温な環境に適応して進化した恐竜をはじめとする大型爬虫類は、一斉に衰退し始めたわけです。極地方では氷床の発達が起こり、海面が下がって海岸線が陸地から遠のいて行く海退現象が進み、大陸棚が露出し、そこに住んでいた多くの海洋生物の生命を奪いました。アンモナイトの絶滅は彼らが当時の大陸棚に最も適応し繁栄していた動物であったことを示しています。
 恐竜や翼竜、長頚竜たちは中生代の温暖な気候に最もよく適応し、形質の特殊化を進めた動物たちです。彼らがひじょうに高等な動物として暮らせたのは、彼らの熱的慣性による恒温性が温暖な気候によって保証されていたからで、火山活動が終息し、空気が澄んで放射冷却が進み始めた中生代末期、彼らは滅びへと向かうしかかなったのです。

 恐竜の仲間はK-T境界を越えることなくすべて絶滅しましたが、彼らの落とし子である鳥類は、自ら発熱して恒温性を維持する術を得て生きながらえ、新生代になると進化的爬虫類の去ったあとの空席を埋めるべく一気に進化放散を開始します。
 鳥類は恐竜の直接の子孫であり、骨格の構造や脚の仕組みに恐竜の特徴をよく残しています。彼らを恐竜の生き残りと主張する学者先生もいるようです。つまり、恐竜は鳥類に形を変えて今も繁栄していると。鳥類を恐竜の仲間と定義するかどうかは別として、恐竜の研究に鳥類の観察は有益かもしれませんね。同じ爬虫類ということでヘビやトカゲとの比較にばかりこだわっているより的確に恐竜の生態にアプローチできるかもしれません。進化系統的にもヘビやトカゲよりも鳥類の方が恐竜に近縁ですし。

 新生代第3紀、それは約6500万年に終わった中生代に比べると短い地質時代ですが、世界規模で氷河が発達する氷河期といわれる時代と、気温が上昇して氷河が溶け海進現象が進行する間氷期といわれる時代が何度も繰り返し訪れる、目まぐるく気候の変化する時代となりました。ただ、比較的高温の間氷期であっても、中生代の高温に及ぶことはなかったので、中生代に比べると全体的に寒冷な時代と言えるでしょう。
 この寒冷な時代に恒温性を維持し、高等動物としてやってゆくには、内燃機関によって自ら発熱するシステムを身につけるしかありませんでした。その機能を備えた鳥類、そして哺乳類が覇者として新生代という時代を担うことになり、爬虫類は支配的な地位を彼らに明け渡して小型多様化を迎えたわけです。

哺乳類の進化

 哺乳類は、中生代のはじめに獣形類という爬虫類の仲間から進化して来ました。そして1億年以上の長きにわたりネズミタイプの小動物からあまり進化しませんでした。初期の哺乳類はたいへん小さく、多くの昆虫類にすらサイズで負けており(当時の昆虫類は大きなものが多かった)、こんなものが滅びずによく生き残ったものだと呆れてしまうほどです。
 初期の哺乳類よりも、哺乳類の産みの親である獣形類の方が、ずっと進化的な哺乳動物っぽく見え、より大型で活発に活動し、種類も多かったようです。

 中生代の哺乳類は卵生でした。中生代中期以降に様々な動物に分化する過程で胎生を獲得する仲間が現れるものの、多くの種が卵生のままでした。哺乳類の特徴といえば胎生のイメージが強いと思いますが、それは新生代になってから顕著になった特徴と言えます。
 哺乳類が胎生よりも先に獲得した特徴は、毛皮で覆われた体と内温性、稚児に授乳する習性です。現生の卵生哺乳類である単孔類(カモノハシやハリモグラ)でも授乳しますから、哺乳類は進化してわりと初期の内に授乳を確立していたのでしょう。内温性も授乳と合間って確立していたと思われます。中生代の卵生哺乳類は、外温動物であったとする説もあるようですが、筆者はそれには反対です。
 哺乳類の毛皮は内温機能をカバーするためのものですし、授乳による育児には安定した内温性が必要です。
 母乳を飲むことで哺乳類の稚児は、発育に必要な栄養を効果的に摂取でき、急速に成長することができます。そして母親の安定した体温で保温されることで、成長がさらに助けられます。稚児の内温機関はあまり高出力ではなく、母親の温もりが必要不可欠です。体温維持を母親に依存することで、稚児はエネルギーの多くを発育に費やすことができます。
 とはいえ初期の哺乳類の内温機関は、あまり高性能ではなかったでしょうし、中生代の温暖な気候は不足分を充分に補っていました。それでも母親の内温機関は、外気温の変動から育児中の稚児を守り、稚児が順調に成育するのに貢献していたはずです。

 卵生哺乳類は初期の頃から、鳥類がするように抱卵の習性があったでしょう。母親の腹部には包卵域という独特の部位があり、卵を高温多湿の状態に維持しました。包卵域を湿潤に保つために水分を分泌する腺が発達し、やがて孵化した稚児もそれをなめて水分補給するようになりました。そして分泌する水分に栄養分を混入するようになったのが授乳の始まりです。
 授乳は、稚児の発育を助けるばかりでなく、母親の免疫力の受け渡しにも有効です。また、餌を採って来て稚児に与える労力を省くこともでき、その点で鳥類や爬虫類の育児(中生代の進化的な爬虫類には育児をするものもいた)よりも母親の負担も減り、かつ餌の確保に伴うリスク(稚児を残して留守にすることや、収穫が思うように得られないこと)も軽減でき、稚児の生存率は大幅に向上しました。
 中生代の脆弱な哺乳類が滅びることなく生き長らえ、新生代に子孫をつなぐことに成功した秘訣は、授乳によって稚児への滋養を安定供給できたことと、内温機能により稚児の体温を安定的に維持できたことにあったと思われます。稚児は母親の庇護の許で急速に成長し、早期に自立できるようになります。そして早々と繁殖に参加し、次の子供を育て始めるのです。稚児の生存率の向上、これこそが脆弱な原始的哺乳類が滅びずに生き長らえた秘訣だったわけです。

哺乳類の進化放散

 哺乳類は鳥類よりも早く進化して来たにもかかわらず、その後の進化は遅々として進みませんでした。鳥類は恐竜の形質をよく引き継ぎ、それに飛翔動物としての能力を付加するという、言わば恐竜の発展型のような形で進化して来たので、初期の頃からかなり華々しい生活を送っていましたが、これに比べ哺乳類は先祖である獣形類の形質をあまり受け継がず、小型で原始的な動物としてスタートしました。
 それでも彼らなりにゆっくりと進化し、中生代中期ジュラ紀になると、いくつかの系統に分化し生活圏を拡大して行きました。化石によると、主に歯のタイプの相違でちがうグループに分けられる中生代の哺乳類ですが、スタイル的にはいずれもネズミタイプの小動物だったようです。
 ジュラ紀に分化したグループの1つ単孔類は、卵生哺乳類のまま今も生きながらえています。その他のグループはジュラ紀中に、あるいは次の白亜紀には滅んでいますが、その1つ汎獣類は白亜紀に滅びるまでに、後獣類と真獣類という2つのニュータイプを分化させています。
 白亜紀後期に進化して来た後獣類と真獣類は、新生代に華々しい進化発展を遂げる、言わば新時代の哺乳類で、それぞれの方法で胎生を確立しました。つまり、哺乳類が卵ではなく子供を直接産むという繁殖方法を身につけたのは中生代末になってからということです。
 胎生動物は、胎児と母親が胎盤と臍(へそ)の緒でつながり、酸素と栄養が血液を通じて母体から胎児へ直接供給されるという画期的な繁殖方法を確立したのですが、後獣類では胎盤の形成が極めて未発達かあるいはほとんど形成されず、胎児は発生初期の小さな段階で出産されます。現生の後獣類は有袋類のみで、母親の育児嚢(のう)の中に産み落とされた稚児は自力で乳首にたどり着き、育児嚢の中で自立できる大きさになるまで育てられます。現生のカンガルーやコアラそうですね。
 一方、真獣類は有胎盤類とも言われ、胎児を長期間育てる子宮が発達し、胎児は胎盤で母体とつながった状態で発育を続けます。進化的な有胎盤類では、自立できる大きさまで子供は子宮で過ごし、出産後すぐに母親について歩き、さらに母乳の供給を受けます。
 胎生では子供が充分な大きさに成長してから母体を離れるので、子供の生存率が格段に向上します。また、授乳は母子のきずなを深め、そこから社会性が育まれます。魚の群れのように同じ年齢の個体が集合するのではなく、年齢や世代の異なる個体が1つの社会で共存し役割分担を行なう、そんな社会生活が哺乳類ではよく発達しています。後獣類や真獣類では、狩猟や採集の役割分担、若い個体による育児のカバーといった高度な社会生活が見られます。

 中生代末期には、進化的爬虫類の衰退と反比例するように哺乳類の進化放散が進みました。そして新生代に入ると彼らの進撃を阻む爬虫類はほとんどいなくなるわけですが、代わりに恐竜の生き残りとも言われる鳥類が襲いかかりました。中生代にすでに進化的な動物として充分な特殊化を進め、内温機関と羽毛を発達させていて寒さにも強い鳥類は、事実上向かうところ敵なしで、多くの種が大型化を進めていました。
 しかしながら、飛ぶことに特化しすぎた鳥類は生活様式の多様化という点で限界があり、その点では哺乳類に利があったのです。ダイナミックではあるけれど小回りの利かない鳥類のすきを突いて、哺乳類はあらゆる環境に入り込むことに成功し、徐々に勢力を拡大し大型化も進めることができたのでした。
 鳥類の天下は短期に終わり、新生代は哺乳類の時代となりました。しかし制空権だけは譲らず、鳥類は今も多くの種を育みよく繁栄しています。

真獣類の進化放散

 哺乳類は、原獣類、後獣類、真獣類の3つに大別されます。原獣類は卵生の動物で、中生代にほぼ絶滅し今では単孔類(カモノハシ、ハリモグラ)を残すのみです。後獣類は胎生に進化しているものの、胎盤を持たないか極めて未発達で、その中の主流である有袋類は、メスの腹部にある育児嚢で子供を自立できるようになるまで育てます。最初の胎生哺乳類にして多数の大型動物を進化させた有袋類は、かつて世界中に分布していましたが、真獣類との競合に破れて今ではオセアニア及び南米に、他の大陸と隔絶された状態で暮らしています。そして胎盤を有し子宮の中で子供を充分に育ててから出産するという高度な胎生を確立した真獣類は、世界中のあらゆる環境に進化放散し、他の2つのグループが成し得なかった、完全な水棲生活への適応や、飛行生活者の分化に成功しています。

 後獣類は、新生代前期にじつによく繁栄し、大型肉食獣や草食獣、小型のさまざまな動物といったあらゆるタイプの陸棲動物を世界中に送り込みました。後獣類と真獣類は、共に中生代に原獣類から分化しましたが、中生代白亜紀末のK-T境界の生物大絶滅で恐竜や大型爬虫類と共にその多くが絶滅しました。新生代初頭に生き残った陸棲動物は、小型の両生類と爬虫類、鳥類、そして後獣類のうちの有袋類と真獣類でした。
 有袋類が世界を征するための最初の敵は鳥類でした。中生代からすでに高度に進化しており、飛行というずば抜けた移動手段を有していた鳥類は、有袋類の行く先々で彼らを迎え撃ちその繁栄を阻もうとしました。恐竜や大型爬虫類亡きあと新生代初めは鳥類の独壇場で、飛行動物のみならず巨大な地上性動物も多数輩出しました。しかしながら飛行というひじょうに特殊な技能を身につけた鳥類は、種の多様化という点でかなり非力で、有袋類にとってはつけ入る隙が充分にありました。最初は酷しい下積み生活に甘んじていた有袋類も、ところどころで戦果を上げることに成功し、いつしか鳥類の生活圏を脅かすようになっていったのです。新生代初めの鳥類の支配を短期政権に終わらせ哺乳類の時代を築いたのは、じつに有袋類の業績だったわけです。
 有袋類の度重なる快進撃に遅れをとった真獣類は、その陰に寄り添うように生活圏を拡げて行き、有袋類が進化的鳥類を撃退してくれるのを見計らったかのように勢力争いに参戦します。そして有袋類も短命でその政権を真獣類に明け渡し、目まぐるしく政権交代劇が繰り返された新生代初期以降は、真獣類の天下となりました。真獣類の時代は、新生代を通じて続くことになります。有袋類がオセアニア及び南米という地域限定で今も生き長らえているのは、大陸移動によって両大陸が真獣類の進軍以前に他の陸地から隔絶されたからです。

 真獣類が有袋類との競合にことごとく勝利した要因はその繁殖方法にありました。有袋類はひじょうに小さな子供を出産し育児嚢で保育するので、妊娠時の負担も少なくお産もひじょうに軽く済むのですが、産後の稚児の生存率が低くなりがちです。生まれた直後の稚児は虫のように小さいのですから。それに育児嚢に収容して育てる関係上、小型動物の生存率向上の鍵となる多産という点でも不利になります。
 そこへゆくと真獣類は小型種では多産が可能ですし、大型種では出産直後の稚児が自分の足で歩けるくらいまで母胎の中で安全に保育されます。動物が生存率を高めるうえで重要なことは、少しでも早く成長するという点にあります。とくに大型種の場合、幼く小さな幼児期は生きて行くうえでひじょうに危険なのです。有袋類は稚児を大きくなるまで育児嚢で育てるという点で、幼い個体を外界にさらす危険を回避してまいりましたが、あるていど自立できるまで母体の胎内で保育するという真獣類のやり方には及びませんでした。大型真獣類は自立できる稚児を出産してから授乳しますが、有袋類では虫のような小さな稚児のうちから授乳して母胎外で育てなければなりません。

 有袋類との競合に勝利してからも真獣類の進化放散は目ざましく、世界中の山野や河川、荒れ地や砂漠、極寒の極地方にまで同輩を送り込み、さらには陸から遠く離れた遠洋生活者まで輩出しました。滑空という技能を身につける者もいくつか現れ、その中には鳥類と同じように自在に飛び回れる者まで現れ、これまで陸地伝いにしか生活圏を拡大できなかった彼らが、大空を飛んで海を渡るという快挙をなし遂げたのでした。

真獣類の進化と大陸移動

 哺乳類の進化放散において大陸との関係は無視できません。というのも彼らがもともと陸棲動物で、適応放散の道のりはほぼ陸伝いであったからです。現生の哺乳類は真獣類(有胎盤類)がほとんどを占めている状態ですが、真獣類との競合に敗れた有袋類が今でもオセアニア地方と南米に生き残っているのは、これらの土地が他の大陸から海で隔てられているおかげです。これらの土地に陸伝いに侵攻して来る新種の勢力が、有袋類の存続を脅かすほどではなかったというわけです。オセアニア地方と南米は長らく有袋類の楽園のままで、今ではそれぞれ別々の進化系統の有袋類が住んでいます。
 真獣類の進化系統も土地柄の差異がひじょうに顕著で、最近の分類学でもアフリカ獣類とか北方真獣類といった風に、進化系統ごとに地域別のグレード名がついていたりします。
 生物の分類には、界・門・綱・目・科・属というグレード名が用いられますが、現生の哺乳類すなわち哺乳綱(こう)には29の目(もく)が含まれ、そのうち1目がカモノハシやハリモグラの属する単孔目で、これは卵生哺乳類(原獣類)の生き残りです。2目が南米の有袋類(後獣下綱)、5目がオセアニアの有袋類、残りの20目が真獣類になります。
 進化の歴史をたどるには、現生の生き物だけに着目してもだめで、絶滅してしまった動物も含めて分類してゆくべきなのですが、哺乳類の場合、豊富な現生種を分類するだけでもかなり具体的に進化の歴史のドラマを見渡すことができます。

 真獣類(真獣下綱)20目の動物たちは、アフリカ獣上目、異節上目、ローラシア上目、真主齧上目という4つの上目(じょうもく)に大別されます。アフリカ獣上目はその名のとおり進化の発祥がアフリカとなる動物群で、大陸移動で1億年以上前にアフリカ大陸が他の大陸から分かれたことが起源であるとも言われています。異節上目はこれも1億年以上のむかしに大陸移動で南アメリカが独立形成された際に、そこに隔絶された真獣類が起源になっています。ローラシア上目もやはり大陸移動にちなんだグレードで、超大陸パンゲアが南北に分裂して北のローラシア大陸と南のゴンドワナ大陸に分かれた際に北の大陸に生息していた真獣類が起源です。ローラシア大陸は現在のアジアと北アメリカを含み、ゴンドワナ大陸からはアフリカと南アメリカ、オセアニア、南極が含まれます。そして最後の真主齧上目は起源が1億年以内と新しい動物群で、ローラシア上目から分化したと言われています。ローラシア上目と真主齧上目を統括して北方真獣類と呼称したりします。

 アフリカ獣上目の中でも原始的な3目、長脚目、アフリカトガリネズミ目、管歯目は今でもアフリカ大陸にのみ生息するネズミタイプの小動物ですが、管歯目に属するツチブタは全長1メートルを越えるいささか大型の動物です。アフリカ獣上目の仲間には、極めて進化的で大型化を果たした、近蹄類と言われる動物群が分化していて、初期の動物は現生の岩狸目のようにネズミタイプの小動物であるものの、やがて長鼻目や重脚目といった巨大動物を排出しました。重脚目は容姿も体格もサイのような大型草食獣で、長鼻目はご存じゾウの仲間です。2者はともにアジア大陸にまで進出していますが、重脚目の方は絶滅しています。束柱目もやはり絶滅動物ですが、彼らは草食獣でありながら水棲生活に傾倒していました。さらに水棲生活に適応した海獣目は海草を主食とする完全な水棲動物で、今でもジュゴンやマナティが世界中の海や河川で暮らしています。

 異節上目は、アルマジロ類を含む被甲目と、アリクイ、ナマケモノを含む有毛目の2目を擁しますが、いずれもひじょうに特徴的な生き物ですね。かつては3メートルを超えるアルマジロ類や全長6〜8メートルの地上性ナマケモノが存在し繁栄を極めました。とはいえ南アメリカの先住者である有袋類の生存を脅かすようなことはなく、南米では今も90種類以上の有袋類が生息しています。

 現在のユーラシア大陸と北アメリカは、かつてはローラシアという超大陸としてつながっていましたが、次に紹介するローラシア獣上目はそこで進化放散を開始した動物群です。
 現生のトガリネズミ目(モグラの仲間)やハリネズミ目は古いタイプを今に伝える原始的な仲間ですが、やがてより活発に活動し樹上生活や草原での暮らしに進出してゆく仲間が現れ、ローラシア獣上目の爆発的進化放散が始まりました。
 その中のキモレステス目の仲間は、樹上生活に適応したイタチやオポッサムによく似た動物で、そこからやがて有鱗目という鱗を有する哺乳類(センザンコウ)や、草原に出て他の小動物を狩る肉歯目を分化しました。肉歯目よりもさらにハンターとして進化したのが食肉目で、ネコやイヌ、クマ、イタチ、水棲動物のアザラシ等がこの仲間です。キモレステス目、有鱗目、肉歯目、食肉目をまとめて野獣類と呼称したりします。野獣類のうち現在も生き残っているのは有鱗目と食肉目の2目です。
 キモレステス目と近縁で、ローラシア獣上目の進化放散の黎明期に分化した仲間に次のようなものがあります。草食生活に特化した汎歯目、大きな鉤爪を有する紐歯目、齧歯類に似た前歯を有しかなりの大型動物を輩出した裂歯目、小型の食虫動物である幻獣目など。これらはいずれも絶滅していますが、蹄を持ち最初の大型草食動物として栄えた汎歯目の仲間は、南アメリカや南極大陸(当時は今より温暖だった)にまで生活圏を拡げ、形態的にも地上性ナマケモノに似たものやカバに似たもの等、さまざまな動物が分化しました。かつては有蹄類の始祖とも言われた顆節目もオセアニアを除く全大陸に分布を拡げた草食動物ですが、そもそも有蹄類という分類は進化系統分類学では適切なグレードではなく、彼らはおそらく奇蹄目やその近縁の仲間の始祖なのでしょう。
 顆節目から始まった蹄を持つ大型草食獣の分化は多岐に渡り、とくに真獣類があまり入り込まなかった南アメリカでは、南蹄目、滑距目、火獣目、雷獣目、異蹄目といったさまざまな動物が分化し、形態的にもウマ型やサイやカバ、あるいはゾウに似るなどの多様化が分化し見られました。北アメリカとアジアではサイに似た恐角類が栄え、現生のウマ、サイ、バクを擁する奇蹄目はアフリカにも進出しました。しかし現在では奇蹄目以外はすべて滅亡し、唯一の生き残りの奇蹄目も、同様に蹄を持つ草食獣である偶蹄類の進出に圧倒され、今では20種類ほどが生存しているにすぎません。
 ローラシア獣上目がさまざまに分化し始めた頃、おそらく樹上生活の中から前足と体側にかけて皮膜を発達させ、滑空する小動物が進化して来ました。それがコウモリの仲間である翼手目です。彼らの翼はどんどん飛行能力を発達させ、やがて鳥類と同じく動力飛行が可能になりました。中生代の翼竜や哺乳類のモモンガやムササビ、ヒヨケザル、ウロコオリスのような滑空ではなく、翼の動きによって動力を産み出し、長距離を飛翔するのです。そして哺乳類の適応放散の道のりである陸伝いを凌駕し、海を渡りました。現存するコウモリでも南極大陸を除くあらゆる大陸と、海に浮かぶ島々にまで分布しています。かつて南極大陸が今より温暖であった頃には、そこにもコウモリはいたかも知れませんね。
 翼手目と奇蹄目、現存する野獣類の食肉目と有鱗目を合わせてペガサス野獣類と呼称されたりしますが、このことはこれらの目が進化系統上で近縁であることを示し、偶蹄類とは疎遠であり、奇蹄目と偶蹄類を含める有蹄類という分類が無意味であることを示しています。ペガサス野獣類が進化系統に基づくグレードなら、絶滅した多くの同系統もこれに含めるべきだと思うのですが。
 ローラシア獣上目の中で最も壮大かつ多様な進化を遂げたのが、先ほどからしばしばその名が挙がる偶蹄類を含む鯨偶蹄目でしょう。メソニクス目(別称無肉歯目)という肉食動物群を始祖に持ちながら、イノシシやラクダ、シカ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、カモシカ、キリン、カバといった草食動物と、イルカやクジラの大型水棲動物まで輩出しています。鯨偶蹄目の内の陸棲草食獣たちはイノシシとラクダ以外は、反芻という高度な植物消化システムを有しており、これが奇蹄目との競合に勝利した秘訣にもなっています。またカバは、子育てを水中で行なう、水中でコミュニケーションができる、無毛であるといったイルカやクジラとの共通点も多く、彼らが水棲動物への移行形態のまま現在にいたっていることが解ります。

 真獣類の現在の多種多様な目が生じたのは、今から約6500万年前の恐竜や大型爬虫類が絶滅した以降のことです。しかしながら、アフリカ、南アメリカ、北方大陸のそれぞれの動物群の遺伝子レベルの分化は1億年以上前から始まっていたそうです。遺伝子レベルでは別々の動物群として分かれていたのに、新生代を迎えるまでは彼らは一様にネズミタイプの小動物として似たような形態と生態を維持し、爬虫類の大繁栄の陰で細々と生きていたわけです。
 彼らが爆発的な進化を遂げ、次々とユニークな新種が誕生し数多くの目が生じるようになったのは、大型爬虫類不在のあと生活の場が一気に拡がったからである、と多くの書物に記述されていますが、ここで忘れてならないのは同様に爆発的な進化放散を果たし、先に覇者の座をものにした鳥類と、その政権を短期で終わらせた有袋類の進化のドラマです。真獣類の覇者の座は新生代になってから3代目ということになり、新生代初期はじつに目まぐるしく政権が交代した時期であったというわけです。

哺乳類の時代の終焉

 哺乳動物においても最も巨大化を果たしたのは、恐竜類と同じく草食動物です。肉食獣のクマやライオンもたいへん大きな動物ではありますが、草食動物の中にはさらに巨大なものがゴロゴロいます。肉食獣の場合はハンターとしてのしなやかで複雑な挙動を実現するには、体のサイズにも限界があるのでしょう。
 大型動物は、体を維持するためにたくさんのエネルギーを必要とします。哺乳類では内温性を保つのにさらにエネルギーを消費します。ゾウのような巨大な草食動物は、動物質に比べて栄養価の低い植物を食べて体を維持してゆくために、日がな一日食べています。彼らの主な仕事は足元に広がる草原を刈り続けること、そう言って過言ではないくらいです。動物園などでも肉食獣の食事風景はあまりお目にかかりませんが、草食獣はいつ見ても口をモグモグさせていますよね。
 それでも、巨大な草食動物たちがいくら食べても、草原の草は尽きません。新生代中期の哺乳類全盛期の大草原には、見渡す限り巨大草食獣の群れ、といった圧倒的な光景が広がっていたそうです。
 草食哺乳類の代表格はなんと言っても偶蹄類といわれる、四肢に蹄(ひづめ)を持ち反芻という高度な植物消化システムを有する動物たちです。この仲間はまた鯨偶蹄目というグレードにまとめられ、そこから史上最大の動物であるクジラを分化させています。

 有蹄類という今では古語になりつつある名称で呼ばれる陸棲草食動物の偶蹄類と奇蹄類は、互いに競合しながら進化して来ました。両者は蹄の数が偶数か奇数かで分けられますが、陸棲動物のもともと5本あった四肢の指が、人差指と中指の間を中心に、外側から順に消失していって最終的に2本指になったのが偶蹄類、中指を中心に外側の指がなくなって行き、3本指そして最終的に1本指になったのが奇蹄類です。
 両者は共に、駆けることに特化して行った仲間で、四肢は力強く大地を蹴るために進化しました。とくに奇蹄類の1本指は、究極の蹄と言うべきもので、足首と同じ太さの指に頑丈な爪がついており、言わば生涯クツを履いているようなものです。一方、偶蹄類の方は四肢の進化もさりながら、植物摂取のための究極の器官を発達させました。消化しにくい植物を吸収するために複数の胃を持ち、それらを循環した食物は再度口の中に戻され改めて噛み砕かれます。反芻というこの独特の消化システムは、イノシシとラクダ類以外のあらゆる偶蹄類に見られます。

 新生代はまさに哺乳類の時代で、恐竜の再来を思わせる巨大動物が大地を闊歩し、大洋を支配したのでした。見渡す限りのウマの群れ、見渡す限りのゾウの群れ、そんな壮大な光景は、今はもう見られません。究極の進化を遂げたそれらの動物たちは、新生代末すなわち現代までに次々と姿を消して行きました。現生のウマやサイ、ゾウ、そして大型のクジラたちは、かつて地球上の覇者だった動物群のわずかな生き残りに過ぎず、それも次第に数を減らしつつあります。哺乳類の時代は、すでに終わったのです。
 古生物学には、地球のこれまでの歴史を4紀に区分する考え方があります。それによると、古生代以前を第1紀、中生代を第2紀、新生代を第3紀とし、新生代の最後の258万8000年前から現在までを第4紀とします。哺乳類の時代は第3紀で終わり、大型で最も進化的な哺乳動物たちは、前述の最後の生き残りを残して滅び去りました。
 これまでの陸棲動物の進化の歴史を見ますと、古生代(第1紀)に地上を席巻した両生類の時代が終わると、爬虫類がこれに台頭し、爬虫類が覇者であった中生代(第2紀)が終わると、新生代(第3紀)には鳥類が勢力を伸ばし、次いでその勢力を打ち負かした哺乳類が支配的地位を獲得するといった、ひじょうに明瞭な勢力交代劇が伺えます。そして現在(第4紀)、新生代の覇者である哺乳類も王座を降り、極めて進化的な大型動物を中心に滅亡を迎え、爬虫類や鳥類と同じく小型動物を中心とした多様化を図っています。
 哺乳類の時代が現在も続いていると考える人は少なくないでしょう。確かに史上最大級の動物の生き残りは哺乳類ですし、爬虫類や鳥類、両生類にあれほどの巨大動物は現生していません。しかしながら巨大哺乳類はもう間もなく、数万年もすれば滅亡してしまうでしょうし、かつて地上を埋めつくした奇蹄類も滅亡間近です。大型の肉食獣たちもその多くが衰退の一途をたどっています。大型の類人猿もわずかな生き残りが現存するだけです。
 哺乳類の仲間で最も進化的だった動物がことごとく滅亡に瀕し、哺乳類全体としては小型多様化を図っている現状をもはや哺乳類の時代というわけにはゆかないでしょう。
 それでは現在(第4紀)は、何の時代なのでしょう? 覇者がいないのに従来型動物が覇権を奪われるというのは生態系の構造的におかしいですよね。それでは脊椎動物全体の危機になってしまいます。
 現在はご承知の通り、人類の時代です。これまでの脊椎動物はさまざまな種を分化させて、地球上のいろんな環境に適応放散してゆきました。その分化の過程で究極の進化を遂げた大型動物を輩出し、覇者の地位を明瞭にしてきたのでした。ところが人類という動物群は、さまざまな分化の過程では覇者を産み出すことはなく、現生の人類であるヒト1種が生き残ったのちに劇的な適応放散を果たしました。1つの種が身体的な進化を遂げることなく、1つの種のまま世界中に分布してしまい、先代の覇者を退けてしまったのです。
 人類のこのふるまいは、あまりにも例外的で奇妙です。さまざまな環境に応じて器官を特殊化させることなく、形質の特殊化はむしろ抑制され、汎用性で環境に適応し、あろうことか知恵と技術力で環境を変えてさえ来たのです。現生人類は本能よりも知性で生活しています。理性で本能を抑制し社会性を維持するという生活様式は、もはや生物として本能の支配から脱却しているとも言えるでしょう。この特異な生態は他のあらゆる哺乳類とまったく異なります。近縁の類人猿とも共通点がありません。類人猿は一見すると人類と似たような社会性を有し、学習によって暮らしを支えているように見えますが、彼らは哺乳類として極めて進化した動物であり、彼らが生活している環境にふさわしい形質の特殊化を果たしています。形質的に成熟しておらず、知性と技術力で未発達な形質を補完している人類とはまったくちがうのです。
 筆者は人類という奇妙な動物種がいまだに哺乳類として分類されていることの意味が解らないのですが、それはまた別の機会に論じるとして、本章では現在が人類の時代であり哺乳類の時代は終わっているのだということを結論づけるにとどめておきましょう。

人類の進化

 新生代後期、今から500万年〜350万年前に出現したアウストラトピテクスという完全2足歩行動物が勢力を増して来る頃、進化的な大型哺乳類すなわちウマ、サイ、バクといった奇蹄類や、ゾウやクジラ等は急速に衰退して行きました。哺乳類は全盛期を終え、最も進化的な大型動物たちは姿を消し、爬虫類や両生類と同様に小型多様化の時代に入りました。
 地質時代的には、氷河時代と言われる地球の両極に巨大な氷床が存在し、それが大きく発達する氷河期と、現在のように比較的小規模になる間氷期を繰り返す時代へと移行して行きます。
 哺乳類と人類の交代劇は、両生類と爬虫類、爬虫類と鳥類、哺乳類の置き換わりとそっくりです。先代の動物群は進化的なものがことごとく消去され、動物群全体として支配力を失い、新しい動物群がその空席を埋めるべく地球規模の拡散を開始します。
 現在の生物分類学では人類は、ゴリラ、チンパンジー、オランウータンといった類人猿と共に、哺乳類の一員である霊長類の中のヒト科に含まれますが、だとすれば哺乳類と政権交代したのは、哺乳類の一員ということになります。これはひじょうに奇妙で前例のないことです。哺乳類の全盛期に終止符を打ち、哺乳類と置き換わって支配的位置付けを獲得した者を、どうして哺乳類と呼べるのでしょう。これでは哺乳類の分類そのものが否定されているようなものではないでしょうか。哺乳類支配の時代がまだ続いているというなら、進化的哺乳類たちが滅びに瀕する必要はなかったのでは?
 筆者には、人類がどうして哺乳類に分類されているのか、その意味が解りません。遺伝子的にはヒトと類人猿は極めて近縁なのでしょうが、人類になってから獲得した新要素は、あまりにも哺乳類と掛け離れています。2足直立を基本姿勢とし、骨格から内蔵の付き方まで変更してしまった哺乳類なんて他に存在しないし、言語を持ち文明を発達させた哺乳類もいません。首も座らない胎児状態の子供を産み、生活様式のほとんどを本能ではなく後天的な学習に依るなんて動物も哺乳類には存在しません。人類が進化的な哺乳類であると言うなら、人類よりもさらに優れた形質の特殊化を顕現させ、新生代を担ってきた彼らはいったい何だったのでしょう。彼らはデカイだけの無能力者で、今こそが真の哺乳類の実力者の出現であるというのでしょうか。

 新生代の哺乳類全盛期には、類人猿も進化的哺乳動物としてこの世の春を謳歌しました。ドリオピテクスやギガントピテクス、シバピテクス、ラマピテクスといった類人猿は、現生のチンパンジーやゴリラよりももっと進化的な動物で、密林の王者の地位を欲しいままにしていたでしょう。その中で人類の祖先型となる類人猿は、樹上生活から草原生活へ移行しつつありました。新天地を目指したフロンティアスピリッツあふれる行為であると言いたいところですが、実際には他者との競合を避け、貧しい辺境の森へ逃れ、そこからさらに荒廃した荒れ地に逃げ延びた敗残者だったというのが本当のところでしょう。
 荒野での暮らしは飢餓との戦いであり、森とはまったくことなる環境で外敵から身を守るのも容易ではなかったでしょう。彼らは大変な試練を経験し、その中で知性を育んで行きました。強靱な武器も防具も持たない彼らの生きる術は、知恵と団結力だけでした。そしてやがて、この異端児の中から人類の祖先が分化して来たのです。
 初期の完全2足歩行動物は、猿人と呼ばれることもありますが、その中で最も有名でかつ多数の"種"を含むのがアウストラロピテクス属です。この仲間は500万年以上前に出現し、150万年前頃まで棲息していました。チンパンジーに似た容姿で身長も120cmていどでしたが、基本姿勢が2足直立で、走る時もチンパンジーのように4つ足になることはなく、前足は手に特殊化していて、狩猟や採集のために様々な道具を使いました。アウストラロピテクスの後期のものでは、石器を加工していたとも言われています。
 そして、アウストラロピテクス属の中から、現代人を含むホモ属の仲間が分化しました。ホモ属に含まれる仲間は、今から約230万年前頃に出現し、様々な種が分化しましたが、1万年前までにすべて滅亡し、現在まで生き残っているのはホモ・サピエンス1種類のみです。ホモ・サピエンスは今から約25万年前に出現しました。それから数千年前まで、石器人として勢力拡大を続けて来たのですが、その後急激な文明発達時代に突入し、現在のエレクトロニクス時代に到っています。

 人類が直立2足歩行動物に至る道のりはひじょうに長く、今から3000万年以上むかしにテナガザルの祖先が出現し、サルの仲間は前足で枝をつかんで森林を移動する方法を獲得したのですが、このぶら下がり移動がサルの直立姿勢の起源だと思われます。腕渡り(ブラキエーション)という移動方法は、サルの前足を長く強靱にしてゆくとともに、体の大型化にも貢献しました。これまで多くの霊長類が前足を手のように使用していましたが、それがさらに進化して手でありながら移動手段にもなったおかげで樹上で大きな体を支えやすくなり、大型のサル類が次々と分化して行ったわけです。
 テナガザルの仲間から、やがて類人猿類が分化してきますが、彼らは大型で最も進化した樹上動物として森林に君臨しました。その最たる仲間が現生動物を残すオランウータン類です。
 しかし彼らの繁栄とは逆に森を追い出され、平地生活に適応して行く仲間が現れます。平地では長い前足と短い後足が原因で頭が比較的高い位置に維持されました。また腕渡りの習慣から直立姿勢も得意だったので、必要に応じて後足で立ち上がったり、尻をついて座ったまま休んだりといった行動をよくとったでしょう。ゴリラの仲間は、地上でかなり早く走ることができますし、後足で立ち上がって遠くを見渡したり敵を威嚇したといった行動も得意です。
 これがチンパンジー類になるとかなり身軽になり、再び樹上生活に適応して行きます。樹上の方がやはり収穫も多く魅力的です。地上生活に適応した類人猿の中でも、比較的身軽な種が樹上へ生活圏を広げたのです。チンパンジーの仲間は、樹上生活者でありながら地上での4つ足走行もかなり俊敏にでき、行動範囲が広く、ひじょうに大きな群れを形成することもある、卓越した社会性を発
揮するようになります。高度な社会生活を行なうことと、行動範囲が広く樹上や地上やさまざまな場所を渡り歩くこと、これはこれまでの進化的な動物たちが限定的な環境に適応して進化し続けたのに比べるとひじょうにユニークです。
 そしてその中から今一度地上生活を目指すものが現れます。これが人類の始祖となった動物で、容姿はチンパンジーとあまり変わらないものの、体の構造が徐々に地上生活のみに特化して行き、木登りのために枝をつかみやすい構造だった後ろ足は、大地を力強く蹴って走行したり跳躍したりするのに適した単純な構造へと変わって行きました。人類の祖先は木から降りることによって2足歩行の能力を得たとよく言われますが、彼らが後足による2足歩行を得るまでには、テナガザルの仲間がぶら下がり移動によって直立姿勢を獲得し、ゴリラ属が地上生活への適応力を得るといった度重なる前適応のたまものでした。
 チンパンジー属から分化した猿人の中でも有名なのがアウストラロピテクスですが、最古の猿人はアルディピテクスだそうです。いずれもチンパンジータイプの人類としては華奢で小型の動物で、脳の容量もチンパンジーとあまり変わらず、ただ2足歩行に適した骨格をすでに持っていたそうです。つまり人類のヒトとしての最初の特殊化は、2足歩行のための骨格の変更であり、その後大容量の脳が発達したということになります。現生人類は類人猿と比較するとひじょうに大容量の重い頭脳を持っていますが、2足歩行に適応した骨格が備わっていなければ脳の大型化はかなわなかったでしょう
。類人猿を含めすべての哺乳類は首の骨が後頭部から出ています。これは爬虫類や鳥類、両生類でも同じです。ところが人類は直立姿勢で大きな脳を下から支えるために、首の骨は頭の下に生えているのです。人類と他の動物が決定的にちがうところがこの点です。従来型の動物は脊椎を棒にたとえると、基本姿勢は棒を横にした状態で、その先端に頭脳がついていますが、人類では棒を立てた状態の脊椎のてっぺんに頭脳が位置しています。重い脳を支えるのにどちらが有利か言うまでもありませんね。
 これまで動物にとって直立するというのはひじょうに困難なことでした。多くの動物が必要に応じて一時的に後足で立ち上がりますが、全力で走行する場合は4足歩行になります。鳥類は静止している時は直立姿勢ですが、飛行は頭を前にして腹這い姿勢になります。チラノサウルスなどの肉食恐竜も常時2足歩行ですが、彼らは尾と頭部でバランスをとりながら腹這い姿勢で2足立ちしています。直立2足歩行は姿勢を維持するのに高度なバランス能力が必要で、それでも転倒してダメージを受ける危険性は4足よりずっと大きいです。加えてお腹を無防備に露呈し、格闘になった場合もかなり不利です。他の動物たちにしてみれば、人類が幾多のハンデを負いながら2足直立姿勢を維持していることは実に奇妙に見えることでしょう。
 しかし我々人類にとっては、重い脳を支えたまま4足歩行をすることの方がずっと大変で、直立2足歩行で前足を手専門に使う方がずっと機能的で便利ですよね。
 2足歩行は、前足を道具を使用するための手に変えましたが、類人猿もじつは器用に手を用います。我々にとって2足歩行と直立姿勢の必要性は、知性と文明の源である大容量の脳を発達させるためにこそ必要でした。頭脳を大きくせずとも器用な道具の使い手になれるなら、腰痛や肩凝りや痔の要因を作ってまで直立する必要はなかったわけです。
 人類がどのようにして2足直立姿勢とそれに伴う骨格や臓器の変更を獲得するに至ったのか、そして高度な文明に至る知性をどのようにして獲得したのか、その謎はあらゆる生物進化のシーンで最も大きな謎です。アウストラロピテクス属は今から約500万年前に出現し、300万年以上の長きに渡って存続し、数々の種を残していますが、その最も新しい種では石器を使用していたそうです。そして約250万年前には頑丈な体躯と大きめの脳を持つパラントロプス属と、ホモ属を輩出しています。
 最も原始的なホモ属は約230万年前に出現しているそうですが、それから現在に至るまでの200万年ばかりの間に10種類以上のホモ属が分化しています。原人の名で知られる数多くの原始人の化石が世界各地で見つかっているのです。彼ら原人は、猿人よりもさらに優れた道具の使い手で、その繁栄が哺乳類の時代の終焉をもたらしました。そして今から約25万年前に真人すなわちホモ・サピエンスが出現しています。サピエンスの直近の旧人ホモ・ネアンデルタレンシスは数万年前までサピエンスと競合しながら生きていたようですが、けっきょく最後に文明を築いたのはホモ・サピエンス1種でした。
 人類というニュータイプも、猿人や原人(ホモ属)の時代には、先代の哺乳類のように種の分化を展開して行ったのですが、哺乳類のようにそれぞれの環境に応じた特殊化を計ることはほとんどありませんでした。華奢型やがっしり型、皮膚の色や体毛の差異といった変異は生じたものの、ゾウのように鼻が伸びたり、キリンのように首が伸びたりすることはありませんでしたし、ポセイドンのような巨人も、マーメイドのような水棲動物も、ある種の魔属のように背中に羽を持つ飛行能力者も分化しませんでした。直立2足に長け汎用性に優れた、形質的には大差のない同形同類ばかりが輩出されたのです。高度な社会性と卓越した道具の使い手である彼らには地域限定の特殊化はむしろ邪魔なだけでした。そして最終的には1種の真人に集約され、すさまじい火力とエレクトロニクスを扱う存在へと進化したのでした。

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索引


目次

スネさん リーザさん けもの 庭虫
雑虫 クモ 直翅系 半翅系 膜翅系 鱗翅系 鞘翅目 毒虫 魚たち 無脊椎
両生類 カメたち 絶滅動物 くさばな 庭草 雑草 高山植物 飼育と観察 ヒト □飼育動物データ




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